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MAD LIFE 007

1.ねじが抜けてなにかが狂った(7)

5(承前)

 中西は店の中へ入るとすぐに、窓側の奥から二番目の席に目をやった。
 サングラスをかけた若い男が座っている。
 かなりがっちりとした体格だ。
 彼の身体は程よく日焼けしていた。
 奥歯を強く噛みしめ、男のそばへと歩み寄ると、
「あの……」
 サングラスの男に声をかける。
 男は風貌に似合わない優しい声で、
「すみません。そこ、人が来るので……」
 と答えた。
 中西は額の汗をぬぐって、言葉を紡いだ。
「小池さんですよね?」
 男の態度が一変する。
「あんたが間瀬さんかい?」
 そういって、サングラスの奥から中西を睨みつけてきた。
「もっと若い人かと思ってたぜ」
 アイスコーヒーを一気に飲み干したあと、中西に右手を伸ばす。
「ほら、さっさと寄越しな」
「金は持ってない」
 中西は即答した。
「なに?」
 サングラスの男――小池が立ち上がる。
「ボスじゃないからってなめるなよ、おい」
 小池が中西の胸倉に手を伸ばす。
 中西は素早く彼の手首をひねりあげた。
「くっ……」
 小池が表情を歪める。
「強請りはよくないな」
 中西は彼の耳もとにそう囁いた。
「……てめえ、間瀬じゃねえな。何者だ?」
 小池が小さく呻く。
 中西は口の端に笑みを浮かべながら答えた。
「俺は平和を愛するサラリーマンさ」

(1985年8月19日執筆)

つづく

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