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連載小説・海のなか

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とある夏の日、少女は海の底にて美しい少年と出会う。愛と執着の境目を描く群像劇。
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2021年8月の記事一覧

小説・「海のなか」(23)

小説・「海のなか」(23)

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例の一件から、愛花は何かと俺に話しかけてくるようになった。俺はといえば、美しい猫が俺にだけ特別なついたかのような、幼い優越感を感じて日々を過ごしていた。実際、あの日から愛花の鋼鉄の扉はほんの少しだけ開いたようだった。
 愛花は実際付き合ってみると、見た目の華やかさに反してかなり捌けた性格のようだった。何かにーーーいや、誰かに粘着したり執着することを嫌う性格。だが、一方で夢中になれるもの

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小説・海のなか(22)

小説・海のなか(22)

第七章  「追憶」


 愛花と出会った時から、きっともう手遅れだった気がする。
 今から思えばあれが、一目惚れというやつだったのかもしれない。もう昔すぎてよくは覚えてない。けれど、いくつかの場面が断片的に焼き付いている。特に、中一のあの瞬間のことだけはやけに鮮明で今でもくっきりと思い出すことができた。愛花を初めて目にした瞬間の印象。
 あいつの笑ったうっすらと赤い口元とか。綺麗な、そのくせ人を

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小説・「海のなか」まとめ 4

小説・「海のなか」まとめ 4

どうも。クロミミです。


今回は連載小説「海のなか」の(18)から(21)をざっくりとまとめていきます。お付き合いください。


いやはや。いつぞやこれからは更新頻度あげますとかのたまったアホはどこでしょう。ここです。


ほんまに有言実行のかけらもねえクソ野郎ですな。ほんま恥ずいわー。


というわけでいつも通り更新頻度ゴミなので、忘れた人も多いと思います。


実はひっそり最新話を

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小説・「海のなか」(21)

小説・「海のなか」(21)

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 座っているのにそれより深く、落ちて行くような感覚だった。わたしを支えるものが消えてしまった。
 図書室はいつも静かだ。わたしの知る人は、誰も来ない。だからここにいる。いつだってそうだった。わたしの中では人恋しさと孤独への欲求が並び立っている。誰にも必要とされていないから。窓から見下ろすと、遥か下に空虚な校庭が広がっている。その空白さえもが胸をざわつかせた。顔を上げると、微かに海の端

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小説・「海のなか」(20)

小説・「海のなか」(20)

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 図書館の入り口近くはすぐカウンターになっていて、その真ん中にひっそりと男性の司書さんが腰掛けていた。頭には白髪が入り混じり、頬も心なしか痩けている。神経質そうな生真面目そうな面持ちが印象に残った。部屋には常に司書さんのタイピング音が切れ間なく舞っていた。うるさいわけではない。それどころかいっそう静寂を際立たせている。
 彼は丸メガネの奥から来客を一瞥して微かに頭を動かすと、また何事も

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小説・「海のなか」まとめ(3)

小説・「海のなか」まとめ(3)

どうも。クロミミです。
さてこのまとめ記事もとうとう三回目。
先日19回目の更新をいたしました連載小説「海のなか」。

てか、更新のたびに文字数の違いエグくてごめんなさい。特に多くなってしまった時は、気がついたら6000字近かった。だって話の区切りがなかったんだもんよ。出来るだけ1500から2000をひとつの回として更新したいものよと思っておる次第。

キャラクター解説については前回のまとめ2で

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