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キョージンナリズム 第36話

 から続く

ひさびさにサルサバンドの練習。

もう私たちはノボさんのオリジナル曲『カトンボ』を難なく演奏できる。その後、オリジナル曲が増えているわけではないけど、サルサの定番曲のカバーもようやくリズムがしっかりとして来た。それに、最近トランペット奏者の女の子が参加する事になって、バンド全体の厚みが出て来た。

練習の後で、みんなにドゥドゥ・ニジャエ・ローズのコンサートに行かないか誘った。西アフリカの凄いパーカッション集団らしいよ、と口を酸っぱくして語ったけど「よし行こう」と言い出したのはピアノのノボさんだけだった。ノボさんに例の青文字のコンサート・チラシを見せたら「すごいすごい」と見入っていた。

家に帰ると留守電が2つ入っていた。

一つは秋元さん。自分の曲を私のパーカッションでサポートして欲しい件の、2度目のリハーサルをしましょうという内容。

もう一つは、インドのエスラジを弾く向後さんから。上野の水上音楽堂に出演する件で、来週くらいにリハーサルしたいとの事。

重なるなあ、忙しくなるなあ、でも来週はまずドゥドゥ・ニジャエ・ローズを観に行くのだ。ノボさんと相談して、青山のCAYの方の日に行く事にした。

六本木ハートランドでジョゼさんのライブを2度目にやる際に、私がサポート・メンバーをプロデュースして欲しいと言われた件もある。この件はどうしようかな。

もともとジョゼにはサポート・メンバーがいるのに、私が新たなメンバーとやるのを勧めるのはおこがましいな。

このあいだ、初めてお会いした幸田さんと横澤さんにベースとドラムを頼めばと言うアイデアはどうだろう。私は幸田さんのベースを聴いたことがないし、横澤さんのドラムは仙波清彦チームの時しか聞いたことがない。でも2人と話したときに「この人たちとはやりたい事が分かり合える。まかせて大丈夫」という感触をあったのだ。ジョゼには「ちょっとお手合わせして欲しいミュージシャがいるんですけど」と相談してみよう。ダメだったら、その時はその時だ。

 ……………

ドゥドゥ・ニジャエ・ローズのCAYのライブの日になった。開演前30分頃にCAYに着くと、受付に人がごった返していてなかなか入場できない。やっと入ったら、もう立錐の余地もない超満員だ。みんなどこで情報を仕入れたのか?こういうライブが満員になるのは、素直に嬉しい。周りを見回すとちらほらと日本のラテン系のミュージシャンたちの顔もある。アンテナが鋭いな。私はやっとノボさんを見つける。

「こりゃまた満員だね」とノボさん。

「本当に、これじゃ踊れないね」と私は言いながら、実は流れてるアフリカン・ポップスを合わせて足はステップを踏んでいた。しばらく、ノボさんもわたしも曲を聴きながら、まだかなまだかなと待っていた。

いきなり、ステージの方からではなく後ろの方からものすごい音がなった。空間をつんざくようなタイコの音。素晴らしい連打の嵐のような音。叩いているのは肌の色がかなり黒い人たちが4人。腰から前に下げたタイコを打ち鳴らしているのだが、この時は私もまだ名前を知らなかったその太鼓の名前は『ジャンベ』だった。とにかく大音量。低音がすごい、そして高音が鋭い。

そのまま4人はステージまで叩きながら移動して、さらにステージ上で音の洪水。主に1人がアドリブのソロをとる。とにかくカッコいい。ジャンベの真ん中を叩く時に重低音が鳴る。4人が同時に低音を鳴らした時はまるで地響きだ。

ジャンベのパフォーマンスがひとしきり繰り広げられると、彼らはすっとステージを降りた。それと同時に20人以上のメンバーがステージに上がってくる。彼ら、いや、彼女らもいる。みんな左肩にタイコを下げている。ジャンベとは違う、スリムな形。木をくりぬいた細い胴体は人の体のような曲線を持ち、胴体に小さな木が差し込まれていて皮はそこに引っ張られてパンパンに張っている。右手に持ったバチで打っている。バチはよく見ると木の枝だ。そしておもむろに長老のような老人が現れた。

「彼がドゥドゥさんだよ、たぶん」

とノボさんが言う。その、ドゥドゥさんと思しき人が、木の枝でみんなを指揮すると、全員が一斉に太鼓をバチで打った。

恐ろしい大音量。鋭い高音が集団で鳴るとてつもない迫力。私たちは圧倒された。気持ちの上では「全員のけぞった」感じ。そして強靭なリズムが始まった。ビートが草原で何キロも先まで届いてしまいそうな音量。その音に合わせて、メンバーのうち若い娘たちが長い脚を見せてスピーディに動かして、見事なダンスを披露し始めたのだ。


 に続く

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