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落語日記 鈴本演芸場 7月下席昼の部 橘家圓太郎主任興行

7月26日
 寄席通いは復帰したが、なかなか行けないでいた鈴本演芸場に、やっと行けた。地元の寄席、ホームグランドにやっと帰ってこられた。
 3月24日の志ん陽師匠主任興行以来、4ヶ月ぶりの訪問。季節も、いつの間にか春から夏に変わっている。その再開は、大好きな圓太郎師匠の主任興行から。

 しばらく会ってなかった昔から知っている友人に会いに行く感じ。それも、病気で一時休養していたのが徐々に回復してきて、少しづつ仕事を復活させている友人だ。どんな様子だろうか、元気で頑張っているだろうか。鈴本演芸場はそんな存在。

 行こうと決めたこの日は、東京の一日の感染者数が6日連続で200名を超えた。大丈夫かなあ、そんな心配の逆風のなか、恐る恐る出掛ける。
 木戸口前で顔なじみの落語仲間と偶然に出会う。お会いするのも久し振り。知り合いの落語仲間と寄席でバッタリという、そんな嬉しい日常が待っていた。鈴本のお引き合わせ、寄席からの思いがけないプレゼントだ。入場前から良いことがあった。心配を吹き飛ばす、心強い戦友の登場だ。

 浅草演芸ホール同様、木戸口でマスク着用確認、検温、手指消毒。客席も着席禁止のテープを市松模様のように交互に貼って、定員の50%に座席数を制限。開演前の観客数おそらく30名くらい。最終的にも4、50名くらい。興行的にはかなり厳しい状況。
 木戸口では席亭が自ら手指消毒の案内に立つ。注意事項を書いたプラカードを掲げて客席を廻る係員。前半の途中で、普段は無い換気のための小休憩が入る。寄席の皆さん、気を使って頑張っている。とりあえず無事で元気な様子で、ほっとする。
 先日のインターネット生配信のときに販売された芸人応援チケットを使わせてもらう。割引券なので、なんだか申し訳ない感じ。

 寄席の顔付けが珍しい春風亭小朝師匠、他にも豪華メンバーが並ぶ。ホール落語会が出来なくなったという、コロナ禍の影響をここでも感じる。今なら、寄席ではお得な番組を観られるのだ。
 そんな豪華メンバーを前方に従えての主任が、お目当ての圓太郎師匠。人形町の独演会が中止になり、寂しく思っていたなかでの再会。会えない時間が愛育てるのさ、そんなワクワク気分、よろしく哀愁状態。なので、可笑しさも増し増し。

 さて、お待ちかねの圓太郎師匠が登場。マクラは自粛期間での生活ぶり。へこたれていないところはさすが。
 本編は、圓太郎師匠で聴くのは初めての「火焔太鼓」。好きな噺なので、この噺と分ったところで嬉しくなる。しかし、いつもの古今亭の火焔太鼓とは、ひと味もふた味もちがう一席。こんな火焔太鼓は聴いたことがない、こんな甚兵衛さん見たことがない、そんな一席だった。

 ひと言でいうと、圓太郎流の愛妻物語なのだ。気弱でどこか頼りなく、女房の尻に敷かれているという落語世界ではよく見かける亭主の甚兵衛さん。武家屋敷に太鼓を担いで出掛けるところまでは、いつもの恐妻関係の夫婦。武家屋敷で酷い目にあうと亭主を脅かす場面の強烈さ、女房の怖さを見せつける。
 しかし、武家屋敷への道すがらの独り言から、甚兵衛さんの逆襲への序章が始まる。ここからが甚兵衛さんの独壇場なのだ。
 この道中で、自信を取り戻そうと決意する甚兵衛さん。また、「女房は、俺にまだ惚れているのか?いないのか?」と自問自答する可愛さも見せるのだ。
 武家屋敷での間抜けな取引で爆笑させたあと、大儲けした帰り道は、女房を喜ばせる嬉しさ、女房に褒められる嬉しさを、言外に目いっぱい感じさせながら帰宅。自信を取り戻したというより、妻に認められることの喜びを感じさせる甚兵衛さんなのだ。

 喜び勇んで帰った甚兵衛さん。そんな気持ちを抑えきれない甚兵衛さんは、小判を叩きつけるように見せながら、女房に「俺にまだ惚れているのか、いないのか、はっきり言えーっ」と迫るのだ。大金で人格が変わった訳ではない。大金によって、甚兵衛さんの本心を告げる勇気が湧いたのだ。強気で怖かった女房も、大金と愛のセリフで態度豹変し、相思相愛の様相をみせる。
 ここは甚兵衛さんが愛を叫ぶ場面。古今亭の「びっくりして座りションベンして馬鹿ンなったら承知しねえぞ」というセリフは、カットされている。当然、ここでは似合わないので正解だ。

 このセリフ以外にも、古今亭でお馴染みのクスグリやセリフがないという、圓太郎スペシャルな火焔太鼓。前半の壊れていて売れないタンスのエピソード、後半の大金を前にビックリして水を飲む場面は残されていた。しかし、売らなくていい火鉢を甚兵衛さん付きで向かいの家に売ったエピソード、今川焼きの書、平清盛の尿瓶などの馬鹿馬鹿しい品々は登場しない。また、有る訳ないものが有るから珍しいという可笑しい屁理屈で売ろうとした骨董品、小野小町が清水次郎長に出した手紙が登場するマクラの小噺もない。
 そんな小噺やクスグリが無くても、甚兵衛さんの自虐的で歪んだ愛情表現が笑いを呼ぶ爆笑の噺になっている。まさに愛妻物語であった火焔太鼓。爆笑とともにホンワカと胸が温かくなる一席。
 久々の鈴本との再会を、見事な一席で締めくくり、盛り上げてくれた圓太郎師匠だった。

番組
前座 柳亭左ん坊「寿限無」

春風亭正太郎「桃太郎」
  
三増紋之助 曲独楽
五色独楽 アマビエも回転

林家彦三「黄金の大黒」

柳家さん喬「長短」

換気のため 小休憩

ロケット団 漫才

春風亭一之輔「めがね泥」

春風亭小朝「池田屋」
元治元年 (1864) 6月5日、京都三条の旅館池田屋で新撰組が勤王派浪士を襲撃した池田屋事件を題材とした地噺。

林家楽一 紙切り
夕涼み(鋏試し) ジラース(とウルトラマン) ほうずき市

林家正蔵「お菊の皿」

仲入り

ダーク広和 奇術
車掌バッグから取り出したロープのマジック

古今亭志ん輔「夢の酒」

五明楼玉の輔「動物園」

柳家小菊 粋曲

橘家圓太郎「火焔太鼓」

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