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誰かのために作るビーフサンド

前の記事で「ゴードン・マッタ=クラーク展」について書いた。

その関連のフードイベントが、会期に合わせて開催されていて、私は最後の回を予約していた。

企画展の会場ではなく街中で継続するイベントがあること、ビームスと東京都国立近代美術館が手を組んだこと。それに新しさを感じたのが参加した理由だ。

しかし、何をやるのかはわからない。「出張料理人の岸本恵理子さん」が腕を振るうということ以外は。料金も決まっていないので、まるでミステリーツアーのような印象だった。

そして迎えた当日。
幡ヶ谷のカフェ「paddlers coffee」で、
ビーフサンドを作ることになった。

なぜか? というと、こんな説明になる。

ゴードン・マッタ=クラークは、ポンピドーセンターに来た人に、ビーフサンドをふるまった。

それは単なるサービスではなく、かつてその地にあったものが食肉市場であることをふまえたパフォーマンスだった。

日常の必要なものがアートの権威に取って代わられる。そのことをアーティストが問うという形。

折しも日本では築地市場が幕を下ろそうとしていて、アートではないものの権威によって変容する過程を今見ている最中だ。

岸本さんはその辺りをふまえ、このイベントを考えたようである。

さて、当日のことに話を戻そう。

参加者は渡されたパンに、お肉や野菜を取ってサンドを作ることになった。その際に「あげる誰かのことを思い浮かべて」というオーダーつき。お持ち帰りの手作りの箱もついてきた。

さて、誰にあげたいか。
家族、友達……色々考えたがしっくりこない。

あげるなら別のものが良いからだ。

しかし誰かのことを考えねば……くっ……。

迷った挙句、決めた。

私はゴードンのために作る。


彼がいなければこの展覧会も、イベントもなかったから感謝を込めて。お盆も近いし。

21世紀、極東の国でこんな風に思われるなんて、彼は考えつかなかっただろう。

もしゴードンが生きていたら、このビーフサンド、受け取ってくれるだろうか。

なんか多分妄想だけど、食べてくれそうな気がする。だって面白いこと、意外なことが好きそうだから。それがアーティストだと思うから。

そんなことを考えながら自分でおいしく完食。

楽しく、考えさせられる夜だった。

残念ながら展覧会は終了したので、インターネットで「ゴードン・マッタ=クラーク」をぜひ検索してほしい。なかなか、奥深いから。








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