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愛されるプロダクトを作るために、新規事業の構想段階で『ブランドDNA』を考えておくべき理由

こんにちわ。dotD山中です。2回目の更新です。自己紹介を書いたっきりにならなくて、ホッとしています。

今回は、dotD社内で評判を聞きつけて読んでみた、
『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』
が事前の期待以上に示唆深かったので、その内容に自分なりの考察を加えながら、新規事業担当者向けに構想段階からブランディング的な視点で物事を考えることの重要性をお伝えしたいと思います。

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注意:
・要約ではありませんので、同書の内容を正確に理解したい方は、一読をオススメします。すらすら読めます。
・書影は共著者のウェブサイトから引用させて頂きました。
・「自分なりの考察」とかっこつけましたが、前職の同僚と実施している読書会から多分にインスパイアされたことを予め白状しておきます。

前提として:新規事業作りに関する私の考え

同じ内容でも、どんな視座から、どんなレンズを通して眺めるかによって感じ方は大きく変わってくると思うので、初めに簡単に自分のことを書きます。

詳しくは前回の自己紹介記事に譲りますが、私は丸10年のキャリアの半分以上を新規事業作りに費やしてきています。
はじめはコンサルタントとして、その後2つのスタートアップの事業企画・事業開発のリード的な立場として。
MBA的な内容から、最近のアート思考・デザイン思考・リーンスタートアップ・アジャイルといったものまで、色々な方法論をそれなりの熱量で研究・実践してきました。

基本的には「リーンスタートアップ」信者で、事前計画的なやり方よりは創発的なやり方を好みます。
机上の空論に時間を浪費しないように、クイックに仮説を構築し、MVPを用いて検証を繰り返し、その過程で得られた学びで仮説をどんどん更新していく。そして、いきなり規模拡大といった「虚栄の指標」を追求するのではなく、少数でも自分のプロダクトをloveになってくれる人を作る...みたいな。

初期の構想段階ではリーンキャンバス程度のフレームワークで考えれば、ある程度の論点はカバーできると思っています。もちろん表層的になぞるだけではダメで、各要素やその連動性を深く考える必要はあるのですが。
(コンサル時代はフレームワークを表層的になぞるだけの検討を「フレームワークの塗り絵」と言って揶揄していました)
(蛇足ですが、私はフレームワークの構造としてはビジネスモデルキャンバスの方が美しいと思っています。ただ、新規事業の初期段階ではリーンキャンバスの方が絞りが効いていて適切だと思っています。)

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出所)leanstack.com

誰かに構想を説明する必要がある時は、シードピッチ(シードステージのスタートアップが資金調達を試みる際にVCに対して実施するプレゼンテーション)程度の内容を簡単に資料化すれば十分だと思っています。例えばこんな感じ

私の新規事業作りに関する基本的な考え方は以上のようなものです。ラフではありますが、何となくお分かり頂けたんじゃないかと思います。

構想段階で『ブランドDNA』を考えておくべき理由

そんな私ですが、『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』を読んで、「ブランドDNAは仮説セットの一つとしてなるべく初期段階で検討しておいた方がよいな」と少し考えを改めています。

なぜか。

『ブランドDNA』が、自分のプロダクトのファンを作ることを目的とした本質的なフレームワークであり、科学的・論理的に構築された他のフレームワークにない視点を提供してくれるからです。

以下では、ごく簡単にではありますが、同書から引用しつつ、『ブランドDNA』の概念やその前提となる「ブランディング」について解説します。

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ブランディングとは何か?

普段何気なく「ブランド」「ブランディング」という言葉を使っていても、改めて「それどういう意味ですか?」と問われるとうまく答えられない方も多いんじゃないでしょうか?

私もその一人でした。本題の『ブランドDNA』の解説に入る前に、まずはそのあたりを押さえておきましょう。

同書では「ブランド」という単語を、アメリカン・マーケティング協会から引用しながら、以下のように定義しています。

A brand is a "Name, term, design, symbol, or any other feature that identifies one seller's good or service as distinct from those of other sellers.
(ブランドとは、商品やサービスを競合他社から明確に区別し識別させるための、名称、言葉、デザイン、シンボル、その他の特徴である)

そして、「ブランディング」とは、
企業価値・事業価値(=機能的価値+情緒的価値)を構成する情緒的価値を高めるための、五感的要素を駆使した戦略的コミュニケーション
であり、その目的を、平易な表現で「ファンを作ること」だとしています。

一方で同書では、「広告」の目的は「売ること」(買ってもらうこと)にあるとしています。

相手に購入という明確なアクションを期待して実施する「広告」と、
何はなくてもファンになってもらう(つまりは、ただ好きになってもらう、愛してもらう)ための「ブランディング」という対比
です。

シンプルで非常にわかりやすい。そしてとても本質的です。

いまいち「ファンを作る」という言葉がピンと来ない方は、以下の図を見てみるとイメージが湧くかもしれません。P&Gが用いていると言われるbrand arcというフレームワークです。
これによると、ブランディング(=ファンを作る)というものは、ブランドが「exists(ただ存在しているもの)」から「defend(何があっても守ってあげるもの)」まで顧客・ユーザーからの見え方を高めていくことだと解釈できます。そしてこれは私の勝手な感覚ですが、brand arcの第4段階「represents me(私が何者であるかを定義することを助けてくれるもの)」あるいは第5段階「forgive(何があっても愛するもの)」まで来ると胸を張ってファンと言える状態なのだろうと思います。
これが「ファンを作る」ということです。

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出所)pinterest.com(Barbara Taylor)

ところが、通常の新規事業の構想は、どうしても提供者視点で「売ること」を強く意識した検討になりがちです。

それを回避するための有力なツール・思考法として、デザイン思考があるのですが、大抵の場合はペルソナや共感マップ、ジャーニーマップといったフレームワークの表層的な塗り絵に終始してしまうことに違和感を持っていました。

(注:最終的に「売ること」が目的になることに一切異論はありませんし、デザイン思考は顧客・ユーザー視点で物を考えられる人にとって非常に有用なツール・思考法であることも一切疑ってはいません。)

そんな中で、この後ご紹介する『ブランドDNA』は、ファンを作るための、新規事業の基礎的な設計図として非常に有用なものなのではないかと考えるようになりました。

前段の中で特に関連する部分を引用すると...

そして、いきなり規模拡大といった「虚栄の指標」を追求するのではなく、少数でも自分のプロダクトをloveになってくれる人を作る...みたいな。

これを実現するための検討フレームワークとして有用なものだと、私の目には写ったということです。

『ブランドDNA』とは何か?

本題の『ブランドDNA』の解説に入りましょう。

同書では、ブランディングの過程で生み出される制作物をブランド・コラテラルと呼ぶのですが、そのブランド・コラテラルの中枢、あるいは基礎として、『ブランドDNA』とビジュアル・アイデンティティ(両者を総称して、ブランド・システム)を位置付けています。

DNAがよく「生命の設計図」と喩えられることになぞらえて、
「ブランディング活動ないしは制作物の大元となる設計図」ということで、
『ブランドDNA』
と名付けたのではないかと想像しています。

そんなブランドDNAは以下の14個のフレームワークからなる、フレームワーク集です。

1. ターゲット・オーディエンス...「この商品/サービスはどういう人が買う/利用するのか?」
2. プロダクト・ベネフィット...「なぜ、消費者はこのブランドの商品/サービスを選ぶのか?」
3. ブランド属性とブランド価値...「このブランドは消費者や社会にどんな価値を提供できるのか?」
4. ブランド・パーソナリティ...「このブランドの人格はどんなものか?」
5. ブランド・ビジョン...「このブランドは何を目指しているのか?」
6. ブランド・プロポジション...「このブランドはどんなブランドか?」
7. 市場での位置づけ...「このブランドは、競合の中でどこに位置しているか?」
8. ブランド・プロミス...「消費者や社会は、このブランドに何を期待できるか?」
9. ブランド構造...「このブランドはどういう構造をしているのか?」
10. ブランド・エクスペリエンス...「このブランドではどんな体験ができるか?」
11. トーン・オブ・ボイス...「どういったトーンの語り口、言い回しでブランドを表現するのか?」
12. ブランド名称...「このブランドの名称は?」
13. ブランドストーリー...「心に響くブランドのストーリーは何か?」
14. タグライン...「このブランドの世界観を一言で表すと?」

ブランディングって基礎となる設計図だけでこんなにたくさん考えることがあるようです。「プロは直感だけでやってるわけじゃないんだ」と素直に感心しました。(ちなみにビジュアル・アイデンティティについてもまた別途7つのフレームワークが提示されています。)

新規事業担当者として一つひとつを眺めていくと、さして目新しくない項目も多いなと感じられるかもしれません。私がどこに新鮮味を感じたかというと、以下の4点です。

①価値を考える際に機能的側面だけでなく顧客・ユーザーの感情的側面まで配慮するように仕向けられている:
かねてから「価値は顧客・ユーザー側が自分が取りうる選択肢の中で相対的に知覚するもの」だと考えてきたのですが、現実の検討ではどうしても「自分たちが上手にできること」を価値として考えてしまいがちです。あるいは、機能の最大公約数的な表現を価値として定めるようなケースも多いんじゃないかと思います。
その点「3. ブランド属性とブランド価値」は、機能的側面に加えて感情的側面にまで目を向けてから価値を抽出するようにフレームワークが作られており、目から鱗が落ちる思いでした。
自分の事業で試しに使って考えてみたのですが、感情的な側面にまで目を向けることで、機能的側面のみから考えた場合とは一味違う価値が定義できますし、一段と深みがあるものになるような感覚を覚えました。

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3.ブランド属性とブランド価値(当社での検討例)

②ブランドが醸し出す雰囲気・距離感を人物に例えさせる:
この手のことを「親しみやすい」「誠実である」といった言葉で議論・整理することはあったのですが、どうしても綺麗な言葉の投げかけ合いになったり、そのワードが意味するところが結局人によって違ったり...という結果になりがちでした。
4. ブランド・パーソナリティ」で、チームメンバーの共通認識化を強固にするために、みんなが知る人物に例えるというのも目から鱗でした。
これも試しに作ってみたものを画像で貼ってみます。事業の内容はわからずとも、「信頼できる」「口うるさくない」という単語で表現するよりも、キャラクターを介することで、直感的に言わんとすることが伝わるのではないでしょうか。そうだとしたら、新規事業を推進するチームないしは社内の認識を揃えるという観点で、とても有効なツールなのだと思います。

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4. ブランド・パーソナリティ(当社での検討例)

③顧客・ユーザー視点と自社視点を掛け合わせてブランドの「テーマ」を考えさせる:
新規事業検討時にミッションやビジョンを設定し、チームの「北極星」として掲げるのはよくあることだと思います。
しかしながら、同書ではビジョンはあくまで自社の想いであって、「ファンを作る」という目的に対する北極星としては不十分だと考えているようです。
そこで、登場するのが「6. ブランド・プロポジション」です。
ブランド・プロポジションとは、「1.」の顧客・ユーザー視点で考え抜かれた「2.」~「4.」と自社の想いとしての「5. ブランド・ビジョン」を掛け合わせて言語化した、ブランドの命題(テーマ)*です。
ファンを作るという目的に立ち返ると、自社の想いだけでは不十分で、顧客・ユーザーの視点と重ね合わせて初めて追い求める意味が生まれる、というのはとても示唆深いポイントだと感じます。

*「プロポジション」というのも、ビジネスモデルキャンバス("Value Proposition"という要素がある)の流行以降、新規事業担当者が「何だかよくわからないまま慣用的に使っている」英単語の一つなんじゃないかと思いますが、改めてgoogle翻訳で調べてみると「命題」と出てきます。
ブランド・プロポジションは決して広告のキャッチフレーズではない点に留意が必要です。

④ファンを作る上で譲れないもの・踏み外してはいけないことを約束させる:
威勢はいいんだけど使ってみると散々...なんてことは新規事業あるあるだと思います。完璧を目指していたらいつまでもリリースできないですし。
ただ、一度ガッカリした人は二度と(と言うと言い過ぎかもしれませんが)戻ってきてくれないことも忘れてはいけません。
頑張って規模拡大しようとして、図らずも市場に不満を広めてしまった...、焼畑をしてしまった...という取り返しのつかない惨事を避けるために考えるのが、「8. ブランド・プロミス」です。
これは文字通り顧客・ユーザーに対するブランド側からの約束です。少し言い換えると、「これだけは期待してもらって大丈夫です!」と言える内容を予め言語化して決めておくということです。
これも「6. ブランド・プロポジション」とともに、新規事業の企画・開発を進める際のあらゆる場面で、越えてはならない一線として、全てのチームメンバーが強烈に意識すべきことだと思います。

終わりに

かなり長くなってしまいましたが、以上が、私が『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』を読んで非常に示唆深いと感じたポイントであり、新規事業の構想段階で『ブランドDNA』を考えておくべきだと考える理由です。

ただし、どんなフレームワークでも同じですが、
これを考えることが目的化されてしまい、延々と机上で検討し続けるのは違いますし、
一方で、表層的な塗り絵としてこれらのフレームワークを使ってしまうことも戒めなければなりません。

これらの点に留意しつつ、ぜひ次に新規事業を企画する際には、初期段階で『ブランドDNA』のフレームワークを使って検討してみてください。もちろん推進中の事業の見直し・共通認識強化の目的で使ってもらうのも大いにありだと思います。

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