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母は私の名を呼ぶ

2011/3/7

今朝、夢の中で母が死んだ。
私と姉が、夢の中でなぜか一緒に、誰だかのコンサートに行くことになっていて、いざ向かおうとしている時に「お母さん、死んだって。今から病院行くよ!」と姉が言う。

病院からの電話を携帯で受けたらしい姉の顔は、泪でびしょびしょに濡れていた。「明日病院に行くことになってるのに、どうしてもう一日待ってくれなかったの」と私は嘆く。

そして誰にも看取られずに逝ってしまった母を、気の毒な最期だったなと、でも仕方のないことかと、妙に冷静に考えているうち、夢から醒めた。

そんな夢を見る鬼のような私が今日母の病院を訪ねると、「昨日来るんじゃなかったの?」と、母は少し不満そうに私に言う。

私が到着する前に、すでに補助食のババロア2個を食べさせてもらったそうなのに、「お腹が空くの」と言う。「また鉄火巻き持って来たわよ」と言うと、不思議なくらいパッチリとした目をさらに大きく見開いてみせる。

鉄火巻きをパクパクと3個、立て続けに食べ、それからポンパドールで買っていった桜の花と葉のついた、中にアンコの入った蒸しパンを、「美味しい…!」と言ってペロリとたいらげる。

なんでこんなに食べるんだろう? 満腹中枢が壊れているのかなと改めて思い、最近の私よりよっぽど大食いだわと呆れながら片づけていると、「刺身はもうないの?」と小声で呟く。

「え、鉄火巻き? まだまだあるわよ。食べるの?」と訊くと、コクリと頷く。怖ろしい食欲だ。


「私、最近夜中になるとね…」と話し出すので、耳を母の口元に近づける。「夜中に大きな声で、アンタの名前を呼ぶの」
「『A子~~!』って?」と笑いながら訊くと、首を僅かに横に振って、「『Aちゃ~~ん! 来てよ~~!』って…」

母はほとんど声が出ないのだから、実際そんなことはあり得ないのだろうと思う。口からでまかせの嘘をつくのが、昔から母は得意なのだ。

それでも、母が私に逢いたがっているのは本当だ。母が心の中で、私を呼んでいるのは本当だと思う。

「お母さん、淋しい思いをさせてごめんね。私もほんとうは、毎日お母さんに逢いたいのよ」だなんて、母が望んでいるような言葉を、私は決して口にしない。

だって、私は正直者なのだ。

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