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type C

2021.8.18 10:47〜2021.09.13

 俺は自宅マンションの屋上で少し複雑な笑顔を作って見せた。別れはいつだって複雑な気持ちで、一人一人物語が違うからこそこの感情に名前などつけようがない。雲はいつもより立体的で、まるで3D映画でも見ているかのように俺の目と心には『空』その一点しか映っていなかった。俺は大空の下、大の字に寝転がり、静かに目を閉じた。君と出会ったのはいつだっただろうか…。現実とは異なる場所で思い出のスクリーンが俺の身体と心を優しく包み込んだ。

あれは確か中学3年の夏の終りごろだった…。蝉の声も疎らに散りばめられ、暑くも心地良い、落ち着いた季節感であったことを覚えている。毎日一生懸命に続けた部活動も夏の最後の大会が終わりを迎え、季節と同様に俺の日常にも平穏な日々が訪れようとしていた。そんなある日のこと、小学校から仲の良いGは給食終わりの休み時間に声を掛けてきた。「学校終わったらうちで遊ぼうぜ!」もう部活もないし、断る理由はない。「いいよ!」と返事をした。思えば幼少期から今現在まで周りには何かに打ち込み結果を残したすごい奴かイかれた奴しかいなかった。そんな友達と馬鹿やって遊んでいるのが今でも至福の時間だ。そんなこんなで一度家に帰り、G宅へ向かった。Gの家に入るのは久しぶりだ。両親は仕事へ出ているため今ここは俺たちの空間。小学校ぶりだろうか。懐かしい感じと、Gの適当さとは裏腹に綺麗に片付いた部屋。各部屋は窓が開いていて、新鮮な空気が流れ込んでいる。そこが初めて君と出会った場所だった。そこには俺とGを含めて他にも仲の良い連中が数人集まっていた。なんとも賑やかだが世間から見れば窓際な人の集まり。でも俺はそこが好きで、そいつらに追いつきたくてずっと走ってきたのかもしれない。そこに君はいた。初めましての挨拶なんてお互いに知らなかったのかもしれない。言葉なんて必要ないのかもしれない。君はなんの前触れもなく俺の唇を奪った。初めての感覚だった。その後のことは正直あまり覚えていない。とにかく衝撃が身体中に駆け巡るとともに、ほろ苦い後味となんとも表現し難い脱力感を残してその日君は俺の元を去って行った。その日からだろう。たまに頭の中に君のことが、あの日のことが浮かぶようになった。「君にもう一度会いたい」もしかしたらそんな思いがあったのかもしれない。それからというもの度々Gたちと遊ぶ回数が増えていった。けど君にいつでも会えるわけではなかったのを今でも良く覚えている。そんな二人の距離感がここまで複雑な依存というのか愛というのかそういった形になって今でも関係を続けさせてきたのかもしれない…。

 君と向き合うのが嫌で他のことで気を紛らわして見たり、また君と愛し会いたくてなってしまったり。考えてみればかれこれもう13年の付き合いになるのか…。愛があるから一緒にいて、愛があるからぶつかりあって、愛が無ければどうでも良くて、愛が無ければ君との今は存在しなくて…。出会いこそ衝撃的で最悪な始まりだったけど、俺と君との間には確かにあったんだ。強く柔らかく、しっかりと支え合えるような確かな愛が…!楽しかったあの日々も、辛かったあの日も、幸せだなぁと心から感じるあの瞬間も、全てを投げ出したくなるようなあの夜も。いつも隣には君がいて、一緒にいられる、それだけで幸せだった。

  いつからだろう…。喧嘩も多くなり、君のことを疑ったり、一緒の時間を過ごしても尚、幸せを感じられないでいる日々。俺が海外に行くと決め、距離をとったこともあったっけ。それでもまた引き寄せあっては寄りを戻し、ここまで一緒に旅をともにしてきたんだ。これを愛と呼ばずして何を愛と呼ぶのだろうか。けどお互いに気づいてたんだ。それぞれの道があるって、一緒にいることだけが愛じゃないって。だから、、友達!友達になろう!たまにあってお互いの旅の話をしよう!一生なんて言葉使わなくたって、会いたいときに会えばいい!俺のそばには君がいて、君のそばには俺がいる。大丈夫!決して一人じゃないから!…………

 目を開けるとそこには見覚えのある真っ白な天井が写っていた。夢?過去へ行っていたのか…?ともあれ君にまた会えてよかった!俺は物事を0か100かで見る節があったんだ。君と別れ、もう会うことはないと決めきるか、ずっと一緒にいるか…。違ったんだ。答えはAでもBでもなくってCだったんだ!って。無数にある選択肢の幅を自ら狭めていたんだね。これは君との関係だけに限らない。この世界全てに言えることなんだ。君と俺との間にあるもの。目には見えないけど確かにあるもの。それはこの世界の全てであり、本当に大切なことを俺たち人間に教えてくれるんだ。

 …そういえば君の名前の頭文字もCだったね。

 こんな状況下の今だからこそ…「愛」この言葉を考え直させてくれたんだね。有難う。感謝しているから、愛があるから、ここに君との思い出を書き記したよ。

 この世界に正解などない。時には3番目の選択肢があったっていい。

 全ては君が教えてくれた。

 「そうだよ。何事もほどほどにね…!」

 type C


藤田 恭平


 

 

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