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オッズをめぐる冒険

残念なことに、この文章を読み進めても“必勝法”なるものには辿り着かない

ただ、公営競技、こと競艇における”オッズ”という、掴みどころがないながら、常に貴方の命を握っている存在について、ある程度知った気になれるかもしれないし、読後の投票行動にささやかながら善い変化を授かれるかもしれない。それくらいの期待には、精一杯応えたいと気を引き締めつつ、話を始めていこうと思う。お付き合いいただけたら幸いである。

宮島競艇場大型スクリーンに掲示されるオッズ

素人から玄人、あるいはギャンブルに手を染めたことのない方まで、“オッズ”くらいは知っているはずだ。そう、「〇.〇倍」というやつ。自分が買った舟券が的中すれば、購入金額にその倍率が掛けられ払戻してくれる
例えば、ある買い目1点に1000円を投じ、見事的中したとしよう。その目の「確定オッズ」が2.5倍であれば、2500円が返ってくるという仕組みだ。
勿論、外れた時は何も返ってこない。

ここまで原稿用紙1枚弱の文字数を使って、「なんて当たり前なことをもっともらしく語るのか」とお感じだろう。しかし、こんな辺鄙な物語を読み始めて下さったみなさま方を、折角ならば一人も取り残さずに“オッズをめぐる冒険”にお連れしたい。そのために、「1000×2.5=2500」から始めさせていただいた。
辛抱強く下にスクロールを続けていただければ、必ずや物語は貴方に追いつくことを約束する。

さて、話を戻そう。“オッズ”だ。この物語の幾つかの意義の一つは、オッズの仕組みの理解である。
したがって、先ほどの「2.5倍」という数字が生まれる過程をから話そう。
日本の公営競技には競技や投票券種によって定められた“控除率”というものがある。これは、ある競技の投票券種に参加者が投じた賭け金の総額からその割合分を控除したものが当該券種の払戻原資となる仕組みだ。
抜き取られた(控除された)金は、広く事業運営や自治体や財団への交付に使われる。そして、競艇ではその割合を全賭式で25%と定められている。

きょうも、ていちゃん。より

たとえば、あるレースの3連単賭式に1000万円の売上があったとする。上の通り250万円が控除され、払戻原資は750万円となる。その750万円を的中者(票数)で分け合うことになり、ある目の投票計300万円(3万票)分が的中だった場合、払戻倍率は750÷300=2.5倍となる。
この控除率、侮るなかれ。いや、むしろその大きさに「勝ち目なし」と参加しない判断こそ、英断と言えるかもしれない。

国内法では許されないが、仲間内でテラ銭(控除)のない博打を繰り広げたなら、1000÷300=3.3倍の払戻しとなるところを、「2.5倍」だ。
テラ銭の必要性を一定理解しつつも、25%、この大きさへの実感こそが、安易な博打で深手を負わないための成長の第一歩であると強調したい。

ここからは、実際のレースを下敷きに、いよいよ「オッズをめぐる冒険」を始めていく。ぜひ、一緒についてきてほしい。博打歴が長い方はこれらの一部あるいは全部について、空想した方もいるかもしれないが、整然と語られる機会は寡聞にして知らない。

この物語で取り扱うレースは、2022年5月6日に開催された〔徳山6R〕とした。先に断っておくが、このレース何か特別な特徴があったから取り上げているのではない。ほぼ、無作為抽出である。
“ほぼ”というのは、話を進めていくにあたって「票数の推計」が必須になるため、「推計可能な売上規模のレースを選んだ」という含みを意味する。

黒猫が空き待ちしている賃貸物件(1Rワンルーム)

いま一度、オッズの概論に戻る。我々が知っておくべき“オッズの特徴”とは何か。いくつか代表的なものを挙げる。

先ず、「動く」ということ。投票は締切時刻まで絶え間なく進んでいく。様々な目に様々な金額の投票がなされる。その度にオッズは変化し、多くの場合、締切直前頃には約2分毎に更新され、HPや中継映像、本場モニターに掲示されていく。買い目を練りながら過ぎていく時間の中で、「どんどん下がってる」や「結構つくようになってきた」という現象はまさにこれ。オッズはナマモノということだ。

次に、「動きやすさ」について。同じ金額の投票でも、すでに売上ている規模によってオッズへの影響度は異なる。1億の売上に1万円投じるのと、100万の売上に1万円投じるのでは、後者の方がオッズを下げてしまいそう。そのように感じるだろうし、計算上もそうなる。また同様に、同一の売上に対しては、投じる額によってオッズへの影響度が変化することも自明である。
自分の投票で自分が損しないためには、十分に大きな売上が見込まれるレースを選ぶか、十分に小さい投票しか行わないことだ。

最後は、投票の意思決定を行う時点では「確定オッズ」が手に入らないということ。どんなに粘っても、締切1分前に表示されるオッズで判断しなければならず、それらの投票を締めて計算されたものが「確定オッズ」となる。公式サイトでこれを目にする頃には本番の大時計は回り始めている。
したがって、急に自分の買い目が、締切直前まで悩んでいた石油王と被ってしまい、1.0倍になるということも可能性としてはありうる。もらい事故である。
こんな極端な話ではなくても、あらゆるレースのあらゆる買い目を観察していると、締切直前から確定にかけて倍になったり、半額になったりなどは日常茶飯事であると言い添えておく。

それもこれも、競艇の売上の少なさに起因する。朝8時台から夜9時台まで、多い時には200R超を繰り広げる競艇。
売上はそこここに散らばる。1Rあたり、全券種合わせて1000万の売上なんてこともある。さらには、券種間売上の格差売上の大半は3連単に占められ、その他の券種では投票にリスクを伴うほど売上が少ない。

それでは、実際に見ていこう。GW中日の平日、昼前の平場〔徳山6R〕。
3連単の確定売上は215,766票で、2000万ちょっと。語る尺度にもよるが、端的に言うとこの売上は少ないと考える。
それでは、2連単ではどうか。7122票。70万円ちょっと。これを少ないということに異論のある方はいるまい。どうしようもない売上である

この低売上や券種間売上格差は次のことを生み出す。それは、この物語の冒険の地、「オッズの歪み」である。
これを可能な限り、明快に紐解いて語りたいと思う。みなさま方に目くるめく”オッズ”の世界を少し知った気になっていただきたいという願いを込めて。

2022年5月6日〔徳山6R〕3連単(確定オッズ)

上で触れている通り、競艇にはいくつかの券種がある。「3連単」、「3連複」、「2連単」、「2連複」…という具合だ。
それぞれ、指定しなければならない組合せや順序が異なる。そして、これらを横断する「合成」という概念、手法があるのはご存じだろう。
例えば、「2連複」は1着と2着の組合せを当てる券種。的中要件上、「2連単」の裏表2通りで「2連複」と同じ性能を得られる。
「3連単」と「2連単」も同様に、「3連単」1-2-9(9は全てに流すという意味)は4通り。これは「2連単」1-2と同じ性能ということになる。
大切なのは、結果の組合せや順序による的中判定上の性能が同一であるだけで、払戻性能は異なるということ
「3連単」4点を平買い(すべて同じ金額で買う)すれば当然、3着の人気によって配当は大きく変わるだろうし、配当がほぼ均一になるように配分を掛けたとしても、「2連単」のそれと一致するかは分らない。結論から言えば、多くの場合で一致しない。
それは、券種によって参加者の買い方に違いがあるのかもしれないし、低い売上の中でオッズが収斂されずに確定を迎えるからかもしれない。
原因はいくつか考えられるが、いずれにせよ、あらゆる時点において同じ的中要件を持つ勝舟投票券の払戻性能が異なり、また、変化している事実がある。これを「オッズの歪み」という。

具体的に〔徳山6R〕の「オッズの歪み」について、見ていこう。
繰り返しになるが、私たちは逆立ちしても締切前に「確定オッズ」や「確定票数」を知ることはできない。したがって、より実践的に締切直前の時点に立ち、そこで得られる情報で語ってみたいと思う。
ここに投票締切時刻の1分前(正確には40秒前)、BR公式サイトに掲示された3連単オッズを2連単オッズに合成した「3連単合成オッズ」「2連単オッズ」がある。

明日から使えるテクニックとして、合成オッズの手計算方法をお伝えする。まず、合成したいそれぞれのオッズの逆数(1/〇)を求める。4倍のオッズの逆数なら、1/4という具合に。そして、それらを全て足し合わせる。最後に足し合わせた数の逆数を求める。それが合成オッズだ。
無限の資金をもって、完璧に配当を均すことはあらゆる観点からすべきではないし、できない。実際の配分には凸凹が残るが、理論値として有益である。

「(黒猫的コラム)合成オッズの求め方」
「3連単合成」と「2連単」および「対比」
(投票締切時刻1分前掲示オッズより)

同じ的中要件にもかかわらず、締切直前においても全30通りが左右で一致しない。倍以上オッズが異なる目も2点見受けられる。ペットボトル飲料を自販機で買うか、ド〇キで買うかほどの差がある。

多少脱線するが、乱暴に言って期待値75%のゲームで100%を超える、つまり黒字収支であり続けることは容易ではない。それだけに、期待値や回収率は非常にデリケートなものであり、数パーセントでしのぎを削る世界だと理解している。「回収率200%!😜」など滅茶苦茶な数字を謳う者も散見されるが、そんな話に耳を傾け、夢見るだけ時間の無駄である。目標110%、比類なき勝利だと思う。そんな世界において、斯くもオッズが散らかっている。つぶさに観察し、数%でも掠め取り有利に立ち回らない手はない。

さて、3連単を合成した2連単とそのままの2連単を比べて、「オッズに違いがあるよね~」では流石に終われない。そんなこと誰だって知っている。
「裁定取引」こんな言葉を聞いたことはないだろうか。ここからは券種横断的に有利な立ち回りをして、どれだけこの博打を易しいものにできるか。そのシミュレーションをしていく。

繰り返しになるが競艇の控除率は25%。全通りのオッズの逆数の和は約1.33‥となり、さらにその逆数である全通り合成オッズは0.75倍になる。まるでトランプでもくるくるとひっくり返すかの如く、当たり前の話だ。

先ほどの2種類のオッズからより高い方を取り、30通り並べたものがこちら。さらに、全通り合成オッズを求めると0.82倍となった。これは控除率が18%に下がったような景色だ。中央競馬の単勝(控除率20%)より割の良い勝負が出来そうである。

それぞれオッズが高い方を選んだ30通り

さて、そろそろこの冒険に対してツッコミの行列ができているはずだ。全部にはお答えするのは不可能だが、想定される大きめのものについては手当てをしておきたい。

「これは『最終表示オッズ』での話ですよね?『確定オッズ』だと妙味買いで格差は収斂されるんじゃないんですか?」

今回のケースでもされています。見てみましょう。

「最終表示オッズ」においてそれぞれオッズが高い方を選び、
その確定オッズ30通り

締切直前の「最終表示オッズ」において、よりオッズが有意な券種を選んでその全通り合成は0.82倍だった。その券種選択のまま、確定オッズを迎えたとする。その結果が上の通りだ。全通り合成0.79倍。控除率20%切りの夢は見事に散った。
0.82倍なら、例えば三国で実践して電投キャンペーンで8%キャッシュバック(節間購入500万)を足し、90%。よし、黒字が見えてきたぞ!などという妄想もできるが、3%の下落にはややがっかり。

「2連単売上なんてどうしようもないって言いましたよね?3連単で合成を作るにせよ、2連単で張るにせよ、自重計算などリアリティーのある話なんですか?」

結論から言うと、普遍的な手法への発展性は欠くでしょう。例えばこのケースの場合、自重(自分が投票する重みでオッズが下がってしまうこと)なしで79%。75%よりは良いので、有難いこと。それでも前述のとおり、2連単低売上問題に直面してしまう。
最終表示オッズ時点での2連単売上票数は4,574票、約45万円。投票の少ない目では6票、600円しか入ってないものもある。確定で7,122票。ここでも12票しか入ってない目がある。この規模の売上に何票を入れられるだろうか。

「2連単」票数推移

最終表示オッズ時点で、相対的に最も妙味があったのは「2連単」の6-4。合成の179.7倍に対して381.1倍を示していた。ここから先は各目の確率(予想)の話も関係してくるが、期待値さえ取れれば「あら、お安い」と手を伸ばしてしまいそうだ。
だが、実際はどうか。9票に対し16票も買いが入り、213.6倍まで急落した。逆に3連単は241.5倍に急伸、逆転したのだ。

票数があれば、シミュレーションができる

貴方や私は期待値が取れると判断し、「2連単」の6-4を5票(500円)ほど買ったとしよう。確定票数は25+5=30票、総票数7,127票。(7127*0.75)/30 = 178.175を切り捨て処理して178.1倍。381.1倍が178.1倍(うち60倍分は自重による下落)では、どんなに精確な予想も成す術がないだろう。

本稿は「オッズをめぐる冒険」。徒然なるままに様々なアプローチを模索する。合成による券種選択で妙味を得る話からすると逆張りになるが、売上規模の大きい3連単に同じ額の投票を行ったらどうなっただろうか。
最終表示オッズ時点で6-4-9の総票数は440票。そこに230票の投票が入り、計670票となる。ここに、2連単と同じように(5票では均一な払戻しのための傾斜配分はできないが、)5票を加え、675票。確定総票数も215,771票となる。(215771*0.75)/675=239.745を切り捨て処理して239.7倍自重は2倍程度の下落にとどまり、券種妙味シミュレーションの178.1倍と比較して有利な結果となった

あくまでもこれはケーススタディであり、一般論ではない。妙味の収斂は、売上の軽い2連単に強く生じ、手を出すべきではないとの断定には至らない。その軽さゆえに大口に押され、大きな妙味を持つオッズが出来上がることも少なくない。大切なのは決定的なベクトルを決めつけることではなく、現象や性質を理解し、数%の期待値を紡ぎだす見立てを磨くこと。そう信じて疑わない。

ここまでのお付き合い、誠に有難うございました。およそ6,000字
そろそろ、冒険をまとめる。とはいえ、決まった教訓を申し上げるつもりもない。1000円の舟券の配当が2.5倍なら、2500円を手にできる。という算数から、券種妙味戦略の実際、自重シミュレーションまでお付き合いいただいた。その物語の中から仕組みやプロセスなど、“何か”を感じ取っていただき、みなさま方それぞれの舟券購入に役立つと良いなと思うばかりだ。

(締切数分前)
2連単1-2が2.3倍。手持ちの資金5000円を頭の中で掛けてみる。11500円。2.1倍くらいまであるかもなあ。10500円。3連単合成にするのも良いか?購入画面遷移して配分してみても良いけど、安くて戻ってくるのも煩わしいし、間に合わなくなるかも。まあいいか。5000円なら2連単でも動きやしないでしょ。

-舟券のある風景-

本当にそれでいいのか?
この物語をお読みに下さったみなさま方には解脱してほしい光景である。

最後に。
締切まで1分を切った世界には、各賭式の票数を推計し、オッズを比較し、ときには予測し、期待値を並べて精確に投票を執行してくるアルゴ(BOT)勢が居る。どうやったって、計算の速さは競えない。おまけに予想にも強いときた。

人間よ、どう戦う?何で戦う?それが問題だ。

今回は締切最直前の投票動態、券種間裁定取引などにフォーカスを当てた。また別の機会には、投票フェーズの切り分け分析による参加者のモデリングに挑戦してみたいと現在取り組みを進めている。これには強力な共同研究者もいるため、大舟に乗った気持ちだ。乞うご期待。

ここまでのご拝読に心より感謝申し上げて
黒猫合唱団事務局 拝


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