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失敗から学ぶためには?

失敗は成功のもととよく言うが、ただ単に失敗したままそこから何も学ばなければ、クローズド・ループ現象(失敗や欠如に関わる情報が放置・曲解されたりして、進歩につながらない現象や状態)となるため、失敗と向き合い、成功につなげる仕組みが必要である。あらゆる失敗を全部自分で経験するには人生は短すぎるため、「人の失敗」からも学ぶ。失敗から学ぶための重要な要素は以下の2点である。

①適切なシステム
頭を使って考えて仮説を検証しつつ、実践で失敗や選択を繰り返して学びながら、戦略の方向性を見極める。いわば数学者的トップダウン方式と生物学者的トップダウン方式の混合だ。「信念を貫く勇気」と、「進んで自分を試して成長し続けようとする謙虚さ」と兼ね備えなければならない。
ここで、よく軽視されがちな「ボトムアップ式の試行錯誤」の重要性を理解する必要がある。
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イギリスの発明家トーマス・ニューコメンは世界初の実用的蒸気汽関を発明した。この蒸気汽関を後に改良し、飛躍的に発展させたのが、発明家ジェームズ・ワットだ。この2人はともに直感的、実践的な知識を備えていたが、彼ら自身、その原理を理解できていなかったのである。
地道な試行錯誤の末に発明されたこれらの技術は、科学者ではなく実践的な知識を備えた職人が生産性の壁を打破するために、失敗と学習を繰り返しながら開発に取り組んだ成果である。
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ところが反復作業が多くて面倒なボトムアップ式の前進をついおろそかにしがちである。トップダウン式で考えたほうが楽だからだ。

②マインドセット
失敗から学べる人と学べない人の違いは、突き詰めて言えば、失敗の受け止め方の違いである。
成長型マインドセットの人は、失敗を自分の力を伸ばす上で欠かせないものとして、失敗に真正面から向き合い、そこから学ぶ。一方、固定型マインドセットの人は、生まれつき才能や知性に恵まれた人が成功すると考えているために、失敗を「自分に才能がない証拠」と受け止める。人から評価される状況は、彼らにとって大きな脅威となる。
2010年に行われたミシガン州立大学の心理学者ジェイソン・モーザーの実験は、成功型マインドセットの被験者と固定型マインドセットの被験者を対象にERNの反応(単純に失敗に気づいたときの反応)とPeの反応(失敗に意識的に着目して、そこから学ぼうとする反応)をテストした。
その結果、ERNの反応に大きな違いは出なかったが、成長型マインドセットの被験者のPeの反応は、固定型マインドセットの被験者に比べて3倍も強かった。
また、成長型マインドセットの人ほど、あきらめる判断を合理的に下す。彼らは自分の「結果」晒すことを恐れたり走ったりすることなく、自由にあきらめることができる。

<失敗型ツール>
■データとフィードバック
あらゆるデータを考慮する。長期的な結果をモニタリングし、類似ケースの過去のデータと比較することで、標準値からどの程度離れているかなどの具体的なフィードバックが得られる。
■パイロット・スキーム(先行テスト)
失敗の力を活かすため、コストを最小限に抑える1つの手段。学ぶ機会をより小さい規模で作ることができる。ただし、あくまで仮説を「検証」するためのもので、あまりにも理想的な条件を揃えて、都合の良い「裏付け」を取るためのものではないと言うことに留意が必要である。
■RCT
ランダム化比較試験。介入群と対照群に区分し、目に見えない反事実も検証する。RCTを実施する際には、長期的・包括的に結果を見守ることが,極めて重要。
■事前検死
究極の失敗型アプローチとして、心理学者ゲイリー・クラインが提唱した。
プロジェクトは終わった後ではなく、実施前に行う検証のことである。あらかじめプロジェクトが失敗した状態を想定し、「なぜ上手くいかなかったのか?」をチームで事前検証していく。失敗していないうちから既に失敗を想定し学ぼうとする、まさに究極の「フェイルファースト」手法である。
まずチームのリーダー(プロジェクトの責任者とは別の人物)は、メンバー全員に「プロジェクトが大失敗しました」と告げる。メンバーは次の数分間で、失敗の理由をできるだけ書き出す。その後、プロジェクトの責任者から順に、理由を1つずつ発表していく。それを理由がなくなるまで行う。


「真の無知とは、知識の欠如ではない。学習の拒絶である」
 哲学者 カール・ポパー

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