見出し画像

全宅ツイ不動産チンパンジー情報 第101号

【特集】チンパンジーにもわかる家族信託

今回のテーマは「家族信託」。認知症の増加を背景に近年注目が集まっている財産管理手法です。今回は不動産関連に強い弁護士の関口郷思(せきぐち さとし)先生、日本司法書士会連合会で信託関連の委員を務める司法書士のTsuyoshi Taniguchi先生をコメンテーターに迎え、「チンパンジーにもわかる家族信託」をぶちかましていきたいと思います。ファシリテーターは天才不動産チンパンジー・峰不二夫だっ!

峰不二夫(以下、峰):スタッフが倍になったら利益が倍になるかな? って思っていたら人件費でめちゃくちゃ赤字になってます。助けてください。

関口郷思(以下、関口):事務所で雨漏りがあったので、依頼者ではなく自分の部屋で散水試験をするというレア体験をしました。散水中に手持ち無沙汰になった管理会社の人が「ご専門は?」と言うので「こういう案件です」と答えたらさらに気まずくなりました。家賃は減額されていません。

Tsuyoshi Taniguchi(以下、谷口):鳥取という限界都市でのんびり登記しています。鳥取県が消滅するのが先か、それとも鳥取から司法書士が絶滅するのが先か。人類の最後を見届けるような気持ちで日々過ごしています。

峰:「家族が認知症になったから自宅を売却して老人ホームにぶちこもう!…と思ったけど、財産が凍結されてしまって処分できない!」
不動産チンパンジーの皆さんは、お客様からそんな相談を受けたことありませんか? 私はチンパンジーとしてのキャリアが10年を超え、取引をきっかけに仲良くなった売主さんの中には認知能力が著しく低下している方もいらっしゃいます。今日は認知症への備えとして脚光を浴びる「家族信託」について勉強したいと思い、お二人をお招きしました。よろしくお願いします!
関口:よろしくお願いします!
谷口:お願いします!

・家族信託ってなに?

峰:家族信託をざっくり説明していきましょう。信託は、①委託者②受託者③受益者の3者で構成されています。文字通り、「①財産を委託する人」「②その財産の所有権を委託者から移転されて、管理・運用・処分を行う人」「③財産から利益を得る人」ですね。ここで脱落するチンパンジーもいそうなので、最もシンプルな家族信託の形態を図解してみましょう。

峰:はい。とてもわかりやすいですね。お父さんのまゆずみ翁(委託者)が、子エンド君(受託者)にアパートを委託します。子エンド君はアパートの所有権の移転を受けて、管理をせっせと行い、その賃料収入をまゆずみ翁(受益者=受託者)が受け取るという形です。委託者、受託者、受益者とありますが、必ずしも3人いる必要はありません。
関口:わかりやすいw
峰:「タダ働きさせられてる子エンド君がかわいそう!」という声もありそうですが、信託を使わずまゆずみ翁が銀杏を認識できなくなってしまった場合には、資産は凍結されてしまいます。老人ホームに入れるための費用が捻出できない!
谷口:これは困った。
峰:しかーし、事前に信託しておけば、いざというときには財産の処分は子エンド君が行えます。というわけで、双方にメリットはあるわけです。平たく言うと「元気なうちに家族に不動産の所有権を移して管理してもらう」という感じですね。
関口:言い方!
峰:4コマしか読めないチンパンジーでもわかるように書かないとなんで…。実際はケースに応じてさまざまな契約・スキームがあると思いますが、この学級新聞ではこのぐらいの理解でいいかと思います。

・新制度開始から16年、知られざる司法書士界の分断

峰:そもそもこの制度ってできてから10年くらいでしたよね?
谷口:平成19年に今の信託法が施行されたので16年くらいになりますかね。それまでの信託法から一気に柔軟性を持った仕組みになりました。
峰:ほうほう。
関口:原形を留めないくらいの大改正でしたね。
峰:そんなに変わったんですかww
関口:75条だった条文が全部消えて、271条になりましたからね。ロースクールで信託法の授業があって、「皆さんが弁護士になるころには今の法律はなくなります」と言われたのを覚えてますw
峰:谷口先生は家族信託はもう何件か取り扱いはあるんですか??ブログも拝見してるんですが、信託に関してわかりやすく書かれてますよね。
谷口:私は平成22年に司法書士登録したんですけど、平成23年にはじめてやりました。
峰:早い!
谷口:本格的に家族信託が普及し始めたのは平成28年頃からかと思います。平成23年当時はやっている人が少なかったので、やることなすこと、全部、日本初みたいになってました。
峰:めちゃくちゃ大変そうですね…。
谷口:実務の本もほとんどなかったですしね。相談する人もいなかったので手探りだし、私が暮らしているのは鳥取というガラパゴス諸島みたいな隔絶された場所ですので、本当にひとりでやってた感じ。
関口:そのころから、司法書士会は家族信託をプッシュしてたんですか?
谷口:う~ん、プッシュしていたのかな。おそらく弁護士会さんは自分たちが受託者になろうという法改正をしたかったんだと思うんですけど、司法書士会も最初は一緒です。
峰:司法書士会と弁護士会でどっちがやるか、みたいなのがあったんですか?
谷口:いや、そんなのもなく、ざっくりした研究というか将来的な方向性を作りたいというか。結局、法改正で自分たちが受託者になるってのはなかなか実現しなさそうだよね、ということが明らかになってきて、だんだんと「家族を受託者にして司法書士は側面支援に回ってはどうか」という方向に進んできて、そういう研究を進めていたのです。あくまで公益のため、福祉のため。マジメな研究グループがやってた感じ。
峰:ほえ~。
谷口:そうこうしているうちに、その研究グループでノウハウを身に着けた後に脱退して、「家族信託をどんどん普及していこう」という人たちが世に放たれまして。平成28年以降、後見人制度を悪く言って信託をアピールする、という手法を取った人たちがちょっとしたブームを巻き起こすようになるのです。
峰:あぁ…、後見制度を悪く言って信託をオススメするムーブがあった記憶があります。当時お客さんからどちらがいいの?って聞かれ全然わからなくて気がついたら他社で媒介が出ていました…。
谷口:まじめな司法書士グループからしたら、「お金儲けのために変なアピールしやがって!」って怒っている感じでした。
関口:今でもその流派が残ってますよねw

・家族信託と成年後見制度の違いは?

峰:いま成年後見制度の話がありましたが、後見制度だと裁判所の手続きがあったり面倒ですよね。家族信託って後見制度よりも楽なんでしょうか?

続きをみるには

残り 10,207字 / 4画像

¥ 540

全宅ツイにご感心ご興味いただきありがとうございますウホ。皆様のご支援のおかげで楽しい企画が続けていけます。これからもよろしくお願いします。