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MANGA TOKYOのデザインから学ぶ「意味性の翻訳」(shcooメモ)


『デザイン逆再生』ご視聴ありがとうございました。放送前にまとめたメモを公開します。番組では抜け落ちた部分を補完する役割になります。本展のあらましと主旨については大まかな説明に留まりました。プレスリリースのリンクを掲載させていただきますのでご覧ください。

https://www.jpf.go.jp/j/about/press/2018/dl/japonismes-025.pdf


MANGA←→TOKYO
日本のマンガ・アニメ・ゲーム・特撮作品を建築学者・現代日本文化研究である森川嘉一郎先生が以下の視点でまとめた展示になります。


価値観や文化のギャップを緩和し、理解を即す佇まいに仕上げることが今回の目標となります。

文化・地理の違いをどのように超えますか?
パリのラ・ヴィレットで開催するということもあり、地理的な距離=文化の違いも含めて内容を理解してもらえない事を前提としてあります。そもそも、日本とは違ってオタクコンテンツに触れるには能動的でないと難しい国です。
アートという領域ではない商業作品をアートを鑑賞する場でどのように伝えるか…こちらも課題のひとつです。



伝わる環境づくり

あなたなら、どうやってバリアを軽減する為のデザインを考えますか?

このプロジェクトでは様々な情報を受け入れて(できる限りスムーズに)もらえるようにテクスチャーをマッピングすること(設計)が僕の基本的な役割です。
個性的な分野ですから、誤解されてしまうこともありますし、自分には関係ない…と興味を持ってもらえないことも容易に想像できます。
様式美(スタイル)が独特なジャンルは、理解し共感してしまえばその分野のもつ美意識に目覚めて受け入れることができます。
ですが、初見の方は敬遠する表情かも知れません。
よって、誰のモノでもない距離=客観的な視点を持って取り組むことで、本質のテーマが読み取りやすくなると考えました。つまり、ジャンルのスタイルは利用せず、フラットな距離からデザインするということです。
今回は開催地がフランスということもあり、日本の文化はもちろん、この分野が醸成してきた文化を知っている人は多くいません。
押しつけることなく、対象と向き合うことができる空間を用意するにはどうすれば良いか?を考えました。
空間に置かれた作品を過剰に演出し、受け手を誘導することとは逆の伝え方が適切と判断しました。
例えば、機能という側面を中心に置くことで文化とは距離をとり、誰のモノでもない見え方だけで構成してしまうと、なにものでもないあっさりとしたつまらないものになってしまう可能性もあります。
この展覧会は順路があり、テキストとビジュアルを見つめながら理解を深めるタイプです。そう言った意味での誘導は必要です。
演出についてはオミットした訳ではなく、今回のテーマに相応しい演出を設計する必要はあります。
見つめたくなる特別や穏やかで冷静で居心地の良い上質な空間。そして、この展覧会におけるストーリーをデザインすることで表情が生まれます。
丁寧な仕上げはもちろん、ちょっとしたアクセント…気持ちが高揚する要素をさりげなく加えることも効果的なので開発したいところです。
これらを内包する特徴については書体に演技を任せることにしました。出しゃばりすぎず、穏やかに演じてくれる要素と判断した結果になります。
ロゴで使用している書体が適役と考えました。
この書体はジオメトリックなスタイルで、工業規格や路面標示など誤認が許されない場で目にするタイプです。
機械的で整理された文字は味気ないですが、読み間違え難い点がこのような領域で使用される理由です。
この記憶を活かして、東京とパリ/一般と二次元コンテンツの住人といったバリアを越えたいと思いました。
この距離を繋ぐ道路といった印象を纏わせることでストーリーになるのでは…と希望を持ちました。
このことを感じてもらえないとしても、誰のものでもない客観的な理念でデザインされたフォントですから、文化や国境に左右されることはありません。
このタイトルで使用したフォントをゾーン名や見出し文に使用し、アクセントとしています。
それから、今回はフランス語と英語のバイリンガルです。フランス語をメインの言語として扱い、英語を添えています。
この優先度は書体の違いとサイズで区分けました。
目線と距離も重要で、読みやすい高さ(レイアウト)と文字のサイズを内容(複数の人が同時に見るボートやキャプションボードなど)に合わせて適宜設定しています。
ナンバーを大きくした理由=本に於ける章を表すモノですから、自分はどの辺りを読んでいる(見ている)のか?を感じることができるからです。
どの国の人でも理解している上、数字のフォルムはアクセントとしても優秀です。それから、どのボードでも均一に扱うことが可能な上、誰もが知っているアラビア数字はフォルムが心地よく象徴的で、1字でも意味を認識できます。



キャラクターで環境をつなぐ

あなたなら、どうやってコミュニケーションを視覚的に育みますか?

キャラクターの役割はコミュニケーションをスムーズにすることです。キャラクターが展覧会の主旨を伝える媒介役、ビジュアルで記憶する手段として機能します。日本では予てより福助や招き猫などこの役割を果たしています。
今回の展示は東京と二次元コンテンツの関係をテーマに膨大な作品を展示することになります。
キャラクターによって何かが代理されるということ自体が、この展示で描こうとしている東京と二次元コンテンツの相互作用に関係していると森川先生がおっしゃっていることもその一つです。
このキャラクターの名前は「ヨリコ」と言います。彼女は学芸員という設定です。コスプレ(様々なキャラクターの代理)をすることでテーマを伝える役割も果たします。
展示作品の説明する上で解説役も務め、会場で販売されたコンセプトブックではアクリルフィギュアという形でおみやげとしても機能しています。

キャラクターが持つ意味性の用意/展覧会のコンテクストを表す
マンガ・アニメ・ゲーム・特撮を網羅するキャラクターの開発が必要でした。このキャラクターデザインをどなたにご依頼するか?この判断はとても重要です。絵柄(キャラクター)にそれらの特徴が入り、客観的であり説得力を持ったキャラクターデザインが可能な作家が求められます。と…考えると、画力以外にもこの分野へに対して深い理解がある方が最適です。(吉成さんに発注することになった理由)
見応え絵のある画力に加えて、各キャラクター(作品)が備えている「らしさ」=文脈をキチンと消化したうえで、個性が成立する絵が求められたのです。

デザインの流れ
森川先生からこのキャラクターデザインについての相談を受ける→コヤマさんに相談を持ちかける→森川先生・コヤマさんとデザインをお願いする作家について思案→吉成さんにご依頼→4名を中心にキャラクターデザインを協議
※自分より情報や経験を多く持ち、適切に問題を解決できるパートナーに話を持ちかけることで強度を高めることができます。
※なんでも自分でこなそうとせず、チームが必要な場合はすぐに設定する。

レギュレーション
「展示を紹介するキャラクターである」「コスプレしても特徴が残る」
※懸念点:強いキャラクター性が邪魔になってしまう(対:コスプレ)/ストーリーという枠があった方がキャラクターを作りやすい(今回はない)/アニメのキャラデザ=アニメのキャラクターをつくるときには、バストアップにしてもキャラクターの記号が残ることがかなり大きい要素になる。理由=顔自体は表情で変わってしまいますから、髪の毛に何かアクセサリーをつけたり、髪型を特徴的なシルエットにするのが常套手段。→今回はコスプレをするという設定なので、それによって髪型も変わってしまう/コスプレがうまくいくかということのテストベッドとしてしばしば用いられたのが、セーラームーン。=頭に二つのおだんご・それぞれから長いテールがのびているわけ=ヨリコの髪に大きなアクセサリーが付いていると、バッティングしてしまう/頭にマスコットキャラクターを乗せていて、それが憑依しているみたいな案もけっこうあった=コスプレのことを考えるとそれも出来ない/アニメのシリーズだったら設定が物語と一緒に説明できて、旨味になる。イラスト一枚でそれを説明するのは不可能/マスコットキャラが変形してコスプレ衣装になると、マスコットを頭に乗せていること自体がキャラクターの特徴になのに、コスプレをした途端にその特徴が消えてしまうという矛盾/コスプレさせることで、素体になるキャラクターからどんどん個性が奪われていく/設定がなにもないと絵も描けない(絵を描く側としての理屈)/キャラクターのコスプレをしている絵というのは、そのキャラクターの二次創作に見える可能性の方が高い(二次創作・同人)/「中の人」がきちんと見えないとコスプレにはならない(二次元のキャラクターが二次元のキャラクターを演じるというコスプレを、しかも二次元で表現するわけ=その変換が起こらない)/海外で開かれるアカデミックな面もある展覧会のためのキャラクターであるということ=代表するキャラクターには、アニメやマンガすべてをひっくるめたデフォルメが必要

開発の流れ
レギュレーションを踏まえて思案→アンドロイドみたいなものがいいんじゃないか(コスプレさせるためのマネキン=キャラクターが立ちすぎないよう、あまり感情を表に出さない)→コスプレをしてもアイデンティティが保たれるように、何か識別子になるような記号やアクセサリーみたいなものを付けた方がいいんじゃないか→展示タイトルなりキャラクター名のイニシャルなりをロゴにして、髪飾りにしたらどうかなど→相方となる小さなマスコットキャラクターも合わせてデザインをお願いしたわけですが、いっそ頭に乗せて識別子を兼ねさせたらどうか(SF映画の寄生生物みたいに、それが変形してコスプレ衣装になる)→ガラスのクレア(銀河鉄道999:クリスタルガラスの機械化人)のように肌の色や質感に特徴を持たせる(水そのものがキャラクターになっているようなアイディア)→困り眉とメガネの組み合わせ(メガネキャラ=「主人公ではない」記号/「主人公の横にいる子」という記号)



VI(Visual Identity)=ロゴデザイン

あなたなら、どうやって信用をデザインを用いて表しますか?

信用の記号であるVI。会場で使用することは勿論、ポスター・ブックレット・グッズなど展開するアイテムや報道機関などで紹介する際など活動においてイメージの中心的扱いを担います。(視覚的コミュニケーションデザイン)理念やメッセージを込めて、フォームを提案します。
アニメ・漫画・ゲーム・特撮は関係性が深く、相互に影響しあっています。この分野を嗜好する方に向けた展示であれば、このことを踏まえた作法をデザインの方法を持ってして取りまとめる考え方で良いのですが、今回は東京というファクター(現実)を加味させる必要があります。「この展示は自分たちの方を向いて作られていない」と感じさせないようにするということです。
漫画やアニメではしばしばPOP体と呼ばれるフォントのスタイルや作品の為にレタリングすることが定石の一つです。個性を持って世界観を説明しています。今回はこのこととは逆に個性を剥奪し、誰のモノでもない印象にすることで客観性を獲得し広い理解を得ようと考えました。
ですが、特徴がないということで没個性化し、誰の目にとまらないようでは信用を得ることはできません。ニュートラルな視点を持って特徴を得るコンセプトが必要になります。
東京・パリ、一般・オタクと言った違いを明確化して分け隔てるのではなく、同一に振る舞うことでバリアをなくします。距離に対して移動する手段はいろいろありますが、車と電車が一般的です。誰もが道路に書かれている速度を表記している文字などを見ているとした上で、この書かれた文字のニュアンスが含まれるフォントで表してはどうか?と考えました。つまり、他文化を繋ぐという意味を加えようと考えたのです。この印象を持つ文字は誤認しないように考慮された工業規格などで使用しているジオメトリックなスタイルのフォントが適切なのではないかと印象を探りました。ステンシルの演出も加えることにしました。簡易的に規格化された文字を描く上でインスタントなツールです。
ニュートラルでありながら、汎用性があり、個性を装備したロゴを目指しました。
MANGAとTOKYOを往復する意味を示す左右を示したベクトルは森川先生からの指示になります。
漫画は白い紙にスミで描きます。この理由から、カラーは白と黒としています。



好きなことで、生きていく

あなたはどんなデザイナーになりたいですか?

一口にデザインと言っても様々な領域に及びます。
設計する規模は手元のことから地域を越えて、国家・世界といった領域まで及ぶ企画や規格もあります。
このことに優劣はありませんが、自分の適正はあると思います。
産業革命以後、手工業から工業へと変わり、デザインが生まれ世界が均一化し、失われたデザインも新しく求められるデザインもあります。
様々なデザインに目を向けることは大切ですが、古い・新しいではなく自分ができること・やりたいことが重要だと思います。
それから、グラフィック・UI/GUI・WEB・エディトリアルといったこれまでわかりやすい職として肩書きで語られますが、例えば…ブランディングする上ではこれら全ての要素が求められ、機能することを目的に組み立てられます。
企業がユーザーに提案するスタイルは現在もメインストリームですが、ユーザーと共に作り上げる事例やインディペンデントに開発されるサービスなどデザインする分野は多様です。
最終的な成果物は結果として残り、ニーズに合ったデザインは機能します。この地点にたどり着くまで自分の専門分野に於ける職能・技術・方法を活用することはフォームを形成する為です。技能を利用する前に、どの役割であっても対象に対してヒヤリング・理解・調査することは変わりません。
デザインという方法を何に対して利用するのか?…こそが目的であり、自分の特性を活かせる場になります。
デザインの知識や技術を利用することは目的でなく手段となります。
となると……どんなデザイナーというより、何をデザインできる(したい)のかを考えてみても良いかも知れません。自分の特性を糸口に、領域を拡げていくことも可能です。

自分が得意で興味があり、詳しく知っていることを前に置いて考えみると、立場や職業の優先度が見えてくるかも知れません。

例えば、依頼を受けたプロジェクトが全く知らない分野だった場合、このタイミングから調査・理解を始めることになります。ですが、送り手と近い深度で内容を理解し共有できている上で調査する場合と比べて、どちらの解像度が高いのかは言うまでもありません。

デザインすべき対象を人事ではなく自分事にすることは、送り手と受け手を繋ぐ上で信用に繋がるのではないでしょうか。

自分がこれまで蓄えてきた知識・経験・美意識が活きる場=好きなこと・参加したいことであれば送り手・受け手ともに豊かになれる可能性が高いのではないかと思います。専門性こそ重要と言ってる訳ではなく、軸足となる分野を持ち、ここを基点とし横や縦に移動しつつ、特性のある方法を利用して取り組む。新たな見解や知識、経験は広く移動した方がより深まり、多く発見できる思います。それぞれの方法や考え方、美意識をその分野だけのモノとせず、広く利用することで新たな一面を獲得できる可能性も含まれます。

はじめに触れましたが、好きなことを仕事することは自分にとってもその対象にとっても幸せな関係になる確立が高いと考えています。興味のない分野の依頼を一定の期間でリサーチし理解することでプロジェクトを達成することは可能です。決して悪いことではありません。ですが、どこか他人事になっていることは事実です。これが自分の好きな分野であればどうでしょうか?詳しく理解している上でさらに掘り下げ、自分の応援している分野が活性化する為により自分事として取り組むことが可能です。仕事の内容によって向き不向きはあると思います。必ずしもデザインである必要はありません。好きなことに努めることが、自分にとっても社会にとっても有効なのではないかと思います。


TIPS
自分事化=ゲーム化
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アップデートやゲームチェンジは自分自身で自己責任で
場合よってはニューゲーム

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