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少し贅沢をし過ぎたみたいだ

「今更その話題かよ」
と呆れられるのを承知で敢えて語りたい。
いや、むしろ。
ほとぼりが冷めつつある今だからこそ語らなければならない。

ゲスの極み乙女。について、だ。

皆様もご存じの通り、ギターボーカルの川谷絵音が既婚者の身でありながらベッキーとオトナチックな関係になり、猟奇的なキスをしてロマンスがありあまった結果、私以外私じゃなくなった騒動は記憶に新しい。

ベッキーは、まぁいろいろあったけどなんとか芸能界にカムバックし、少しずつではあるがまた活躍の場を広げている。ように見える。
個人的には応援してあげたいし、当事者でも何でもない僕としては彼女に対して

「いけしゃあしゃあとテレビに出やがって!この泥棒猫!」

みたいな感情などは、当然ながら一切ない。

あれだけ世間に不祥事を騒ぎ立てられ、街を歩けば後ろ指を指され、所属する事務所には洒落にならんレベルの迷惑をかけたのだ。
もういいだろう。これ以上彼女に対して恨み辛みを言えるのは川谷の嫁か、サンミュージックの役員だけだ。

しかし、当の川谷絵音はどうだろう。

あの騒動の真っ只中、“ゲスの極み乙女。”のテレビ出演を知ったときの
「おいおい、正気か?」
という気持ちは今でもよく覚えている。
ちょうどフルアルバムのリリースが決定した頃だったし、もう既に何ヶ月も前から決まっていたことだったのだろうが、本人からしたら気が気ではなかったはずだ。
しかもアルバムタイトルは

「両成敗」

もうナメているとしか思えない。
(アルバムタイトルを初めて見たときは思わず爆笑してしまった)

日頃音楽番組などほとんど観ない僕ですら流石にちょっと気になってテレビを観てしまった程だ。注目度としては申し分ない回だっただろう。

さて、肝心のオンエアだが。
まず一番最初に画面に登場した川谷は深々と頭を下げた。
そして、それに続いて気まずさを隠しながら(あくまでも僕にはそう見えただけだが)笑顔で登場する他メンバー。
トークの時間もあったのだが、当然というかなんというかベッキーのベの字も出てこず。
挙げ句、そのあまりにジャストタイミングで不謹慎なタイトルの新曲ではなく、何故か二つか三つ前のリリース作品である「ロマンスがありあまる」を演奏し、曲が終わるや否や川谷は何も言わずにまた深々と頭を下げた。
そのまま番組終了まで彼は終始ずっと神妙な面持ちのまま一言も発することはなかった。

大人としては100点の対応だと思う。
余計なことを一切言わずに、ただただ頭を下げる。
謝罪や反省の意を示す態度としてはそれ以上はないだろう。
僕もこないだそれをやったばかりだ。
なんなら始末書も書いちゃったしな。クソが。

だが、しかし。
その放送を見終わった後の僕の率直な感想は

「なんじゃそりゃ……」

であった。


少し昔話をしたい。
もう何年も前に亡くなってしまったのだが、忌野清志郎という奇抜な格好をした、いかにもロケンローなおっちゃんがいて。
日頃から反原発を訴えていた彼は、原発を批判した曲を発表したのだがレコード会社に圧力がかかり、結局その曲が収録されたCDは発売中止になってしまったばかりか、FM東京というラジオ局はその曲を放送禁止扱いにし流すことすら禁止した。

ロックは負けたかに見えた。

しかし忌野清志郎も黙ってはいなかった。
のちに生放送のテレビ番組に出演し、本来予定されていた曲ではなくFM東京を散々こき下ろした内容の曲を歌い上げ、終いには放送禁止用語としては最強最悪のあの四文字をマイクロフォンを通して放送させ、テレビカメラに向かって「ざまぁみやがれぃ」と言い捨てた。

ここまで散々いじっておいて信じてもらえるか不安だが、僕は“ゲスの極み乙女。”のファンだ。
故に、川谷絵音を擁護したい気持ちも少なからずある。

でも“ゲスの極み乙女。”ファンである以前に、僕はロックミュージックのファンなのだ。

さすがに忌野清志郎のようにやってしまうのは今の時代にも合わないだろうし、同じ事をやっても仕方がない。

しかし、元々予定されていたであろう不謹慎丸出しなタイトルの新曲を演奏するくらいはしてよかったのではないか?

世の中に中指を立てることくらいしてもよかったのではないだろうか?

もっと欲を言えば。
歌い終わった後にカメラに向かって

「いやぁ、ベッキーまじ最高でしたwwwwwちょっと声デカかったけどwwwww」

とか言えたらもう最高だった。
大人としては死んだ方がマシなくらい最低だけど、ロックミュージシャンとしては最高だった。

勿論賛否両論はあるだろう。

「なんて品性下劣な奴だ!こんな奴は二度とテレビに出すな!」

と至極真っ当な事を言う人もいれば、

「これこれ!こういうのを期待してたんだよ!」

と僕のように下劣に盛り上がる人も一定数いるはずだし、

「そうか…ベッキーって声デカいのか…」

と悶々としながら眠れぬ夜を過ごす中学生男子もいるはずだ。

それでいいのだ。
ロックミュージシャンの誰もが大人に褒められるようないい子ちゃんになりたくてロックを始めたワケなど絶対にないのだから。

先述したとおり、
僕はロックミュージックのファンであるが、やっぱりそれでいて紛れもなく“ゲスの極み乙女。”のファンなのだ。

川谷絵音には今後も良質な楽曲をどんどん生み出していってほしいし、それを心待ちにしているファンだって大勢いる。

「あいつ超ゲスだし女の敵だけど、曲はすごい良いよね」

これでいいじゃないか。
それがすべてだよ。川谷さん。

さて。
件の騒動でベッキーは出演していた数々のCMを降板させられ、事務所が負った違約金は数億円にまでのぼった。
一方、“ゲスの極み乙女。”の2ndアルバムはある種、炎上商法ともとれるそのタイミングの良さから、このCDの売れない時代に記録的なセールスを上げたらしい。

では、最後にそのテレビ出演の際に本来披露する予定だったであろうこの曲を紹介する。

ご存知でない方は是非とも聴いてほしい。


「両成敗でいいじゃない」





やかましいわ。




(※ 2016年8月9日に書いたものをリライトしました)


お金は好きです。