弔辞 ぼくはどう生きるか

おじいちゃんが死んだ。
96歳だった。

90歳を超えても農業を続けていて、めちゃくちゃ元気だったのに、95歳を超えてくらいから急に足が悪くなって、毎日這ってご飯を食べに来て、結局デイサービスをお願いして、トイレもままならないから介護施設に入った。

最初は元気だったのもあってめちゃくちゃ嫌がってたみたいだけど、施設に入って友だちがたくさんできて、次第に昔よりも笑顔を取り戻して、晩年は施設で1人でコントとかして笑いを取っていたらしい。

そんなおじいちゃんで、元気にしてるって聞いていたのに突然死んだ。
遺影は死ぬ経った3週間前に、介護施設で誕生日会を開いてもらった時に撮った笑顔のおじいちゃんだ。

昔から耳が聞こえにくくて、ぼくが物心ついたときにはほとんど聞こえなくなっていた。
でも毎日笑顔で、何か話してても耳が聞こえないから困っちゃうなあと大笑いして話してくれた。

ぼくが小学生の時、今から17年も前におばあちゃん、おじいちゃんの奥さんが死んだ。
おじいちゃんは耳も聞こえなくて、愛する人もいなくて10年以上も1人で生きてきた。

耳が聞こえないことでみんなに気を遣わせたくなくて、家には住まずに、目の前の倉庫にある6畳の作業部屋で寝泊まりして、昼ごはんは自炊して、夜ご飯だけ食べにくる生活をしていた。

今ある家の前は、おじいちゃんが建てたものだった。元々プレハブ小屋みたいな所謂貧乏屋敷だったらしいけど、ぼくのお父さんの友だちが家を見て馬鹿にしたらしく、それを知ったおじいちゃんはお金がないのに立派な家を借金して建てた。

そんな優しさは息子にも遺伝して、僕のお父さんはぼくが小学2年生の時に、とんでもなく立派な家を建ててくれた。もちろん40年近くローンを組んでの事だけど、その家で友達を毎日のように呼んで遊んでいた。
今はお父さんとお母さんの2人暮らしになってしまった。

お父さんはもちろんおじいちゃんとおばあちゃんの部屋も用意したけど、2人とも拒んだ。6畳の作業場から出ようとしなかった。
介護とかで迷惑をかけたくないからだ。

おばあちゃんはリュウマチでベッドから動いてるのを見た事がないけど、その分お手伝いをしてお金をもらったりしていた。

おじいちゃんの話に戻すと、おじいちゃんは昔東京でカバン職人になるために修行していたらしい。25歳くらいで実家の愛知県に戻ると、しばらく農業をして、会社に勤めて定年まで働いたらしい。

全てらしいだ。ぼくが生まれた26年前にはもう70歳で、耳が聞こえない農業してる普通のおじいちゃんだった。

でも、手先が器用だったことは覚えていて、子どものために竹トンボを作ってくれたりとか、凧揚げの凧も本格的なものを作ってくれた。

お兄ちゃんが小学生の時には、学校で流しそうめんをする為に竹を切って、加工して、手作りの流しそうめんをトラックで持っていったらしい。

嫌な思い出はほとんどない。
あるとすればそのほとんどが耳の悪さと優しすぎる性格のせいだ。
優しいから、良かれと思ってコンビニとかで何かを買ってきてすぐにくれる。耳が聞こえないからいいよと言っても押し付けてくる。

素敵なおじいちゃんだったのに、ぼくは大学で愛知を離れてからほとんど会えてなかった。
前職の販売業で働いていた時は、長期休みも取りにくかったから転職するまでの3年間は愛知に帰ることもなかなかなかった。

たまに帰った時は、東京のどこで働いてるんだ。おじいちゃんも昔働いてたよ。と地図を持ってうれしそうに話してくれた。

そしてその会えない期間にぼくの周りは急激に弱っていった。
お母さん側のおじいちゃんとおばあちゃんも認知症になって、おじいちゃんは介護レベル4らしい。
もうほとんど目も合わないし、足も弱って毎日辛そうだ。
つい3年前まで一緒にたくさんお酒を飲んでいたのにだ。

こんな人生は意味がないと、転職を決意した。

そこからは友人の結婚式にも出れるようになったし、年末年始は親戚とお酒を飲む事ができるようになった。

ぼくにとって大切だったのはグローバルな会社で人材開発なんかじゃなかった。

身近な人とお酒を飲んで、面白いって言われることが何よりも嬉しい。
あの無駄な時間が何よりも尊い。

お父さんがおじいちゃんに向けて送った弔辞が印象的だった。
「本業の農業は出来が悪かったけど、いつも笑顔で子どもに接して、最後は介護施設で仲間に囲まれてストレスなく死んでいった。」

ぼくは今死んだらどんな弔辞をもらうんだろう。96歳まで生きたらどんな弔辞をもらうんだろう。
人生で社会に何を残すんだろう。
そしてそれに対する最後の答えはなんだろう。

今はまだ中々会えない健ちゃんと呼ばれて、帰ってくるだけで感謝される存在だけど、
数々の無駄な時間を生み出して、その時に生まれた爆笑エピソードをみんなが泣きながら語って欲しい。
そんな弔辞に囲まれて死にたい。

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