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5年後に退職する新卒サラリーマン【第一章】 (5)



その日、安斎は、東京ビッグサイトで行われていた「合同企業説明会」に参加していた。

いわゆる「合説」というやつである。

これも、久保田ちゃんの助言によるものだ。




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「安斎さ、とりあえず『合説』行ってみたら?」



・・・『豪雪』?
確かに、自分、東北の雪国生まれッスけど・・・今年は例年に比べて雪が少ないって母さんが・・・」

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「・・・お前、ふざけてんのか?」



・・・???




「ハァ・・・
なんでお前みたいなアホが、TOEIC 950点でトリリンガルなのか、俺にはさっぱり分からないよ。

とにかくさ、もう大学3年の12月だ。
もうインターンはほぼ全部終わってるし、俺ら『クサ大』みたいな田舎のショボい大学には企業のリクルーターなんて来ないから、自分から説明会とかに参加するしかないだろ?

とりあえず、雰囲気分かるから、行って損はないよ。




「・・・はい。久保田先生。行ってみます。」





正直言って、安斎には、就活というものが全く分からなかった。


就職活動と言っても、一体、どこで、どんな「活動」を、どんな感じのテンションで繰り広げればいいのか、さっぱり分からずで、

香港から帰ってきて、この1週間はとりあえず、YouTubeで某有名人が語る「好きなことを、仕事に。」的な動画を見漁っていたが・・・



「安斎、それ就活やない。クソニートや。」


と久保田ちゃんに言われて、やっと気が付いたのだった。



TwitterやYouTubeなどのSNSで「就活」の情報を集めるなんて、相当にバカげているということに。



確かに、SNSに無数に転がっていたのは、

「内々定獲得多数の就活応援オンラインサロン、入会はこちら!」など、明らかに胡散臭い就活生を食い物にしたビジネスや、

「面接の最後の逆質問では ”今日の私の面接のフィードバックをください”と言えば確実に高評価!」みたいな完全に意味不明な情報ばかりで、

たぶん、時間の無駄でしかなかった。




中には、「自分のお気に入りのガクチカのフレームワーク」について学生に語っている先輩若手社会人までいた。

一体なんだ?「ガクチカのフレームワーク」って?

しかも何だ?お気に入りって?
誰目線なんだ?



そうすると・・・同じような感じで「履歴書のエビデンス」とか「OB訪問のアジェンダ」とか「集団面接のジャストアイディア」とか「最終面接のロマンティックラブ」とかもあるのだろうか・・・??

そして、そんな胡散臭いビジネスに大量に群がる、「○○卒」とアカウント名に付けた、あまりにも意識の高すぎる大学生たちの姿を見て、なんだか、安斎は、怖くなった。



・・・何これ?

就活って、どういう戦いなんだ?一体。




ますます「就活」について、訳が分からなくなってきたところで、安斎は、

「安斎、それ就活生やない。養分や。」

という久保田ちゃんの言葉でハッと我に返り、そっとTwitterを閉じたのだった。




久保田ちゃんは身長199cmあるバケモノだし、その割に運動神経ゼロで、彼女はめっちゃブスだけど、根はすごく良い奴だ。

TwitterやYouTubeでインフルエンサーが語る希望に満ちてキラキラした言葉より、去年の就活をくぐり抜けてメガバンクの内定を手にした同級生の久保田ちゃんの辛辣で現実的な言葉の方が、今の安斎には、よっぽど信頼できた。




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ここが・・・東京ビックサイトか。

安斎が住む埼玉県大宮市から、電車で1時間ちょっと。
東京都江東区有明にそびえ立つ、巨大なパンティーみたいな建物。

初めて来たな・・・。

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しかし・・・

この大手人材企業主催の「合同企業説明会」、たしか「服装自由」って書いてたはずだけど・・・

周りを見ると、自分と同い年くらい、20代前半と思われる大学生、その数、数百人・・・いや千人以上はいるな。

その全員が、「スーツ姿」だった。




おかしいな・・・
みんな、そんなに「私服に自信が無い」のかな???


ユニクロのカッコいいジーンズとパーカーに身を包んだ就活生・安斎は、周りから完全に変な目で見られていることには全く気が付かないまま、会場入り口に着いた。



「こちらが受付となります。
申し込み番号と、履歴書の提出をお願いいたします。」



「り・・れき・・・しょ???」



就活生・安斎響市に降り注ぐ大いなる試練は、まだ、始まったばかりだった。




つづく




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