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母の服

2008/08/10
(この記事は2008年のものです)

高齢者用の服とかパジャマとかって、ズングリしてるわよね。

私は今日、母の病院へ行かなくてもいいことになり、かわりに母が退院後、介護ホームで着る服を買ってくる役目を引き受けた。母の好みはだいたいわかるし、似合うものもよくわかる。私の選んだものは、母も大抵気に入る。

病院とは違ってホームでは、とりあえずパジャマを脱いで着替えることになる。母はきれいにしていたい。素敵な服を着ていたい。特にここ2年くらいは、母は低血圧のためにデパートへ行くこともままならなくて、ほとんど通販で服を購入していた。

母の家には通販のカタログが、驚くくらいにしょっちゅう届く。三越だとか大丸だとか高島屋だとかいきいきだとか…。母の広いクローゼットには、素敵な服がズラリと並んでいる。だけど痩せてしまってからは、昔の服はだぶだぶになってしまった。それでも私たち三姉妹には、どれも丈が長すぎたり大きすぎたりして、着ることができない。

そうそう、それで今日、私はラクな服がないか、探しに行ったのだ。着脱がラクで、薄手の長袖、そしてホームで洗濯できるもの。だけどなかなか見つからない。思うような服が見つからない。介護売り場に売ってるものは、どれも高齢者用でやたらに丈が短い。「ご高齢者向けですから、短めにできてます」って言うけど、スラックスなんて、股下59センチなのよ。母にはかせたら、ふくらはぎの途中だよ。だから普通のところで、股下70センチのウエストゴムのパンツを購入。

上に着るものも、やたらお出かけ用ならあるけれど、
それってどうよ? と思う。ホームに入っても、私達が時々クリーニングするために持ち帰ったりするの?
6週間、ほとんど寝たきりに近い生活をしていた母が、
急におしゃれ着を着て、どうやって生活するんだろうとも思う。かといってよくあるパターンの、いかにもラクラクなスポーツウエアのようなファッションは、今の母はまだ絶対に受付けない。もっと綺麗でもっとお洒落で、もっと素敵じゃなくちゃイヤなのだ。

夕べ姉と話した。そういえば自宅にある車椅子はお散歩用で、今の母のように身体の自由がきかない、首も曲がらない人が、日中使うタイプのものではなかった。ホームでは、車椅子もポータブルトイレも、あれば持参してくれという。焦って急遽、背もたれの高い、リクライニング可能な車椅子の手配をする。

姉も私も、母のお金だから構うものかと思っている。最高級のものは買わないけれど、そこそこのものを買わないと、母はとても不機嫌になる。「やっぱ安物はダメね」なんて必ず言うんだから。退院後の二日間のために、オムツも買っておかなくちゃ。用意するものがたくさんあるな。

自分が歳をとったときに、こんな贅沢ができるはずもないことは分っている。私の子供たちも、たいして金持ちにはならないだろう。自分の老後くらい、なんとか自分で面倒みられるように、なんとかしておかなくちゃだわ…。

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