司法修習における検察起案の書き方(備忘録)

 二回試験を終え、思考を整理するために書いたものです。これから修習を迎える皆さんの役にもたつものと思いますので、ご活用いただければ幸いです。
 なお、研修所の方針が変わることもあると思いますので、教官のおっしゃることを信じて、そちらを優先してくださいね。

はじめに

 検察起案はしっかりとした「型」があります。それに従って起案する必要がありますし、従わなければ点数は入りません。
 したがって、最低限「型」を再現できるようにしておく必要があります。そのためには、白表紙を繰り返し読んでおく必要があります。

 検察起案では、略語を使うことが許されています。例えば、被疑者を「A」とし、被害者を「V」と表記します。また、証拠関係も略語の使用が許されています。例えば、被害届を「害」、員面調書を「KS」、検面調書を「PS」と表記します。これらの略語は自分でオリジナルのものを作るのではなく、慣用されているものを用います。詳しくは、『検察講義案』の略語表を参照してください。
 ちなみに、起案の際には『検察講義案』を参照することが許されているので、暗記する必要は一切ありません。持ち込みが許されている関係で、『検察講義案』には書き込みはしないようにしておきましょう。


検察起案のアウトライン(「型」)

※単独犯の場合です。
まずは、この項目を覚えましょう!

第1 終局処分
1 公訴事実
2 罪名及び罰条
 
第2 犯人性
 以下、●を「A」、○を「V」と略記する。
 
1 犯人性検討対象事実の認定
 ⑴ 概要
 ⑵ 認定プロセス
 
2 間接事実
 ⑴ 間接事実1
  ア 認定した間接事実の概要
  イ 認定プロセス
   (ア) 事件・犯人側の事情
   (イ) A側の事情
  ウ 意味付け
   (ア) 間接事実からの推認
   (イ) 反対仮説
   (ウ) 反対仮説の合理性・現実性
 

※ 認定に用いる供述の信用性については随時検討します。
  
3 直接証拠
 
4 A供述
 ⑴ 認否
 ⑵ 変遷前供述の信用性
 ⑶ 変遷後供述の信用性
 ⑷ 小括
 
5 総合評価
 ⑴ 複合的間接事実
 ⑵ 間接事実からの推認
 ⑶ A供述も踏まえた総合評価
 
第3 犯罪の成否等
1 構成要件該当性
 ⑴ 構成要件・客観面
 〜罪の客観的構成要件要素は、①〜、②〜、…である。
 
  ア 要件①について
   (ア) 意義
   (イ) 事実認定
     A供述の信用性
     消極的証拠
   (ウ) 法的評価

 
 ⑵ 構成要件・主観面
 〜罪の主観的構成要件要素は、①〜、②〜である。
  ア 故意
   (ア) 意義
   (イ) 事実認定
   (ウ) 法的評価

2 違法性・責任・訴訟条件、罪数関係(省略可)

3 その他の犯罪の成否等
① 法律上、犯罪が成立しうるか、犯罪が成立しうるとして終局処分の対象としなかった理由
② 送致罪名と処理罪名が異なる場合は、その理由
 
第4 情状関係及び求刑意見
1 情状関係
 ⑴ 不利な事情
 ⑵ 有利な事情
  
2 求刑意見
 懲役○年

項目ごとの留意点

公訴事実

・六何の原則を意識する。⇦結局、これが重要
・一罪は一文で書く
・犯行時刻、犯行場所の特定をできるだけすること。
・客体を明示すること。
・暴行態様を具体的に記載すること(回数、部位、凶器)
・必要な事実を簡潔に。余事記載は避ける。
・行為と結果それぞれの日時・場所を意識する。
・財産犯の場合、「所有」か「管理」かに留意する。
例) クレジットカードはカード会社が「所有」し、名義人が「管理」するもの。
・財産犯の場合、被害品の品目、個数、時価を括弧内に記載する。なお、現金はこれに含まない。
例) 財布等7点在中のハンドバッグ1個(時価合計約3万円)
・動機・経緯は記載する必要はなし。
・法的評価を示す言葉を忘れない。
・「よって」は因果経過、「もって」は法的評価


罪名及び罰条

記載例) 殺人 刑法199条

【留意点】
・「罪」は不要
・「刑法」を忘れずに!
・未遂:未遂処罰規定をに書く
例)殺人未遂 刑法203条、199条
・共犯:刑法60条等をに書く
例)殺  人 刑法199条、60条
・送致罪名と起訴罪名が異なることもあるので注意


犯人性

犯人性検討対象事実

 間接事実とは、要証事実の存否を推認させる事実なので、「本件」の犯人が被疑者であることという「犯人性」の要証事実との関係で間接事実を認定する前提として「本件」たる事実を認定する必要があります。
 白表紙を数回読んだだけでは意識が向かないのですが、高評価を得るためには忘れてはいけない重要な項目です。
 犯人性検討対象事実は、個別の間接事実の認定の冒頭でも、別の項目立をしても良いとされています。個人的には、間接事実の認定をする前に、独立の項目を立てて論じた方が書きやすいと感じています。
 
【留意点】
・犯行日時、犯行場所、犯行態様、結果を意識する。
・証拠も引用する。供述の信用性は後回しでOK。
・法的評価を経ない社会的事実を記載する。
例)「恐喝しようとした」、「反抗を抑圧した」などはNG。中立的な表現に言い換える。
・公訴事実を前提としない。公訴事実に含まれない事実であっても犯人性に密接に関わるときは、その点を併せて認定してOK。むしろそうすべき。
・A供述を使わない。
・事件の概要+犯人像(事件犯人側の事情)

間接事実

 間接事実の項目では、認定根拠を示した上で犯人性を推認させる間接事実を摘示し、そこに評価を加えていく作業をします。間接事実は一つの起案で大体3〜4個あるイメージです。それよりも多い場合には、間接事実を捉え損ねていないか、あるいは推認力が乏しいものではないかを検討してみるといいと思います。

間接事実の抽出
 まず、出題者が意図する間接事実を正確に拾い上げることが第一関門になります。無意味な間接事実を拾ってきても点数が伸び悩んでしまいます。
 
【着眼点】
①犯人特定の経過を辿る
②現場の痕跡や押収物に着目
③7つの着眼点を意識する(cf.終局処分10頁)
A 事件・犯人側の事情
 ⅰ 事件現場の遺留物・痕跡
 ⅱ 事件に関係する物品等
 ⅲ 犯人の特徴
B 被疑者側の事情
 ⅳ 犯行の機会
 ⅴ 犯行の実現可能性
 ⅵ 犯行前後の被疑者の言動
 ⅶ 動機等

間接事実の摘示の仕方
・見出しのつもりで端的に記載。刑裁ほど具体的でなくてもよい。
・推認力から強いものから順に論述する。
・推認力が極めて弱いものについては指摘する必要がない。ただし、迷ったら書いておく方が点数を守れるかも。
・事件・犯人側の事情とA側の事情との結びつきを示す。
 これはわかったと思っていてもなかなか難しい。意識的に構成する必要がある。

認定プロセス

・犯人の行動か、Aの行動か混同しないように。
・証拠の射程に留意する。
例)犯行現場に遺留された○○と犯人が犯行現場に遺留した○○
  本件の凶器である(可能性のある)○○
  V品の○○ とV品と同種の○○     …など
・A供述と共犯者供述を絶対に用いないこと。
・供述証拠は信用性を検討すること。
・証拠の標目を示すこと。なお、略語表参照のこと。
 ※同日付のものは識別可能な事情を入れる。例えば、「以下、「1/2報〔V
  方とA方の位置関係について〕」とする。」など。

意味付け

・意味付け・反対仮説においてもA供述を使わない!
①推認理由の記述(表の推認理由)
・当該事実がAの犯人性を推認させる理由を書く。
・間接事実は、Aが犯人だとしたらどういう可能性を示すのか。経験則・論理則に基づき考える。
②反対仮説とその現実性・合理性の程度
当該間接事実を前提としても、Aは犯人でないとする仮説(可能性)
反対仮説=当該事実と矛盾せず、両立するもの
・Aの弁解にとらわれない。
③推認力
・各間接事実単体で検討する。総合評価は後で検討するので。
・推認力にはパターンがある(「強い」、「相当程度」、「限定的」)
反対仮説が成立する現実性・合理性に応じて、推認力の程度が異なります。以下の3パターンを覚えておけば大丈夫です。
反対仮説が極めて非現実的・不合理→推認力は強い
反対仮説が不合理とまではいえない→推認力は相当程度
反対仮説が現実にあり得そう→推認力は限定的

供述の信用性

・信用性を検討すべき供述の要旨を明示する。
・供述に変遷があれば、変遷前・変遷後の両方を検討する。
・「犯人性」と「犯罪の成否」で分けて検討を要する場合がある。
・信用性検討の観点(15p)

犯罪の成否

構成要件の摘示について
○○罪の構成要件は、①…、②…、③…である。
・判例を使う。学説に言及する必要なし。
・客観→主観の順で。
・問題なく認定できる構成要件についても証拠摘示+簡潔な事実認定をする。

簡易版
「○○とは、〜〜と解されているところ、本件では、……と認定できることから(証拠番号)、○○の要件を充足する。」
 
問題となる構成要件要素
1 意義
2 事実認定
  積極証拠に基づく事実認定
   信用できるA・共犯者供述があれば事実認定に供して良い。
  消極証拠があれば、その評価
   犯罪の成否に関するAの弁解がある場合、消極証拠として信用性に言
   及する(cf.終局処分24頁)
3 法的評価


その他の犯罪の成否
 この項目では、①メインの犯罪の他に成立する犯罪があるかを検討し、起訴しなかった場合にはその理由を論じる必要があります。また、②送致罪名と処理罪名が異なる場合にはその理由を論じる必要があります。

法律上、犯罪が成立しうるとして、終局処分の対象としなかった理由
ⅰ 問題の所在 
ⅱ 起訴しない理由



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