小説家はbarにいる①(bar bossa・林伸次さんインタビュー)
渋谷の喧騒から、少し離れたところに佇む「bar bossa」。
マスターの林伸次さんが、初の小説を出版されました。
「恋はいつもなにげなく始まって、なにげなく終わる。」という印象的なタイトルの本です。
数年前から林さんの文章を読んでいた私は、この本について、そして林さんについて訊いてみたいことがたくさんありました。
今回、林さんのご厚意で、インタビューが実現しました。2万字のインタビューから、厳選してお届けします。
―「恋はいつも何気なく始まって、何気なく終わる。」繰り返し何度も読んでしまいます。この本について、そして林さんについていろいろ伺いたいと思います。
林 よろしくお願いします。
恥ずかしさを超えていけ
―今回のインタビューにあたり、この本に寄せられた感想や記事を読みました。小西康陽さんの帯を筆頭に、男女両方に愛されているように感じますが、いかがですか。
林 実はこの本って、あまり男性に受けないんですよ。わかってたんですけど。「恋愛に季節がある」というところで「何それ(吹き出し笑い)」ってなって。
―共感はされないんですね。意外です。
林 ないですね。大抵「ええ!?」ってなります。「林さん、どんだけロマンチストなの?」と言われる。
その部分が最初のハードルになっているらしく、そこでつまづいたらもう買わないんですよ。
―個人的には、あのくだりがあるから、話のテーマが明確になるのではないかと思ってます。
林 この本には21の短編があるんですが、初めは19話くらいで、ほぼ完成してたんですよ。その後、一番初めの話と、終わりの話を編集者に作ってくれと言われました。
それで、始まりの部分は「いかにも、この本を象徴するようなきゅんとするのを書いて」というオーダーがあって、いくつか書いたんです。でも、担当の竹村(優子)さんも加藤(貞顕)さんも厳しくって。
2人ともベストセラーチームみたいな感じで、けっこうヒット作を出してるんですよ。そんな彼らにダメ出しされて。
その後、これクサいな……って思っていた「恋愛に四季がある」を出したら、「これいいじゃん!」となりました。
―つかみがありますよね。
クサいかクサくないかは置いておいて。「恋愛に四季がある」というフレーズは、的確な表現ではないかもしれないけれど、キャッチーというか。
それがないと、タイトル通り、本当に何げなく始まって何げなく終わってしまうのかも。
林 ああ、それが基本軸になって話が進むと。あの2人はやっぱりうまいんだなあ。
―ぜひ、最初の部分を乗り越えて、色々な人に読んでほしいですね。
バブルと2010年代のマリアージュ
―この本の時代設定は、現代……2010年代ですよね?
その一方で、確かバブルを意識したと別の記事で読んだのですが、どういう風にバランスを取ったのでしょうか?
林 バブルというか、80年代の感じです。わたせせいぞうさんの「ハートカクテル」という漫画があるんですが、その当時、おしゃれだなと思ったんですよね。アメリカの西海岸のモノマネなんですけど、きれいな世界で。セックスも一切なくて。
今の時代って、例えば「万引き家族」とか、貧困物とか、そういう世の中の汚いことを描くことが多いじゃないですか。そうじゃなくて、きれいなところだけを描いてみたかったんです。まるで80年代かのように。
その当時流行った「私をスキーに連れてって」という映画も、悪い人があんまり出てこないし、さわやかできらきらしてたんですよね。この本はそういう感じに落とし込めたらいいなと思いました。
時代は現代、スピリッツが80年代って感じです。
―確かに、今は「対象に対して深掘りしてえぐるのが基本」みたいな時代で、ちょっと疲れちゃうなと感じますね。
林 ええ、そう思います。あんまりそれが好きじゃなくて。もう少しきれいなファンタジーがすごく好きで。
―本当にきらめく世界になってますね。私もこういう話の方が好きなので、とても引き込まれました。
ここで、本の装丁について訊いてみた
―本の装丁はcakesの方が手掛けたんですね。佐賀野宇宙(そら)さん。
林 そうなんですよ。装丁をどうするか?となった時に、出てきたのが彼でした。比較的新しいデザイナーさんです。佐賀野さん、すごくいいからと加藤さんに言われまして。彼は装丁をやったことがないんだけど、それがかえっていいかもしれないと。
ファーストアルバムとか、どんなジャンルのものにしても、1作目は特別ですよね。僕にとっても、佐賀野さんにとっても初。初めての人同士のかけ合わせが、いいんじゃないかって。
―(表紙を見て)これは渋谷の写真ですか?
林 そうです。上から撮っている。僕も最初これは絵かと思ってたんですけど、よくよく見ると写真で。じゃあ、いろんな写真を集めて加工したんじゃないかなと思ったんです。
……というのは、ここには変な人がいっさい映ってないから。実際の渋谷の交差点は、変わった人がいっぱいます。ヤンキーとかも歩いてますし。
―こんなにきれいに人が撮れるんですね。全く渋谷感がない。
林 そう。表参道みたいな雰囲気で。
―今まで見たことないタイプの表紙ですよね。タイトルも縦書きですし。短歌みたい。
林 ああ、確かに、短歌みたいですね。
―それが、この話の情緒的なところと合っているのかもしれないですね。私、書籍やCDの装丁が気になるタイプなのですが、この本は素敵だと思います。
林 ありがとうございます。
次回は、引き続き本の内容のお話と、渋谷についてのお話をお送りします。
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