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水着はないけど、スカボロービーチ

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山下由のオーストラリア滞在記。ウルルは大きなちゃんみたいでした。
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「ずっとここで暮らしたい」と白黒の花嫁

「ずっとここで暮らしたい」と白黒の花嫁

同じシェアハウスで暮らしていた小林さんは僕より5つくらい年上のいつもニコニコしているさわやかな男だった。
彼は結婚式などで写真を撮るプロカメラマンだったが、辞めてカメラ片手に世界を転々とし、そのころオーストラリアで永住権を取得するために調理師を目指していた。

彼はいつもリビングでギターをぽろぽろ弾いていた。彼は永住権のためだけに英語を勉強し、調理師になろうとしていたので料理は出来るけど、別に作る

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スプーンに映るぼくとナイストゥーミーチュー

スプーンに映るぼくとナイストゥーミーチュー

留学する人にとってオーストラリアのバイトにもランクがあって、日本人しか働いてないところは中でも一番低い。楽な代わりに(日本語しか使わなくていい)何故か時給が最低賃金を下回る。いまだに仕組みはわからないけどそうだった。

次のランクが日本人が経営しているけど英語がネイティブじゃない外国人も働いているところ。ここは日本語も英語も半々使う。自給は大体最低賃金くらい。一番いいのはネイティブの人が経営してい

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でもキャシー

でもキャシー

オーストラリアの人と結婚した日本人との間に生まれた子供たちに日本語を教えるボランティアを3ヶ月くらいやった。

5~7歳くらいまでの子供たちが日本の文化や言葉を勉強するために週に一回日本人のボランティアスタッフが色々教えたり遊んだりするクラスが開かれていた。両親がどちらも日本人で暮らしている日本語も英語もほぼネイティブな子もいれば日本語は全くわからない子もいた。基本的にはそのクラスでは日本語で話し

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嫌われ松子の一生

嫌われ松子の一生

僕はその頃、変なストイックさを抱えていて仕事先とシェアハウスにいる日本人以外とは極力話さず、英語のみで生きる生活を心がけていた。日本語で書かれている小説も読まず、映画は英語字幕の吹き替えでない洋画ばかり見ていた。でも英語力は中学レベルの下の下と言う感じだったので意味はわからなかったし、外国の人と話す会話もかなりの部分が勘でしゃべっていた。

なんとかこの滞在中に英語を習得したい。その一身で好きな映

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アンパンマン悪魔

アンパンマン悪魔

ベビーシッターのバイトをした。バイトと言えるのかちょっとわかんないけどジャパニーズレストランで働いていたときにそこの日本人店主の子供にやたら気に入られて、店主が帰りが遅いときなんかに時給で子供たちを見守った。
子供は5歳のお姉ちゃんと3歳くらいの弟くんだった。他の従業員も彼らの面倒をたまに見たけど何故か僕がよく気に入られて、僕がウェイターで他の女の子が散歩に連れて行ってあげるシフトになっていても僕

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水着はないけど、スカボロービーチ

水着はないけど、スカボロービーチ

タカシくんという男の子と仲良くなった。
彼は山口にある大学を休学してオーストラリアに来ていた男の子で、僕より2つか3つ年下で、英語が堪能なよくしゃべる男だった。

何故か僕になついてくれて、よく彼の家に遊びに行ったりしていた。彼はヘラヘラしながら「コーヒー飲む?」と僕にコーヒーをすすめてくれた。飲んだコーヒーは今まで飲んだどんなコーヒーよりもまずく、どうやって作ったのか聞くとドリップコーヒーとイン

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ルームメイトのジョンくん②

ルームメイトのジョンくん②

前回の続き
ジョンはプレステが大好きだった。毎晩ケンブリッジの英語教材に向かう僕に「勉強は身体によくないよ」と言いながらプレステにいそしんだり、コメディードラマのフレンズを見て最終回には「さみしいよ俺は」とか言いながら泣いたりしていた。

ある日家に帰るとプレステがなくなっていた。遅れて帰ってきたジョンにどうしたのと聞くと「ユウ。俺はこのままじゃだめだ。何のためにここにきたのかわからなくなる」と言

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ルームメイトのジョンくん①

ルームメイトのジョンくん①

オーストラリアで最後暮らした家は韓国人と日本人が一緒に暮らしているシェアハウスだった。スワンリバーにほど近い住宅街にある家でやたらと広い家だった。オーストラリアは都市部以外は基本的に高い建物がなかった。とにかく土地があるから上に伸びる必要がないからだと思う。その家も平屋で日本ならもう一つ小さな家が建てられそうなくらいの庭があった。

僕の部屋は玄関入ってすぐのところにあり、ジョンという少し年上の韓

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スカボロービーチでデート

スカボロービーチでデート

サンダルを遠くに投げて遊んでいたらどこにいったかわからなくなってしまった。飛んだあたりを結構探したけど砂にまぎれたのか全然見当たらない。仕方がないから片方はだしで歩いた。隣ではツユカが「大丈夫?」と心配してくれていた。やっと好きな女の子と一緒にスカボロービーチに来ることが出来たのに僕はサンダルが片方ない情けない感じのまま砂浜を彼女と一緒にしばらく散歩した。

オーストラリアまでいって僕が好きになっ

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チキンレース

チキンレース

一生分のチキンはもう切ってしまっただろう。

バイトしていた弁当屋では“チキンレース”と呼ばれる仕事兼イベントがあった。
その店の主力メニューがテリヤキチキン弁当だった。いくらだったかもう忘れちゃったけど、とにかくよく売れた。本当のテリヤキとは違うみたいで、照り焼き風といた感じだったけどオーストラリアの人はそんなことはわからないし、おいしかったのでとにかくみんな買っていた。

そのテリヤキチキンの

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カナダに行ったカップル

カナダに行ったカップル

語学学校で仲良くなった恭子に「学校を辞めちゃうから、最後にご飯を食べに行こう」と誘われた。
かわいらしい人でケラケラとよく笑い、中々クラスになじめない僕になぜかいつも話しかけてくれた。

日が傾いてオレンジ色になってきたのパースの駅前に現れたのは中古で買ったと思われるカーキ色の車と助手席から手を振る彼女だった。
運転席には背の高い優しそうな男が「どうも」と頭を下げた。

「おいしいピザが食べられる

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貧乏レシピ戸棚風味うどん

貧乏レシピ戸棚風味うどん

とにかくお金がなかった。バイトに行くために乗るバスのお金もないくらいなかった。
シェアハウスのキッチンの戸棚には前の住人が残していった食料があってそれを食いつないで生きていた。
お米はバイト先のジャパニーズレストランで安く買うことができたので、お米だけはあった。

なんでお腹が減るんだろう。お腹さえ減らなければ食べなくていいし、食べるためにお金を使わなくてもいいのにと結構本当に腹が立った。そんなと

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夜とアボリジニ

夜とアボリジニ

バイトが終わって店の前でイワシタさんという従業員とオーナーと話していた。どちらも車で来ていて僕を家まで送ってくれるというけどどっちの車に乗りたいんだ。どっちでもいいですよ。みたいなやり取りをしていた。
結局イシワタさんの車に乗って家の近くまで送ってもらうことになった。

車は普通の灰色の乗用車で車の中は少しタバコくさかった。
バックミラーにカンガルーの形をした芳香剤タグがゆれていた。
イシワタさん

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まきたばこの夜

まきたばこの夜

 巻いて巻いて巻いて巻いて。オーストラリアでは日本で売っているような箱に入ってるタバコは高い1000円くらいする。だから皆、安いまきだばこを吸う。折り紙を四分の一くらいにした薄い紙にタバコの葉を巻き寿司の具みたいに載せる。そのとき吸い口になるところに小さなフィルターもセットする。くるりと包んで、紙の端をなめる。なめたところも巻きつけると唾が紙に接着してタバコが出来る。それを夜な夜な何本も作る。

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