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連載小説・海のなか

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とある夏の日、少女は海の底にて美しい少年と出会う。愛と執着の境目を描く群像劇。
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#長編小説

小説・海のなか(35)

小説・海のなか(35)

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 見つかってしまった、と思った。
 今だけは誰にも会いたくなかったのに。けれど、よく考えてみれば会わないはずがないのだ。陵の家はこの神社を抜けてすぐだった。そんなことすら頭から抜けてしまうほど考えに没頭してしまっていたらしい。気まずさに顔を上げることができず、足元に視線を彷徨わせていると、彼の手に握られているそれが自然と目に入ってきた。その両手には焦茶の通学鞄とビニール袋がある。きっと彼

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小説・「海のなか」(27)

小説・「海のなか」(27)

第八章  「夢中と現実」

瞼が上がると、「ああ、これは夢だな」という冷めた自覚が生まれた。飽きるほど繰り返した夢だった。
 夢の中で、わたしの胸は締め付けられるように苦しい。目の前には残酷なほど美しいブルーが広がっている。口から吐き出された水泡がゆらゆらと漂うのを目で追った。
 青と再会したあの日から、毎夜海に溺れる夢を見た。いつも同じ夢だ。そして、苦しい夢だった。
 夢は夜毎妙な生々しさを伴っ

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小説・「海のなか」まとめ 4

小説・「海のなか」まとめ 4

どうも。クロミミです。


今回は連載小説「海のなか」の(18)から(21)をざっくりとまとめていきます。お付き合いください。


いやはや。いつぞやこれからは更新頻度あげますとかのたまったアホはどこでしょう。ここです。


ほんまに有言実行のかけらもねえクソ野郎ですな。ほんま恥ずいわー。


というわけでいつも通り更新頻度ゴミなので、忘れた人も多いと思います。


実はひっそり最新話を

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小説・海のなか(7)

小説・海のなか(7)

第4章 ダイアローグ

「それにしても、随分とありふれた娘を選んだものだ」
 妖艶な女は興醒めたようにぽつりとこぼした。低く澄んだ声が虚空に広がっていった。私は女の横顔に目をやりつつその美しさにぞっとした。秀でた額が滑らかな曲線を描いている。そうしてそこから続く鼻梁から顎にかけてのラインには無駄なく削ぎ落とされた鋭利な美が宿っていた。黒くうねりのある長い髪が額縁のように憂いのある表情を彩り、見るも

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