さよならシャボン(33) 修正
Story : Espresso
Illustration : Yuki Kurosawa
これは〇〇と行った海の写真
確かこの時は着替えた後になかなか合流できなくて、ナンパされたところを助けてもらったっけ
普段の優しい彼らしくない、珍しく見せたその男らしさに胸を打たれたのを今も鮮明に覚えている
こっちの写真は〇〇と山を登った時の写真
登山が趣味だという彼に着いていくため、自分も登山が趣味だと嘘を吐いて登った山だ
慣れないことをしたものだからすぐに足を痛めてしまい、それに気付いた彼が自分に合わせて登ってくれたっけ
おまけに、後半はまともに歩けなくなっておぶって下山までさせてしまったのを今も覚えている
今度は〇〇と遊園地に行った写真
彼は絶叫系が大好きなのに、自分は絶叫系が苦手なものだから、私に合わせてメリーゴーランドなんて子供騙しなものに乗ってくれたっけ
どこのアトラクションが混んでいるのか、トイレは大丈夫か、待つのは辛くないか、細やかな気遣いに笑みが溢れた
写真の中の二人は笑顔で今の私には眩しい
写真はその瞬間の切り取りだ、当時、幸せの真っ只中にあった頃の自分がそこに居る
修正ペンを手に取る
写真の中に居る自分を頭からつま先まで、丁寧に白く塗り潰していく
一枚一枚、私の姿を塗り潰していく
否応なしに思い出に触れる行為
やめておけばいいのに、と囁く自分を無視して、無意味な塗り潰しを続ける
自分を塗り潰し終えた写真が増えるにつれて、嗚咽が漏れる
胸の中がムカムカするような、吐きそうな感覚
それでも、救われるような気もしたから止めなかった
これで満足か
蔑むような、憐れむような声
塗り潰した部分はまだ輝いていた
***
「さよならシャボン」チーム
いつもサポートありがとうございます。 面白いものを作ったり、長く履ける靴下を買ったりするのに使わせていただきます。