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婚活カオマンガイ

もう数年前のことになるが、30歳を目前に控えた頃、友人と婚活パーティに行った。
メンバーは自らのことを「四天王」と称するこの4人。

  • イェイ子(仮名)
    病院勤務。
    婚活経験なし。
    休日は引きこもりがち。
    たまの外出で昼飲みすることも。
    趣味のゲームでは、オンラインで見知らぬ誰かと繋がり、インカムで話しながら何時間も闘う。

  • マミィ(仮名)
    商社勤務。
    婚活経験なし。
    恋愛には奥手なくせに、阪神タイガースのことになると急に積極的になり、SNSを通じて観戦仲間を作る。
    スポーツ全般が好きで、高校時代は好きな力士と自身の誕生日が一緒であることを喜んでいた。

  • 夜田ヨルダ(仮名)
    昼は保険会社営業。
    夜はスナックでバイト。
    飲みすぎるとあれよあれよ、翌朝ホテルのベッドで目を覚ます。
    泥酔中に道端で声をかけてきた8歳年下のラッパーに夢中になるなど、奔放。
    ふくらはぎにタトゥーを入れている。

  • 久瀬クセ(仮名、わたし)
    金融機関勤務。
    趣味はグルメ。
    出会いはいくらかあるものの、薬味が好きだと言っているのに「じゃぁクルトンも好きでしょ」と言われ、クルトンを薬味に分類する人とは将来を考えられないと幻滅するなどし、いつも初回デートから先に進まない。


なぜこの4人が仲が良いのかは分からない。
共通点は、高校時代の吹奏楽部同級生ということと、彼氏がいないということだけだ。

30歳という一つの節目を前に、逆算が始まる20代後半の婚活市場は盛況となる。

いつまでも腰が重いイェイ子とマミィを、「このままではいけない、今こそ頑張り時だ」と奮い立たせて、夜田とわたしが連れ出すことにした。



パーティ3日前、事務局から連絡が来た。
男性の参加者が集まらなかったからなのか、男性の条件が変更になったとのこと。

【変更前】
28〜38歳位までで《年収400万円以上or正社員or大卒》かつ《身長170cm以上》 の方

【変更後】
28〜38歳位までで《身長170cm以上》かつ《スポーツ経験者》の方

《年収400万円以上or正社員or大卒》の項目が、ごっそり《スポーツ経験者》にすり替わった。

ただ、わたし達は特にこだわらないので、そのまま参加することにした。
何にせよ今回の最大の目的は、イェイ子とマミィの場慣れだ。



当日、着る服が無いだとか、朝からグループLINEでやり取りをしながら準備を整える。

マミィ「初めてすぎて訳分からんわ。普通に話できるかも謎やわ」

イェイ子「もっと酷いわたしがおるから大丈夫や!笑」

マミィ「今日は社会勉強ということで、みんなから学ばせてもらうわ」


そうこうしながら、会費の2000円を握りしめて集結した。

午前11時スタート。
いい出会いがあれば、そのままランチデートできる時間設定となっている。

今回集まった参加者は男性3名、女性5名。



少なっ



女性が余り過ぎている。
そして何となく、真面目にソロ参戦した女性が気の毒だ。





スタッフから今日の流れについて説明があった。

婚活パーティといっても、今回選んだのは1対1でお話ができるものだ。
ブースで区切られたスペースに女性がスタンバイする。
お話ができるのは1ターン10分ずつと決められており、終わりの合図があると男性は次のブースへ移動する。

なお、今回は女性が2名少ないため、女性は5ターンのうち2ターンは休憩タイムとなる。
スタッフは申し訳ないと詫びていた。


最初のターン。
わたしはいきなり休憩タイムとなった。
ブースの中でポツンと一人。
まるで塾の自習室にいるかのようだ。

すぐにグループLINEが稼働する。

「いきなり休憩て」

「わたしも」

周りのブースの話し声に耳を傾ける。

「イェイ子、ちゃんと盛り上がってる」

「イェイ子笑ってるね。よかった」

3名の男性と順にお話をしつつ、休憩タイムにはグループLINEに状況を書き込んでいく。

「夜田の話全部聞こえる。さすがスナックのバイトが活きてる」

「マミィが笑ってる」

「マミィ笑ろてるんか。よかった」

「でもマミィの笑い方棒読み。ハハハハ」

心配していたイェイ子とマミィだが、緊張しているとはいえ、ちゃんと話せているようで安心した。

「頑張って喋って疲れた…」

「疲れた。話題見つけるんしんどい」

「この後タイ料理食べに行こ!」

気力を使い果たし、なんとか5ターンを終えた。



スタッフから「いいねカード」が配られた。
カードには、相手の名前とアピールメッセージを書く欄がある。
最大3名の異性にカードを送ることができる。

「全員にいいねカード送れるね」

「いいねカードの意味無くない?」

「タイ料理早く食べたい」

「誰か選ぶなら3番の人かな」

「一択やろ」

「わたしも」

「うちも」

「みんなで取り合う?笑」

「みんなのいいねカードがあの人に届くんよな」

「名前忘れた」

「丸尾さん」

「もうタイ料理の口!」


結局、わたし達は揃って3番の丸尾さんにいいねカードを送った。



逆に、男性陣からのいいねカード、わたし達にどれほど届いたのだろうか?

その結果は。



夜田・・・1枚
話題を振るのがうまく、盛り上げ上手なだけある。
しっかりといいねカードをゲットした。


久瀬・・・0枚
趣味のグルメの話題で、好きな食べ物を聞かれて「しめ鯖」の話をしすぎたのが裏目に出たのか。

そして婚活初参戦の2人は。


イェイ子・・・0枚
健闘したものの、カードは貰えなかったが、次に繋がる試合となった。



マミィ・・・3枚
直前に男性の条件がスポーツ経験者に変更されたことが追い風となり、全員からいいねカードをゲット
実は野球の話題などでしっかりと盛り上がっていたのだ。



婚活に腰が重かったマミィ。
男性経験がほとんどないマミィ。
今回は社会勉強だと言っていたマミィ。


マミィが全部かっさらっていった


マミィの心配をする暇があれば、わたしこそ社会勉強して阪神園芸のあるあるネタの一つでも仕込んでいくべきだった。


「マミィ、丸尾さんと連絡先交換してよ」

「タイ料理抜けていいから、2人でランチ行っておいでよ」

「それか丸尾さんタイ料理に呼ぶ?笑」

「丸尾さんタイ料理無理やで。辛いの苦手って言ってた」

自習室のようなブースから出口を案内されるまでの間も、グループLINEはひっきりなしに動く。

マミィは、いきなり食事はハードルが高すぎると言い、丸尾さんと連絡先だけ交換したらしい。








午前から一仕事を終えた我々4人は、念願のタイ料理屋で再集結した。



カオマンガイも、グリーンカレーも、トムヤムクンも、パッタイも、こんなに美味しい。



世の男性陣よ。
パクチーみたいな薬味も毛嫌いせず、四天王を丸ごと愛してほしい。

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さて、次回の #クセスゴエッセイ は

「東洲斎写楽の腰曲げ」

をお届けします

お楽しみに〜
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