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<哲学入門>哲学に分かりやすく、面白く入門できる本3冊。その読み方も。


★『史上最強の哲学入門』

 とにかく色々な哲学者ってやつが何を真理として考えているのか知りたい!って人にピッタリ。 真理に関わるテーマごと32人の大物哲学者たちの「この人はこう思ってこう考えたんだよ!」がまとまっている。
 真理というワードに惹かれる人、それに対する哲学者の考えが知りたい場合に最適。なおこの本で扱われるテーマは 不変の真理、国家の真理、神様の真理、存在の真理の四つである。(真理なのにいくつもあるのか!ってツッコミたい人はツッコミながら読むと楽しめる)


 特徴① 最初に出てくる哲学者にセンスがある

 まず 相対主義=多様性=一種のLGBTQ 的な発想の弁論家 プロタゴラスから入るのが現代っぽい。哲学自体が「物事ってホントに多様なんだよ」っていう哲学的な基礎があることを教えてくれる。〇。


 特徴② 哲学者の「つまり何が言いたいのか?」が要約されている

 哲学書はキホン分厚い。
 そのうえ困るのが「つまり何が言いたいのか?」が分からない。
 なぜか? それは中身の9割は根拠となる”哲学的手続き”の話だから。しかも困ったことに、哲学者の情熱はこの”哲学的手続き”にほぼ100%が費やされる。だからそういう意味で無駄が多い。ただしこれは、科学なら”エビデンス”に相当する部分なので当然ではある。
 そんな中、この本はそれを大胆に省きつつも、骨格としてはしっかり残っておりシンプルにまとめている。〇。


 この本で入門するメリット <哲学的な考え方の基礎が得られる>

 ①哲学の多様性と普遍性の同居を理解できる!
 哲学書には著者の個人的な哲学的な志向が潜む。(入門書でもそう)  
 哲学に限らず思想書を読むうえで大事なのは「多様性=相対主義=LGBTQ」を口にしながら、まるで手品師の視線誘導=ミスディレクションのように巧妙に読者の視野を狭めることがあるということ。(ただし、そのミスディレクションをせずに語れることは何もない。時に著者すら自分のミスディレクションに気付けない)その点、この本は相対主義のプロタゴラス先生を最初に持ってくるあたりそこに配慮されている。
 またテーマが”真理”なので、ほかの哲学書などを読むのに必須な「そもそも哲学的な正しさとはなんだ?」(これは多くの哲学書が最初に触れない内容=手品でいう自分の手品の種を最初に教える手品師はいない)という視点も得られる。


 ②入門者にとってつまらない&理解不能な”手続き”を超えられる
 
哲学でも科学でも結論と背景を知っているから「え、この手続きは間違っているんじゃ?」とか「根拠となる話の理解の仕方が間違っている!」という形で思想を批評しあえる。
 よって入門者はまずは過去の哲学者が「何を言いたかったのか?」「なぜそんなことを言おうと思ったのか?」この二つを知るべき。
 そのうえで、その二つの点を線でつなぐもの。つまり彼らの結論を支えるエビデンスである”哲学的な手続き”を理解したほうがいい。
 むしろ哲学者の手続きの知識で頭でっかちになると、現実を正しく理解できる手続きを探すのでなく、手続きで理解できるように現実を歪め、本末転倒な罠にハマりやすい。哲学をゴネたり論破したりするツールにするのは個人的には良くないと思う。(むろん、本当に手続きが正しそうな場合。科学で言えば実験や観測が示した結論が自分の仮説と違う場合は、仮説のほうを疑う勇気も必要だ。その矛盾はまた哲学の面白さであり、難しさ)


 この本の読み方 <哲学は知識でないことを意識する>

 哲学は色んなテーマがあると思いながら読むと、楽しい&理解が深まる気がする。あと哲学をただの雑学と捉えるのではなく、自分の価値観と地続きなリアルなものとして読んでみる。で、自分の価値観をブラッシュアップする材料にする感じ。
 そもそも「あなたはあなた、私は私」で哲学が終われるなら、プロタゴラスだけ読めば終われる。がそうはいかないのが世界で起きている現実である。だからこそ「なぜ終われないんだ?」とか考えたりできる。
 他にも「なんで科学者ニュートンがこの本にいるの?」(彼はその知的探究の情熱を今の感覚で言えば非科学的な思索にも費やしていた)
 「この哲学者とこの哲学者、なんか似てるな」「でも結論は違うな」とか、哲学者とその思想を図鑑や標本として読むのではなく、料理の材料として見てみるのがおススメです。

次行きます。



★『哲学用語図鑑』

 「哲学=難しい」と感じる。でもでも哲学に興味はあるという人なら、この本から入って間違いない。内容は哲学者の使う各用語の図鑑だけれど、その概念を各哲学者が”なぜ考えて、それが次の哲学者のどんな概念へどう繋がるか”を、2500年前ぐらいから現代までひと続きで教えてくれる。 

 特徴① 「用語」の図鑑という点にセンスがある

 哲学者は未知の用語を勝手に作って使う。
 それどころか他人の用語を自分の意味で使いまくる。
 これは哲学をとても難しく誤解させる。
 だが、この問題点は逆手に取ると、用語の説明=哲学者の考えの説明という構図になるのである。
この本はそれをうまくやってのけている。
 
 どういうことか? 哲学書を料理本に例えると。先ほどの本がいろんなシェフが自己ベストカレー(特定のテーマの哲学思想)をなぜどのように料理したか&そのカレーの簡単なレシピの料理本だとするなら、この本は2500年間の哲学者の各自己ベストカレーにつかう”食材”の図鑑的な料理本である。この本は哲学者がなぜその食材=用語を欲し、どう料理=哲学観に組み込んだのかを教えてくれる。

 面白いのが、このように哲学の用語を食材としてとらえたとき、実はその食材はだいたい使い勝手が悪い。お前の料理にしか使えないだろ! みたいな食材だらけである。
 なぜか? それは哲学者が自分の思う最高の料理を作りたいのに、それに必要な食材が哲学界になかったから。だからこそ新しい食材=用語を作る。よって食材は生まれからして特定の料理に最適化されている。だからこそ、用語説明だけで哲学者の考えが分かる。〇。

 特徴② 時系列、物語のまとめ方がうまい

 だいたいの哲学は、その時の哲学界の常識への反発である。
 料理の例えで言うなら、「今世間でウマいと思われている寿司は本当の寿司じゃない。俺が本当の寿司を食わせてやる!」みたいな感じ。
 で、この本は歴代の寿司の進化(あるいは変化)のなかで使われた食材=哲学の概念のなかにある技術、考え方、捉え方を順序正しく並べているので用語の並びに物語的な必然としての繋がりがある。よって理解しやすい。〇。


 この本で入門するメリット <哲学を難しく感じなくなる>

 ①とにかく哲学の敷居が下がる
 
読んでみると分かるのが、哲学者の感じている肌感覚は僕らと大差ないということ(そう感じられるようにうまく要約されているからでもある)
 その感覚を説明・理屈付けるためだけに複雑な概念・用語が必要なだけなんだなって感覚になれる。よって哲学のハードルが下がり、哲学の大事なところ・美味しいところを早い段階で食べられるようになる。

 ②哲学書を読めるようになる
 
哲学は用語が複雑なうえに、それぞれが重要な役割を持っている。
 用語が分からないままに哲学書を読むのは、英単語を勉強せずに洋書を読むようなもの。分からない単語が多すぎると、文脈すら把握不能。ただの暗号である。またこの本はwikiなどと違って用語を物語的に読めるので実用的。あとは形式が図鑑なので、よくわからん単語に出会ったときの辞書としても使える。


 この本の読み方 <分かりやすいからこそ疑問に思う>

 哲学者の”哲学観”ではなく、その哲学観を持つに至った理由やその必然性をより深く想像して読んでみると知的でおもしろい体験ができる。
 ただ、よく書かれている分、分かった感に騙されやすい部分もある。
 教科書的な「〇〇が起こりました→この人はそれに対応しました」みたいな短い文章の中にある省略部分もホントは大事。「え、なんでそんなことが起ったの?」「え、なんでそれに対応する必要があるの?」みたいな、当たり前として扱われている部分を疑いながら読むと楽しいと思う。



 次へ行こう。


★『問いかける法哲学』

 ちょっと変わり種だけれど、トロッコ問題とかパラドックスって言葉が好きならこの本はとてもおすすめ。 哲学って実は法律の基礎にもなっている(法思想史の基礎固めである序盤・中盤は哲学者だらけである)から、哲学をもっと現実に結びつけて考えたい人に合う。これは法哲学書であるが哲学書でもある。 
 内容としては法律の基礎知識よりも先に、まず賛否の分かれる問題の議論演習をやってみよう! みたいな感じだ。臓器売買はダメか? ドーピングは禁止すべきか? といった比較的イメージしやすい問題から、国家は廃止すべきか? といった問題へスケールアップしつつ抽象化していく。

 特徴① 哲学的思考=フィロソフィカル・マインドが詰まっている

 哲学の思考力を力技で言い切るなら、それは論点を明らかにする力と言える。何かを疑い・理不尽に思った時。私たちはどんな事実を知り、どんな事実を語れば、それを解消できるか。これを考えるのが哲学である。
 ではなぜこの本でそれが感じられるようになるか? 
 それは、この本は最初から何かを教えてくれるわけではないから。

 この本ではまず問題からやってくる。でもそれは「真理とは何か?」というような抽象的な問題ではない。抽象的な問題は答えが違っていることの社会的な結末がピンとこないし、「別に違ってていいんじゃない? 人それぞれでいいんじゃない?」と簡単にプロタゴラス=相対主義者になれる。だがこの本での問題は「ドーピングってしていいの?」といったとても具体的な問題である。が、子供に「人を殺してはなぜいけないのか?」を答えるのがそう簡単でないように、常識を言葉で正当化することは難しい。だが、最大の厄介事は答えるのが難しいことではない。例えば「あなたは死にたくないでしょ。人が嫌がることはしていけないの。」と答えるとしたら子供は時にこう考える「じゃあ僕が死ぬのが嫌でなければ殺してもいいの?」と。
 
 哲学も法哲学も、ここで論点を発見し整理する知恵と言語化が求められる。
法哲学でなく法学であれば、最終的には「法律ではこうなっている」からで終わる思考も、法哲学はもっと哲学的に「法がそうなっているのはなぜ正しいのか?」まで考える。
 
よって、この本につまっている問題には「多様性の乱用」でも「とにかくこれが正しい」でも。どちらでも答えられないにも関わらず、放置もできない問題が詰まっているのだ。 


 特徴② 哲学が身近になる、いろんな意味で

 哲学者とは哲学を勉強する人ではない。哲学と現実を交差させられる人である。
 よく哲学はなんでも疑う学問みたいな風に扱われる。実際そうだがこの本を読めば、常識を疑いたい気持ちと、疑うことや疑う人への本能的な嫌悪。ひいては逆に”疑われる側”になった時の恐怖。あるいは”既に自分が疑われる側”に立っているのではないか? という疑惑への気付き。そういった真の意味での哲学的な思考も感じられるかもしれない。

 この本で入門するメリット <ロジカルな哲学を基礎にできる>

 法哲学は哲学からわりと最近に派生した分野であり、かつ実社会において影響が大きいので、それなりに洗練されてきており、いろいろな概念が比較的に共通言語をつかって語られていて分かりやすい。これは哲学で迷走することを防げるかもしれない。
 ただし、哲学的な自由度でいうと、哲学に一歩か二歩ほどは譲る。
 「法」という一文字がつくだけで避けられないような制約、命綱とも首輪ともつかない制約もある。例えば法哲学は最後は「法」に還元することを前提に含むことが多い。とすると、法そのものを法的に疑うなどは難しくなってくるなどなど。デメリットもある。


 この本の読み方 <とりあえず自分で考える>

 この本は15人の著者で書かれた本だが、自分自身が16人目になったつもりで考えてみると面白い。各種問題を✕に近づけるロジックがあると思ったら、〇に近づける逆のロジックも紹介される。読んでいるうちに、最初の問題に出てきたロジックが「これ他の問題にも応用できるな?」となったり、「むむむ。とすると、さっきは✕だと思った問題も〇になるのか??」といったふうに自然と迷いだすことになる。それは”迷ってしまう”のではなく”迷えるようなった”ということである。問題にひそむ複雑な要素が部分的に分かるようになったからこそ、例えばそう「この問題は二つの点で正義が両立できない。それとそれ。これとこれ」というような形で、なぜ迷えるのか、迷わざるを得ないのかを説明してみたりすると、”より上手く迷えるようになった”という状態になる。それは単なる多様性を鵜呑みにした浅い状態ではない。なぜなら、何で迷っているかを個別化できるということは、例えばその問題ではホントは問題になっていない点にも気付けるということである。それは一見は賛否両論な答えにも、実は容易に全員が納得できる明快な答えを導ける可能性を切り開くものであると思うから。



以上、入門用におすすめの三冊でした。

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