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18歳からの20年を軽く薄く振り返る⑥本

 生まれて初めて書いた本は『すべては「裸になる」から始まって』というタイトルで、2006年秋に構成&執筆を開始、表紙を漫画家のやまだないとさんにお願いし、2007年3月末に完成した。
 
 しかし迎えた07年3月下旬、単行本が発売された数日後に出版社が倒産(大事なことなので太字)。原稿料、印税ともに「ゼロ」決定。担当編集者から平謝りされたわたしは嘆くよりもまず、「タダ働きかァ」と苦笑した。

 雑誌のグラビアやイラスト付きコラムの連載、写真集の出版など、散々お仕事をもらった会社である。「そっかー、赤字経営だったのか」と小さく震えたが、報酬一銭もなしという現実の前でげっそりしている場合ではない。

 別に面白い話でもないので端折るけれど、3社ほど声をかけていただいたが全て頓挫し、結果としてはご存知の通り(?)講談社文庫から再販されることになった。2008年のこと。時は経ち、現在は文庫も絶版になっている。

 絶版でも中古品は古本屋で販売されている。文庫版の文章をさらに修正し、Amazon kindleで電子書籍化もした。データを作ってアップするところまでを自力で行ったので、興味がおありならぜひ読んで頂きたいものだ。

表紙のデータ。

 おっと、今回も話の山場はもちろんのこと、オチもつかないし読み応えなどまるでないので、お時間や気持ちに余裕のない方はこの辺で読むのを止めて別の作業に移って欲しい……。「別に構やしねぇよ」って方だけどうぞ。

 続けます。本を出したり文章を書き続けたりしていると、小さな頃から本や書くことが好きで、作家を目指していたのかと思われるかもしれないが、そんなことはない。小説を読むようになったのは27歳前後だ。

 文章を書くきっかけとなったのは、某週刊誌が企画した「アダルト女優が書いた官能小説」への執筆依頼だった。1000字前後で官能要素のある物語、小説でなくても構わないが、とにかくエロ描写の入った創作をと頼まれた。

 へー、官能小説なんて読んだことないんだけど、と思った。短いコラムやエッセイならあれこれ書いてきたが、創作であることを念頭においた800文字以上の文章なんて一度も書いたことがない。が、わたしは依頼を受けた。

 小説をまともに読んでこなかったことや、物語を書いた経験がないことが逆に、「やったことがないからやりたい。知らないから知りたい」といった創作への興味になったのである。自信はないが、好奇心はあり余っていた。

 さぁ執筆をという段階になり、なにせ1000文字、男女のできることは限られている。やんわりプロットを作り、文体は事務所から拝借したSMスナイパーを参考に、900文字ほどの下手な官能風小説もどきを5時間で書き上げた。

 事務所に送られてきた掲載誌で改めて自分の文章を読んだ。これといった感慨もなく、ファンの人や編集者からの反応も極めて薄く、これが最初で最後の官能小説だな……とぼんやり思い、書いたことすら忘れていった。
 
 その後、携帯小説が流行っていたせいで需要はあったのだろう、やたらとエロ系小説の依頼が来るようになってしまい、それはそれで困惑した。個人的には、性愛に関する事柄を描写するのにそこまで興味がないのだ。

 でもまぁ書いているうちに慣れていくのかな、と思った。しかしいくつか書き上げてみても、いまいち達成感がない。無理矢理に書いているからだ。少女漫画のような淡い恋模様の方が好きなので、こればかりは仕方がない。

 どうしたものかと思い悩んでいるところへ、今度は小説現代から執筆依頼がきた。内容はもちろん官能小説で、短編とはいえ最低でも原稿用紙換算で30枚は書いて欲しいという。さんじゅうかぁ、うーむ……と唸る。

 わたしは執筆経験以前に、小説がどういうものかを知らなかった。20代半ばの時点で、夏目も、芥川も、川端も、司馬も賢治も春樹も読んだことがなかった。三島は2冊だけ。だから、30枚なんて僅かな量でも多く感じた。

 思い返すと、小説を読了したことが極めて少なくて、小学生の時に読み切ったのは『モルグ街の殺人事件』(エドガー・アラン・ポー 著)だけ。あとは椋鳩十の本。童話や絵本ばかり読んでいた。

 中学の頃も変わらずで、『新興宗教オモイデ教』(大槻ケンヂ 著)、高校に上がると図書館で借りた『桃色珊瑚』(図子慧 著)くらい。代わりに、ノンフィクションの類はたくさん読んだと思う。

 『密教』『超能力』『古代文明』『精神世界』『悪魔』『宇宙』『霊界』『死』などオカルトを中心とした字面には即座に反応した。漫画でいうところの諸星大二郎の世界観である。自信満々に語るのもどうかと思うが。

 なぜそうなってしまったのか、小説が苦手だった。自分の興味のある分野(SFなど)以外、小説というのは基本的に「嘘くさい表現で赤の他人の鬱陶しい思考を文章化したもの」だと強く思い込んで毛嫌いしていた(何様)。
 
 というか無知ゆえの差別である。本を読むのは好きだ。それでも、大半の小説が読めなかった。これは「信用できなかった」と言いかえられる。小説へのキツイ偏見の根っこにあったのは他人の自意識への強い疑いであった。

 とにかく、小説嫌いなせいで読書量は極端に少ないが、期日までに短編小説の仕事を書き上げなければいけない状況となった。しかもエロ有りで。そこでようやく「ちゃんと小説を知ろう」という気になったのである。

 わたしは大型書店へ出向き日本の作家の並ぶ本棚に立った。官能表現や性描写などを含んだ小説のリサーチをするためである。まずは官能小説の大御所の著作を一冊ずつ棚から抜き取り、ページをめくった。

 始めの3~5行がスッと読めて3ページまで進めたら購入しよう。起承転結をどうつけるか、人物の作り方、性行為や会話の書き方など勉強するつもりで読もうと思った。3冊くらいあれば教科書代わりに使えるだろう、と。

 軽く考えていたのに、頭の3行を読んだあと本棚に戻されてしまう小説が続出した(何様)。売れ筋の官能小説家の本も、大御所先生様の完全に近い文体も「む~ん……」となってしまう。どうしても読み進められない。

 本屋に滞在して1時間を過ぎたころに、背表紙に「♂」「♀」のマークを見て、その本を手に取って開いた。花村萬月先生の『♂♀』(新潮文庫)であった。レジを通し、本の入ったビニールを持って帰宅、ただただ書いた。

 ただただ書いて、最後の1行を書いて、削ったり足したりしていたらその小説のようなものは全部で24枚となり、タイトルを『硫化水銀』として小説現代へ掲載された(そういえば原稿料もらってないな)。

 話は前後するけれど、この官能小説の件は『すべては~』の発売前のことで、担当編集者が気をきかせてくれたか、あとがきを花村先生に依頼してくれたのだった。わたしはまだ辛うじて書き続けている。まだまだ書きたい。
 

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(^^)/幸
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文筆家/『すべては「裸になる」から始まって』『らふ』『虫食いの家』『36 書く女×撮る男』他。プロフ画像は金子山さん撮。

コメント5件

ついつい読み進めてしまう魅力的な文章、いつも楽しみにしてます。(飲みたいです)
ジョージさん、大森さんありがとう、なるべく今年中に飲む機会を設けましょう。ついつい読んじゃうけど、次の日には読んだことを忘れる、そういう文章っていいですよねえ
小説現代からの原稿料、貰っていないのですね。原稿料払えなかったのか、、、
森下さんが若い頃に小説をあまり読んでいなかった、というのはすごく意外でした。でも「嘘くさい表現で赤の他人の鬱陶しい思考を文章化したもの」っていうのはすごく理解できます。そう感じたことのある人のほうが、逆に小説の良さに気づくとどっぷりハマるのかもしれないですね。
いつも原稿料貰ってないですね笑
文章読んでなんかくるみさんのことが少しわかって面白かったです。
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