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手抜き介護 ㊵嘘つき

夕食前のひととき、母が気色ばんで「アンタに訊きたいことがある。ちょっとテレビ消して」と言う。内容は、兄と義姉と姪二人に母のスマホに連絡しないよう言ったのは何故か、というもの。何の話か、全く分からない。詳しく聞いてみたら、十数年前喜寿のお祝いで一同が温泉に集まったときに、私がそう仕向けたことを義姉が教えてくれたという。

私「私がそんなこと、何でするの。そんな話全然ないよ」
母「私はちゃんと聞いて知ってるんだよ」
私「連絡するなって言って、私に何の良いことがあるの」
母「だからそれを聞きたいんじゃない」
私「それ、ヤバいよ。妄想。時々夢とかテレビとかと混じってそうなるお年寄りがいるの。被害妄想だよ」
母「アンタ、言ってないっていうの」
私「言ってないよ」
母「アンタはそんな風に平然と嘘を言うんだね」

話しながら、これはどう決着をつけたら良いのか悩む。父に「こんな話2人でしてたの?」と訊いたら、「今初めて聞いた。頭おかしいんだ。もともとの性格からくる妄想だ」という。それも随分な言い草だけど、さすが長い付き合いだ。母はよく聞き取れないのか、父に特に怒るわけでもなかった。

「じゃ、私の妄想だっていうことでいいよ。アンタに言っても証拠出せって言われると思ってたわ」

「ことでいい」って何だよ。証拠出せなんて、言ってないし。でもこれ以上話し合うのは無駄だろう。熱くなった気持ちを抑えてキッチンにこもり、夕食の準備を始めた。いつもより早い時間に食卓が整って、3人で黙ってご飯を食べる。黙って食器を片付けて、黙って帰り支度をしていたら、母が「せっかく来てくれているのに、さっきは変なこと言ってごめんね」と言った。

もしかして、お腹が空いてイラついていたのか? こんなとき、多分教科書的には「頭ごなしに否定しないで、まずは受け止めて」とか「感情的にならず、ゆっくり優しく言葉を添えて」とかになるんだろうけど、嘘つき呼ばわりされて受け止められるか!と思う。でも最後の言葉には、ちょっと救われた。

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