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記事一覧

炊飯器 熱冷めぬ間に予約押す
行ってきますは次の号砲


ひと匙の蜂蜜垂らす 月曜の朝の紅茶に優しさ欲しくて

エラ閉じてやがて静かに 生き物が食べ物になる
時の狭間で

病み伏せる子の寝る姿目の端に
深煎りの香に寝不足を知る

老松を猛り狂わせ野分来る
蜻蛉飽く迄直線に行く

水平はここであるぞと定義され
工事現場の幕落ちた朝

11

月残る 黒鵜連なる二羽三羽
旅立ちの朝 羽ばたけやいざ

立春を祝うが如く手を伸ばし 駆ける子の息白く弾んで

息白く身の縮む朝の水遣りに
紅く煌めく薔薇の新芽よ

大鍋よご馳走さまとしまい込む
次の師走ははるかに遠く

良いものを 持たせるお重(じゅう)にまず詰めよ
教へし人に少し近づく

新しき布巾広げるその白と
始める正月ついたちの朝

初日浴び 白 凛と張る ひなぎくの
花びら真似て 空を見上げる

山はただそこにある麓ではその衣と見えし葉を踏みてゆく

たかがその齢程度で何を言ふ
枯葉舞ふ空老木笑ふ

夜の海 白き塊横切って
水面の暗さに負けぬ鴎よ

怖いねと安全地帯から見渡して
海風渡る ココア冷めるな

爪切りの音も大きく飛び散って
あの柔き指の面影はなく

バター塗る手が止まる朝 痛むかと 添えてくれた手の温みを想う