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サイエンス・テクノロジーの変遷と創薬

 

科学技術を利用した産業において全般的に言えることですが、サイエンスの発展は、産業の発展に影響を与えます。 

医薬品産業のおいても同様のことが言えます。一般的に新薬の開発には莫大な費用と長い時間がかかりますが、物凄い売り上げに繋がる可能性があります。そう言った話がある一方で、創薬とサイエンスには密接な関係があります。なぜならば、サイエンスの発展によって疾患理解(疾患の発症原因そのものの発見や発症や病態悪化などに関連するメカニズムの解明など)が深まったり、抗体や細胞の機能を高める方法が分かるなどによって、医薬品による治療の可能性が高まり、医薬品開発を開始する強い動機となるからです。

医薬品の歴史を見ると、古くは薬草といった生薬や各種材料からの抽出物、化学合成、抗体に代表される遺伝子改変・発現、再生医療を含む細胞治療といったような変遷を経ています。疾患によっては、細胞治療も良い時もありますし、飲み薬だけで良い場合もあり、サイエンスの発展に伴って私たちは利用可能な医薬品のレパートリーが増え、その便益を享受しています。

 医薬品の代表的なものは、低分子医薬品で、いわゆる一般的な錠剤やカプセルなどのお薬として処方されるもののほとんどが、この部類に入ります。

1990年代から、抗体医薬品に代表されるバイオ医薬品が台頭していることは周知の事実だと思います。日本初の抗体医薬品で世界にその名を轟かせているのは、小野薬品工業のオプジーボ(抗PDー1抗体)で、これまでの抗がん剤とは一線を画す新しい作用メカニズム(免疫チェックポイント阻害)でがん細胞を駆逐する医薬品として登場し、多くの製薬企業がこれに類するメカニズムを持つ抗体医薬品の開発に参入し、しのぎを削っています。

 さらには、2017年に入り、がんに対する効能を持った遺伝子操作したヒト免疫細胞(CAR―T)も2品目がアメリカで承認され、新しい流れが始まっています。これらの医薬品の薬価は、日本円にして5000万円もするというニュースが流れ話題になっています。医療経済的な議論は置いておいて、この医薬品を支えるサイエンスや技術を見ると、非常に裾野が広いことが分かります。例えば、T細胞ががん細胞を認識するメカニズムの理解が土台にあり、T細胞を単離・培養する技術、T細胞の遺伝子を操作する方法(ゲノム編集技術や細胞に遺伝子を導入する技術など)、細胞の保存技術や輸送技術などが挙げられます。

 医薬品開発は、医薬品の元となるものを探す創薬段階、動物実験などでその効果を検証する非臨床段階、人でその安全性・有効性を検証する臨床試験段階があり、その後に当局による審査を経て、処方されるようになります。

数年前から、この創薬段階においてオープンイノベーションと呼ばれる方法論がよく語られるようになりました。これは、製薬企業内部だけで全てを完結するのではなく、広く世の中から知見を社内に取り入れ、創薬に役立てるという流れです。こうした流れは古くからある流れではありますが、近年顕著な流れとなってきており、各社はそれこそ必死に新しいサイエンスやテクノロジーを探しています。

それは取りも直さず、新しいサイエンスやテクノロジーは新薬開発と背中合わせとなっているためで、サイエンスの変遷と非常によく重なっていることを表しています。こうした視点で夢の新薬開発とサイエンスやテクノロジーを重ねて見てみるのも、なかなか面白いなあと思って見ています。

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