学習優位の経営

この本のメモ書きです

序章:今、なぜ成長か

ユニクロの攻めは始めから成功したわけではない。
「強みが活きる世界でないとユニクロ式の即適用というわけにはいかない」

これまで収益の柱の本業から、投資先行型の拡業へ経営資源をシフトする意思決定は、事業責任者ではなく、全体のポートフォリオを中長期的な時間軸で俯瞰できる経営トップにしか出来ない

構成

次世代成長に向けた日本発グローバルな経営モデルを提唱
最初に前提として、価値(スマート)とコスト(リーン)の両立を目指す「スマート・リーン」型事業モデルの重要性を確認
その上で持続的な成長を駆動していくための組織モデルとして、自社のDNAを基軸として、学習と脱学習の良循環をもたらす「メビウス」モデルの提唱

1〜3章:スマートリーン経営が次世代の成長において有力だという議論。概念的
4章:スマートリーンを全社で駆動するうえでの基本要件
5章:スマートリーン経営を始動、持続していくために求められる組織運動
6章:企業内でメビウス運動を回し続けるための仕掛け
7章:メビウス運動を動かし始め、定着させるための実践論

第1章:スマート・リーンが拓く次世代成長

・ポーターモデルの限界
そもそも顧客は価値が高くかつコストが安いものを求めている
企業もコストと価値を両立させるにはどうするかという本質的な問いへと発想の転換が必要

・イノベーションのジレンマ
低コストの代替品が高付加価値品並にパフォーマンスを高めることによってイノベーションが生まれる。
これに対し高付加価値な立ち位置から低コストを目指そうとしてもバリューチェーン全体が高コスト構造になってしまっていて限界がある
このジレンマのこと

・スマート・リーンによる限界突破
既存事業が成功しながら、自ら次々にイノベーションを仕掛けていく企業がいる
いずれの企業も顧客が本質的に求めている価値を常に追い求め、コスト構造を徹底的に絞り込み続ける点が共通項
価値(スマート)軸とコスト(リーン)軸を同時に追求するスマート・リーン

任天堂「枯れた技術の水平思考」 すでに十分こなれた技術を使うことによって、開発コストを抑え顧客に受け入れられやすい手頃な価格も実現できる。イノベーション=技術革新ではない

トヨタ「顧客が本当に求めている価値のある商品を、顧客の値頃感に合わせて提供する」ことが起死回生の原点

第2章:資産構造を組み替える

・日本企業の三重苦 下記が弱い
「マーケティング力」顧客にとって新しい体験価値を創造する力
「事業モデル構築力」無駄のないバリューチェーンをゼロベースで設計する力
「経営レベルでの決断力」スマートとリーンに関しての思い切った決断

・非日常(ハレ)から日常(ケ)へ
マーケティングの本質は新しい顧客価値を創造すること
Wiiはゲームの世界に新しい顧客価値をもたらしたが、独創性があったわけではなく「人を面白がらせる」という任天堂のDNA
ZARAやH&Mがファッション性の高い「ハレ(非日常)」の追求に対し、ユニクロはあくまでベーシックな「ケ(日常)」の世界で価値を高めることで、幅広い顧客層を獲得した

・資産の三層構造
資産を構造化する際は共層(外側)、協創(中間)、競争(内側)の三層でとらえる
共層(外側):他の事業者と資産を共有する領域
競争(内側):自社の資産を武器に、自社ならではの戦いを展開する領域
協創(中間):自社の資産と他者の資産を組み合わせて新しい価値を生み出していく領域

第3章:スマート・リーン経営のダイナミズム

・「鏡の国」の競争原理
スマート・リーン経営の宿命:どれだけ実績のある企業でも次のイノベーターによって陳腐化されてしまう。変化しないことが最大のリスク。

・「新化」と「深化」
進化には2タイプがある
新化:本質的に新しい者を生み出す。スマート軸では全く新しい顧客価値を創出。リーン軸では全く新しいビジネスモデルを展開。
深化:新しく生み出された価値や手段をさらに深める。スマート軸では新しくはないものの良質な顧客価値を創出。リーン軸では斬新的な改良によってより筋肉質なビジネスモデルを展開

・進化の二重構造
市場や商品の進化においては、新化と深化が繰り返されている

・隣へのずらしによる「伸化」
「新化」と「深化」という時間軸上の2つの位相に加えて、対象を生態系の中の他の商品や事業に拡げることによって、さらなる進化を図るという位相が「伸化」

・進化のメビウス
スマート・リーンのいかなるモデルにも完成系はなく、常に3つの位相で進化の方向性を探り続けなければならない

第4章:成長を駆動する組織要件

・四つの「見えざる資産」
図参照
顧客洞察で大切なことは、市場の中での顧客の利用シーンや行動をつぶさに観察し、顧客の声として表層的に現れてこない「本音」をつかむこと
任天堂は、親が子供のゲーム浸りを快く思っていないことを察して「家族の誰からも敵視されない」というコンセプトに切り替えてWiiの開発に踏み切った

・DNAの二つの螺旋構造
企業のDNAは動的DNAと静的DNAに大別される
静的DNA:本業の特性と密接に結びついた価値観や思考様式、そこから生まれる作法や行動パターン
動的DNA:組織に継続的な変化をもたらす行動規範
トヨタの静的DNAは「仕組みづくり」動的DNAは「本質を突き詰める」

・DNAの読み解きと読み替え
顧客の視点から自社のDNAを読み解き直す。この際は現在の顧客と将来の顧客という二つの視点から読み解く
そのうえで、どの訴求点に磨きをかえ、問題点を本質的に解決するために、自社のいかなる強みを活かすか考え抜く

・DNAを基軸とした「マーケット・アウト」
顧客の声をひたすら収集しても、自社のDNAの琴線に触れないかぎり、イノベーションの源泉になりえない。
市場の声を受動的に受け入れるのではなく、自社のDNAレベルで本質を読み解き、
自社のDNAのパワーが発揮できるように読み替えることによって初めて、自社ならではの顧客洞察になる。
プロダクトアウトでもマーケットインでもなく「マーケットアウト」(自社のDNAに基づく顧客の潜在需要の読み解き、読み替え)

第5章:組織のメビウス運動

・逆上がりするメビウス
既存市場である右上の顧客接点のボックスを基点とし、左下、左上というひねりを経て、真ん中のボックスでこれらの知恵を事業モデルに落とし込んでいく
この逆上がりをしているメビウスの輪のような運動をいかに組織的に担保するかが、成長を持続し加速する上で必須の「メビウス運動」

・Appleの「つなぎ」
1、どのサイクルも既存商品における顧客接点が着想の入り口になっている
2、顧客からのフィードバックを自社のDNAに照らし合わせて、独自の顧客洞察にまで高めている
3、着想されたコンセプトを実際の商品や事業モデルに落とし込み、顧客の利用体験がフィードバックされる仕組みを作り込んでいる

・リクルートの「ずらし」
1、動的組織DNAを基点として、事業の「場」そのものをずらしている
2、対象顧客を既存顧客から未顧客や非顧客へずらしている
3、収益モデルをずらしている

・学習と脱学習の良循環
4つの見えざる資産をつなぐ→実践の中から学ぶ「学習」プロセス
学習を繰り返すことで4つの見えざる資産がさらに蓄積される
一方で顧客からのフィードバックが予想から大きくずれれば、前提や考え方そのものを変える必要がある→「脱学習」プロセス
脱学習はメビウス運動そのものをリセットして新しく始め直すことでスタートする
4つの見えざる資産に奥行きがでてくる

「つなぎ」による学習を通じて、経験値としての見えざる資産は「スキル(知財)の経済」に磨きをかける
「ずらし」による脱学習を通じて、異質な経験値を取り込むことで「スコープ(範囲)の経済」を獲得する
メビウス運動を繰り返すことで、同質、異質の経験値が蓄積され「スケール(規模)の経済」が生まれる

・学習優位の確立
いかに事前に分析して仮説をたてても、顧客がどう反応するかは実践までわからない。
また仮説が正しくても顧客の環境に変化が起こると、こちらもそれに合わせてすばやく適応することが必要。
このように先が読めない時代には、まず実践して市場からのフィードバックを得る。
その結果をふまえて次の手をうつというサイクルを繰り返す→組織が経験を積むことで新しい知恵が生まれることが「学習優位」

第6章:組織の慣性を突破する

・空間軸上のねじれ
組織要件を構成する空間軸と時間軸には本質的な二律背反が存在する

・ミドル機能によるつなぎ
図参照
空間軸上での二律背反を恒常的につなぎなおす機能
市場と自社の間を有機的に結びつける「ミドル機能」

・時間軸上のねじれ
空間軸上のねじれは、フロント、バック、コアのミドル機能を担うチームを組成する。
販売部門のトップをリーダー+事業部門のトップをサブリーダー みたいな

時間軸上のチャレンジは右側で既存事業として粛々と実践しつつ、そこでの顧客からの学びや自社に蓄積された資産をてこに、左側で新しいイノベーションをしかけていくこと。
企業は今日のメシの種である既存事業(右側)い軸足をおいており、次世代事業(左側)の検討はないがしろにしがち。
既存事業と次世代事業の間でヒト、モノ、カネなどの企業資産をいかに配分するかという本質的な課題。

次世代事業は「社内ベンチャー」的に、既存事業から距離をおいて仕込まれることが多い。
しかし既存事業によって培われた多様な資産を活用できなければ、本当のベンチャー企業と変わらないどころか、
意思決定のスピードやリスクの取り方において、むしろ大きなハンディを背負いかねない。
既存事業と次世代事業の間で資産をずらして分配、流通する際にいかに資産を「プラス・サム」化できるか。
そのためには4つの見えざる資産の要となる組織DNAを磨くことがカギ。

・リクルートのミドル機能による「ずらし」の仕掛け
リクルートの強みは全社員がバックミドル機能を果たしうる点
「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という理念と、創発性を促す仕組み

CARE(Capability,Authority&Responsibility,Evaluation)というフレームでリクルートを分解すると
1、人材、能力(capability)
新卒採用に3分の1の社員を割き「とんがった」人材を選別する
中途採用によって積極的に異質な人材を取り込む
内定者研修によってDNAを浸透させる
組織内外の人材の出入りにより、常に新陳代謝を進める
提携業務は外部ネットワークにたより、社員は創造性の高い非提携業務に取り組む

2、権限・責任(Authority&Responsibility)
新規事業は現場がボトムアップで立ち上げる
成功確率が50〜70%のストレッチ目標を自身で設定する
詳細なアサインメントをしないことにより、現場が自身で考え行動する
社内に小さな会社を乱立させ、権限を委譲して競わせる
入社すぐに事業の責任を持たせることで、経営感覚を身につけさせる

3、評価(Evaluation)
事業部の業績、個人業績で報酬に大きく差が出る成果主義を徹底
成功者には名誉で報いることで、モチベーションをあげる

フロントミドルにおけるリクルートの特徴は、同社のDNAを持った社員が顧客接点をもっていること
「わからないことは客に聞く」

・異質性の取り込み
少数の異質な人材を中途採用しても、DNAそのものが変質するほどのインパクトは期待できない。
事業を営む中で異質な取り組みを仕掛けた方が効率的。
そのためにの大きく3つの手法がある
1、社内辺境型:社内でこれまでと全く異なったとやり方を実験的に試みる組織を立ち上げる
2、企業買収:異質な血を大量に取り込む
3、共創:他者と異質な知恵を出し合うことによって新しい価値を創造していく

・「新化」と「伸化」を仕掛ける
ある会社で新しい事業が大きく育つパターンが2つあった
1、本業そのものが技術革新によって時代遅れになる恐れがあるとき
2、本業そのものと補完性が高く、本業そのものの価値を向上させつつ、新たな収益源をもたらす事業

・ミドル機能を呼び覚ます
いざ戦時となると、覚醒する企業もすくなくない。
将来シナリオを描くことによって現状に対する危機感を呼び起こし、企業の奥深くに潜む動的DNAを揺り動かすことによって、時間軸上のねじれを超えられる。
経営トップに求められていることは、組織の潜在力をあますことなく引き出して、組織全体に学習と脱学習を繰り返させること。

第7章:企業進化の実践

・経営変革のグローバルスタンダード
Shrink to Growと呼ばれるモデルが欧米の定石
①キャッシュ上の打ち手:在庫や出入金管理の徹底でキャッシュ・コンバージョン・サイクルを短縮(Shrink)
②損益計算書上の打ち手:事業運営の仕組みを簡素化することでオペレーション費用を切り詰める(Shrink)一方、マーケティング費用は逆に増やして、市場シェアを他社から奪う(Grow)
③バランスシート上の打ち手:中核事業以外は売却(Shrink)する一方、M&Aをてこに成長市場への参入を加速することでバランスシートを毀損することなく事業ポートフォリオを再構築する(Grow)

・日本型変革モデル
Shrink&Grow
まず大きくGrowさせる領域を明確にしてそちらに向けて資産をシフトすることで、痛みを伴うものの将来性のある道筋を示すことを狙った
ステップ1、社内社外インタビューやこれまでの歴史から会社の本質的な強みを抽出
ステップ2、幾多の事業機会をDNAに照らし合わせてコア、フューチャーコア、ノンコアの3つの領域に仕分け
ステップ3、コアとフューチャーコアの事業機会を事業モデルとデリバリーモデルに落とし込み
ステップ4、事業ポートフォリオを俯瞰して、資産の大幅な配置換えを設計

・自己組織化の方程式
メビウス運動を体質化するにはトップダウンではなく、ミドル機能が自己組織化するモデルを目指す必要がある。
そのためにはトップ自身が組織の中にずらし(ゆらぎ)とつなぎ(引き込み)の仕掛けを埋め込まないといけない。

そのための方法9個が下記

「正の危機感」による「ゆらぎ」の創発
ずらしをもたらす上で必要な3つ
1、異質性を取り込む仕掛け作り
2、組織DNAを覚醒させる
3、危機感の醸成 −正(ポジティブ)のゆさぶり
 ┗大きな成長の可能性を示し、成長意欲をかき立てる
 ┗将来シナリオを描き、変化の必要性を仮想体験させる
 ┗自社にとって経験値がない領域に、企業活動のポートフォリオを拡げる

「つなぎ」をもたらす「本質的な質問」
つなぎをもたらすうえで有効な手法3つ
1、「本質的な質問」を投げかける
2、悩み抜かせ、考えきらせるリズムをつくる 
「拡げる、叩く、超える」 
始めに二律背反的な目標を与える
→ミドルが出してくる中間解に妥協を許さずチャレンジし続ける。悲鳴がでるまで追い込む
→→限界を突破するためのいくつかの仮説をたてさせる。「出来ない理由」ではなく「やりきるための条件」
3、本質的なボトルネックを解くために「スマートリーン」型の先行投資を行う
「やりきるための条件」を満たすためのリソース担保

実践を通じた体質化
1、実践からの学びを徹底する
トップは実践から何を学び、次にどう活かしていくかという「本質的な質問」を問い続ける
2、明文化されない行動規範を徹底的にすりこむ
3、実践を通じて、次世代リーダーを育成すること

第8章:日本企業復活に向けて

・フラクタルな進化
成功よりも失敗の方が勉強になる
ユニクロには成功の方程式はないばかりか、現場主義を徹底的に磨き込むという地道な作業が尊ばれる。
社員ひとりひとりがもっとよく深く考えて、すぐに実行していくという経験値の積み重ねのようなものが、現状のブレークスルーにつながる
失敗こそがまたとない学習の機会。逆に失敗していないということは、自社のポテンシャルを限界まで試せていないこと。

まずは動いてみる。その際に現在の延長線上で動いては、線形型の同質的な学習を繰り返すだけ。いかに非線形型の学習(=脱学習)をしかけていくか。

「着眼大局、着手小局」未来に向けての大きな成長の可能性を見据えたうえで、そこから逆算して今打つべき手を確実に打つこと

この方の講演を聞いたメモ

・今の業務を半分にして、クリエイティブなところに時間を使う
・まずリーンにして、それをなるべくスマートにしてみる
・組織としてのDNA、できることを考える
・会社にある資産を活かす、使い倒す、共有する
・組織の持っている力を要素分解してみる ナレッジマネジメント 認識していなかった価値が見つかる
・創って作って売る は古くて、創らせて作らせて売る がスケールする方法
・コーポレートブランディングは、すぐには効果でないが重要
・「実行主義」の会社は、良い意味で現場主義 悪く言えば器用貧乏
・現場仕事よりも、コアになる部分に時間を使うべき
・会議の目的が言えないと会議はさせない →無駄な会議を無くさせる
・仕事の質を高める 仕組みで勝たないといけない

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