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「そんな約束はしていません」

みなさん、こんにちは。
労基署にいる社会保険労務士、黒田英雄です。

会社が従業員を採用する際には、どのような労働条件なのかを書面で明示しなければなりません。
この書面を「労働条件通知書」といい、明示をしていない場合は労働基準法第15条違反になります。

ただし、この通知書の発行義務は採用の時だけです。
たとえば、昇給をしたり異動をしたりして労働条件が変わった場合でも、労働条件通知書の交付は必要ありません。

このような時には「雇用契約書」を作成して、会社と従業員が内容を確認した上でそれぞれが署名し、各自1通ずつ保管するというのが理想です。
「理想です」と書いたのは、雇用契約書の作成は法律で義務付けられているわけではないからです。

労働契約法第4条では『労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。』と規定されています。
あくまで「できる限り」ですし、違反しても罰則はありません。

労働相談を受ける際には、雇用契約書があるかどうかを必ず確認します。
持参されている方ももちろんいらっしゃいますが、まだまだ「発行されていない」という相談者が多いです。

雇用契約書がないと、その従業員のお給料や働く場所、期間雇用なのか無期雇用なのかなど、大切な情報が曖昧になってしまいます。
就業規則(会社のルールブック)の作成義務がない、従業員が10名未満の小規模な会社では、昇給は?ボーナスは?退職金は?など、いろんなことがあやふやなままです。

実際に受けた相談で「翌月から時給が上がりますと口頭で言われたのに、明細を見たら元の時給で支払われていた」というものがありました。
会社に問い合わせると、こう言われたといいます。

「そんな約束はしていません」

このことを労基署に通報したとしても、時給が最低賃金を下回っていなければ法違反が存在しないため、会社を指導することはできません。
でも、もし雇用契約書があってそこにアップした後の時給が書いてあれば、その通り支払わないと賃金未払いが生じているという状態になるため、指導が可能です。

時給アップの話があった時に「じゃあそれを書面でください」と会社に言うのは、気まずいと思う方も多いと思います。
でも、万が一の時に損をしてしまう可能性がありますので、しっかりと雇用契約書の作成を求めましょう。

また会社にとっても、契約内容を従業員と確認しておくことで、不安や不満を感じさせずに長く勤めてもらえるというメリットがあります。
やましいことがないということを明らかにする意味でも、雇用契約書を作成することをお勧めいたします。

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ラジオレギュラー「ろうどうステーション」
You Tubeに動画がアップされています。

※写真はインスタでアップしているものです。
kuroda_hideo(黒田英雄)で検索してみてください。

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