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不在の召喚

時折、昨年末に見た朝吹真理子さんの個展を思い返す。
 表参道にある小さな書店の2階で展示が行われていた。
 道が歴史や人々の記憶を吸い込み、ふとした時に吹きかける、そうした記憶の吐息をまとう作品たちが明るい色彩で描かれている。
 絵が展示された場所と描かれた場所と同じ表参道だ。絵を見た帰りに、道に吸い込まれる未来の記憶を同時に浴びる。今もその感覚は体に残る。
 年が明けて大地震が起きた。
 しばらくして、復興より被災者の方に対して都市部への移住を求める意見が出た。現実的にはその方向へ進むのだろう。
 だが、人は土地を、土地が吸い込んだ記憶を簡単に捨て去ることはできるのか。さらに言えば、土地と共に忘れられる記憶はどこへ行くか。答えは出ない、ずっと考えている。
 もしかしたら、忘れ去られる記憶をつなぎ止めるために芸術があるのかもしれない。土地を失ったあとの記憶は実態から浮遊し、フィクションに限りなく近づく。
芸術とは想像力を媒介とした不在の召喚なのだ。

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