見出し画像

20210718

暑くて寝苦しい。
寝間のドアを開けているから、エアコンの効きが悪い。
まどろんだ頃に、となりの寝室から悲鳴が聞こえる。言葉にならない、悲鳴。
間隔が短くなっている。

痛みに強い人だったはずだ。
それだけに、悲鳴がつらい。
今の量の麻酔ではもう押さえられないくらい進行している。
もう意思疎通も容易ではない。

麻酔の量を増やす選択肢はある。
しかしそれはまた、交信不能の時間も長くする。
一旦眠りに入ったら、そのまま目を覚さなくなってしまう可能性もある。

悩み、父親と相談し、逡巡し、覚悟を決めた末に、結局麻酔を強くする。
本人にはなんて声をかけようかと迷う。
まさか、これでお別れともいえない。
こちらもそんなことは望んでいない。
「お母さん、これで痛みが取れて、楽になるよ。」
さんざ迷ったあげく、そんな言葉をかける。

その半日後に、呼吸が止まる。

ショックに打ちひしがれる間も無く、いろいろなことが進んでいく。知らない人が、家に来る。

「まぁまぁこんなになっちゃって。●●さんは頑張りすぎなんだ。いろいろ抱え込まんと、もっと楽すりゃ良かったのに。」

と言う人がいる。
その言葉を聞いている、横顔。

我々は一つの可能性を選び、引き受けて生きて、死ぬ。
その覚悟があるか。

自分の人生を生きよう。
引き受けた妻に敬意を。
生き抜いた義母に、安らかな眠りを。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?