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和子ちゃん、ごめんなさい

夫が買って来たキャットフードを上げたら、ひとくち、ふたくち、口に入れて、変な顔をして私の顔をじっと見ている。

「文句あるの?ノラの身で贅沢は言わないの」

和子にお説教。雨が降り出してきた。硝子戸を閉めると、ガラスの向こうで途方に暮れた顔(ー_ー)!!。

あまりに何か言いたそうだったので、さっきのキャットフードをあげたら、ふんと顔をそむけて、どこかへ帰っていった。

翌日も、いやいや、食べてはペッペと吐き出し、こっちを見ている。そんなことが3日も続いた。

娘が「もう~和子はわがままなんだから」と怒っていたが、突然「キャー、大変~」と悲鳴をあげた。

「なになに?」「これ、ドッグフードだよ~」

見ると、パッケージに大きくワンちゃんの写真が。

「わー。ごめん、ごめん。今、キャットフード買ってくるからね」

娘は家を飛び出した。

待つこと20分。和子は怒ってどこかへ行ってしまった。

キャットフード売っている店まで、自転車で片道15分はかかる。やきもきして待っていると、娘が息せき切って帰ってきた。

「和子ー、キャットフードだよー」

娘は呼びながら、家の周りをうろうろ・

すると、前の家の辺りから、和子が仕方なさそうにやってきた。見るからにふくれっ面だ。

「和子はイヌじゃないもんね。腹立ったよね。おわびに高いのを特別買ってきたよ」

娘は小さな袋の新顔のキャットフードを皿に乗せる。スモークサーモンみたいなウェットタイプだ。

和子は食いついた。目がギラギラ光っている。スモークサーモンみたいなのを口にくわえると、庭の隅に走り去り、がつがつ食っている。

野生そのものだ。

凄いスピードで食い終わると和子はこっちを見た。ありがとうを言うでもなく、舌なめずりしている。

よっぽど美味しかったのだろう。

あのドッグフードだが、ワンちゃんの写真が載っているのに、半額だからと大きな袋を買って来た夫も夫だが、それに気づきもせず、せっせと和子に与え続けた私と娘も……。

「ドッグフード」を買って来る、なんて夢にも思わないから、キャットフードだと信じ切って和子に与え続けたのだ。思い込みとは恐ろしい。

イヌちゃんの餌とネコちゃんの餌はそんなに味とか風味が違うのだろうか。

ネコちゃんとイヌちゃんに訊かなければ分からない。だが、飢えていたなら、キャットフードだろうとドッグフードだろうと、和子は食べたと思う。

やっぱり贅沢になったのだ。娘が特別の餌をあげた翌日から、和子は、今までのキャットフードを食べる速度が遅くなった。

「あの、この間、食べたやつ、あれが欲しいんだけど」

と言いたげに、時々こちらを見る。人間と同じで、一度美味し良い物を食べると、ランクを落としたくないらしい。

今では私たちが和子に「お恵みのご飯」をあげているのではなくて、和子の家来みたいになっている。


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