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黒猫シーグラス 4

 ショッピングモールに到着してから気温の変化が無い。これは期待が出来そうだ。空調管理システムが正常に機能している。食料品売場は大体最上階にあったそれは水没を想定して、災害時の避難場所は屋上のエアポートと決まっていたからだ。濡れた服をランドリーに放り込んで7とエレベーターに向かう。

 電光掲示板には赤ランプが停止中と表示されていた。
「地下駐車場か、一階で停まってるんだ。階段で行こうか」

「あれに乗ろうよ」7が指差す先にはエスカレーターがあった。
「動かないんじゃない?」
「いいから行こうよ」
エスカレーターにも赤ランプ。やっぱり停止中だ。

「おーい。じゅーさーん」エスカレーターがグイングインと回転していた。
吹き抜けの中央から7が手を降っている。三階のフロアに明かりが灯ると楽しい音楽が流れてきた。

 毎日毎日楽しいお買い物〜♪ずんちゃかずんずんちゃ♪

 ショッピングカートを押して肉や魚の冷凍食品を次々カゴに入れていく。
お菓子コーナーでチョコレートとポテトチップスを食べた。
「悪い子だね」「そうだね」顔を見合わせて笑っていた。
ここを拠点にすれば、当分の間、生活には困らない。とりあえず安心だ。

「今夜はお祝いだ!」カートにワインを5本押し込んでレジ前を通過した。7がシーグラスをバラバラと置いた。
(年齢確認エラーです。係員をお待ちください)
表示された文字に7がむすっとした顔で「大人です!」とカメラに舌を出した。

 立体駐車場に戻る頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。クモノスがグリーンに発光してオーロラみたいだった。
 人類が捨てた惑星にまだエネルギーの供給が途絶えないのには理由があった。コロニーで生き物が生息するためには膨大な電力を必要とした。数年前まで地上で機能していた発電システムをコロニーに送電する必要があったからだ。

 電力不足はクモノスが建設されるよりも前から人類の課題だった。2030年代から世界各地に仮想発電所(ヴァーチャルパワープラント:VPP)が建設された。
 VPPは、天然ガスレシプロエンジン、風力発電、太陽光発電、水力発電、バイオマス等、、、形態の異なる電力をワイヤレスで世界中に送電でき、かつ蓄電する機能(エネルギーストレージシステム:ESS)も同時に開発され世界を大きく変えた。
 今ではこの惑星で起こる規格外の竜巻や雷も全て電力に変換している。クモノスは太陽光の吸収と共に送配電網となり、電力供給の中継点としても機能している。グリーンシグナルは正常運転の証だ。

そんな話をいい気分で話していた。
「オーロラ綺麗だね」
「そうだね。オーロラ綺麗だ」
「ワインちょうだいよ」
「年齢確認を」「意地悪っ!」
屋上で2人で花火を打ち上げた。上から見たらシグナルの一部だろうけど、とびきり大きな花火を打ち上げた。