第1回「川柳句会こんとん」結果速報

2021年10月1日から11月30日までに投句を募った第1回「川柳句会こんとん」では、23名もの方に川柳10句を作って送っていただきました。
本当にありがとうございました。

【詠草一覧】
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1iTNGk1XwA5-KRSZx60iEEToRZ7NwjUCr5dE-UlY7zko/edit#gid=0

さっそく句評に入りましょう。
投句者一人につき一句は鑑賞を書きました。
また、言及している句の多寡とこんとんに選ばれているかどうかに直接の関係はありません。

1句

参加者番号1

8月の31kmまえに鬼

いちばんありそうな線でいえば、「31」という数字は「8月」にひっぱられて(ようするに「8月31日」から)やってきたものだろうと推測されるのですが、「8月31日」を思うときに頭に浮かぶカレンダーが急に遠くなり(31kmぶん)、そのかわりに目の前に現れるのが「鬼」。句のなかにアクロバティックな移動があるところに惹かれました。なさそうな線でいえば「31km」とは他ならぬ短歌という棒の長さのことで、この川柳は「8月」と「鬼」の間、8月の17kmまえに置かれたものだということもできるでしょう。
こんとんに一番最初に投句してくださってありがとうございました。第1回川柳句会こんとんはあなたから始まった。

参加者番号8

沈黙の外に置き傘置かれうる

おそらく「駒座」や「花菱」、「景徳鎮」といったトリビアっぽい単語をたくさん知っていて、それを強みとしている作者だと思うのですが、私はシンプルな掲出句に惹かれました。

参加者番号9

弛んだら万年筆は虹である

いまぱっと例句が浮かばないものの「○○したら○○は○○である」はけっこう川柳っぽい構文で、よく見る。という気がします。「〇〇は」が欠けているけど、大きくいえば中村富二の「たちあがると、鬼である」もそう? 最近はカラフルなインクをたくさん見るので「万年筆は虹」がなんとなく腑に落ちますね。

参加者番号10

花ぐもり缶のままのむふゆびいる

「食パンを焼かずに食べる花曇」(佐藤智子)の本歌取りですね。
作者の他の句はけっこう把握が大味だったり(「つっかけで」や「西日射る」など)つかわれる単語がどぎつかったり(「ノーブラの」や「ニワカ」、「御器嚙」……)して私はあまり取れなかったのですが、「冬ビール」ではなく「ふゆびいる」と表記したところには繊細な操作がみえておもしろかった。「花ぐもり(春の季語)」に合わせるなら「はるびいる」だけど、「ふゆびいる」にしたところも良いと思う。
おおむね予想つくだろと自分でも思うのですが、「御器嚙」をちゃんと調べてちゃんとダメージを負った。

参加者番号12

音漏れをしてるあなたをしまい込む

「あなた」や「きみ」という二人称をハックすることにはわたしも興味があって、多くの場合恋愛の相手が入れられるその場所に親しい友人を代入することも一つの撹乱のかたちでしょうし、わたしが「きみ」や「あなた」という言葉を使うときはみんなが大切なものをしまっている箱にカマキリの卵を入れちゃおうという気持ちで臨んでいます。
同じ作者の「大丈夫あなたをコピーし終えたわ」よりも「音漏れ」のほうが成功していると思うのはその点で、コピーされる「あなた」はまだ人のかたちをしている可能性があるのに対して、音漏れをしてしまい込まれる「あなた」はもはや人のかたちをしてはいないだろうから(だからといってイヤフォンなわけでもなさそうだし)、台無し度が高い。

参加者番号15

葉るまげどんの葉ての葉ざくら

いくらなんでも葉ね文庫周辺の人なのかな、と思わずにはいられない葉ね文庫激推しスタイルに好感を持ちました。なんせ「葉ね文庫」を丸ごと使った句が2句、「サクラビル」は葉ね文庫の住所だし、掲出句も「葉ね」を踏まえた表現だし。これで全然葉ね文庫周辺の人じゃなかったらおもしろい。
そして、掲出句は葉ね文庫短詩(というジャンルがあるなら)のなかでもかなりすばらしいと思う。「葉」が三個あるから三句あるのかと思いそうになるけど七七ですね。
私が知らないだけで、葉ね文庫ってもうたくさん詠まれているんでしょうか。素敵な場所だから、詠まれていてもおかしくない。

参加者番号19

きにふれるためにおきるかしぬかみか

正方形の四角のなかにひらがながランダムに敷き詰められていて、ぱっと目に入った単語があなたの必要としているものです。というたまに見る画像を思い出しました。文意を拾おうとすると「木に触れるために起きるか死ぬ神か」になるんだけど、「気に触れる(気が触れる)」や「kill」や「瑕疵」や「歌詞」や「紙」という意味のユニットが鱗のようにあかるくひらめくところがこの句の美しさになっていると思う。
同じ作者の「どなたにもちかくされない少女性」も同じ仕組みで楽しめる。

参加者番号21

さりげなく退路をふさぐ遊び紙

今回投句してくれた23人の方のうち、川柳定型への関心や把握の仕方がいちばん自分(暮田)に似ていると感じました。「こけら落とし」も七七の二句も十分におもしろいと思ったけど、自分の句と近いぶん点が辛くなってしまった。
掲出句は「さりげなく」や「ふさぐ」に技術が光っています。本を立てて置いたとき、遊び紙はたしかに読者の退路をふさいでいるのかも。
「遊び紙」があなたのもとに来てくれるなら、あなたは川柳をずっと書き続けられると思う。

2句

参加者番号2

「どうせ死ぬ」(ハローキティのポップコーン)
今はまだ脂身だけど待っていて

「今はまだ」からは一読して「たてがみを失ってからまた逢おう」(小池正博)などが思い起こされます。「あなた」や「きみ」の句と同様、これらの句は「待っていて」以外の部分でどれだけ台無しにできるかが情に流れた句になってしまわないかどうかの分岐点になる。掲出句の「脂身」はかなり台無しレベルが高くて良いですね。
(ハローキティのポップコーン)は発明かもしれない。あの筐体から「どうせ死ぬ」って聞こえてきたらいやだな。

参加者番号3

テーブルの角で金閣寺が割れる
最後尾から皺寄せされてくる笑い

「テーブルの」は秀句だと思うのですが、どこがどうって魅力を説明しにくい。「テーブル」と「金閣寺」のスケール感の違い、「金閣寺」が「角で金閣/寺が割れる」と定型で割れているおもしろさ、などは挙げることができるのですが。

参加者番号4

めぐれるゆきどけの香。うしろゆびさす
もう天秤にかけた孔雀は燃やす
ローリエで薬指きったよわい

「ローリエ」が特に好きな句で、「きったよわい」の不思議な句またがりと字足らずによるふにゃふにゃした音のかんじが「よわ」さを際立たせている。
「めぐれる」「もう天秤で」は数えたら十七音なことにびっくりしました。川柳で十七音に詰め込む作り方は新鮮。「うしろゆびさす」は「うしろ(を)ゆびさす」と「うしろゆび(を)さす」のどちらなのか、「もう天秤にかけた孔雀は燃やす」はなにとなにを天秤にかけたうえで孔雀を燃やすのか、十七音からこぼれ落ちた言葉たちが幽霊のように一句にとり憑いて不穏。

参加者番号14

息継ぎはマカロニ深く吸うと月
永遠をどうしよう指紋つきそう

「永遠をどうしよう指紋つきそう」は「永遠を/どうしようしも/んつきそう」(五七五)ではなく、「永遠をどうしよう/指紋つきそう」(十七)で読みました。こちらも秀句だと思うのですが魅力を説明しにくい。「永遠」を目の当たりにして「指紋」を心配するのはなにか真に迫っている気がする。


参加者番号16

アップルもシナモンもある地獄だね
ダイヤルを回せば二回夏が来る

たしかに地獄にはアップルもシナモンもないと思っていたな……。と反省させられます。「回せば二回」で「回」がふたつでてくることによって「二回夏が来る」がゆるく裏付けられている気がします。
同じ作者の「十六ヶ所開閉可能蛸の墓」について、なんで十六なんだろう……としばらく考えました。答えは出なかった。


参加者番号23

さけてゆくチーズその他のおまじない
泣きぼくろふつうのほくろ皆殺し

「泣きぼくろ」と「ふつうのほくろ」のあとに「皆殺し」を並べられたら、頭のなかで「ふつうの殺し」を補ってしまうものですね。
「さけてゆくチーズその他のおまじない」、素直に「さけてゆく/チーズその他の/おまじない」と読むことを頭のなかの「さけるチーズ」が阻んでくるのがおもしろい。「さけてゆく/チーズその他のおまじない」(「チーズその他のおまじない」が裂ける)ではなくて、「さけてゆくチーズ/その他のおまじない」(さけるチーズが裂けていく/その他のおまじないがある。さけるチーズはおまじないの一つである)という読みに引っ張られてしまうんだよな。私はどちらかといえば前者の読みが好きです。

3句

参加者番号6

【ASMR】祈祷の光
実は枕は違憲だった、と。
布団への深い関心と同情

「【ASMR】」おもしろい。YouTube世代だからでしょうか……。
「枕」の句も「布団」の句もおもしろい。読んだ瞬間に笑いどころが分かる、サービス精神旺盛な作品を多く作る作者ですが、その反面理窟が勝ちすぎるきらいもあったかもしれません。


参加者番号20

泣きやむと肩甲骨が森にある
ひまわりは深い穴から出る背骨
Y字路でこけると骨が霧になる

「骨」という同じモチーフを使いながらそれぞれに禍々しく、魅力のある句群です。
「泣きやむと」については「泣きやんだ人と肩甲骨の持ち主は同一人物である」という線で読んでいたのですが、どうなんでしょう。「森で泣いていて、肩甲骨を発見した」という読みもできるといえばできますよね。でも「骨が霧になる」があることを考えると、前者かなあ。

参加者番号22

夏の血で描いた祖父が黒ずんで
堤防の祖父祖母祖父祖母片っ端から
汁椀の小人流れる国境の汁

一列に並ぶ「祖父祖母祖父祖母」、迫力がありますね。文字自体が堤防のように見えてくる。
国境って本当は山とかがあるのに、溝があるわけではないのに、地図などで平面的に把握すると川のように見える。という認識の落とし穴を突く「汁椀の」もおもしろかったです。

4句

参加者番号5

チャーハン食べたい自家受粉したい
ILLNESS 毒のシャボン玉くらえ
去勢して(kawaii犬歯だね)  笑う
ついてきた嘘を数える天使のざらつき

キッチュな魅力がある句群です。「ILLNESS」や「kawaii」などパッと目につく表現と並んで、「チャーハン」からの「自家受粉」の飛躍は魅力的だし、「天使のざらつき」もおもしろい。「ILLNESS」と「毒の」を句のなかで同居させるのは並の作者なら避けそうだけど、成功している。
また、字余りをしても拙くみえない優れた韻律感覚があるとも思います。

参加者番号11

ありえない夢中ありえたじゃんか夢
夜中しっちゃか夜中めっちゃか夜中っちゃか
加工肉食獣大号泣
だらけて泡だらけ泡ぐったり

五七五や七七かというと全くそうではないんだけど、「夢」や「夜中」、「泡」という漢字が視覚的に句切れの役割を果たしていて、定型に対して挑戦的にふるまっていながらも物質的な川柳の手ざわりがある不思議さ。

参加者番号13

晩年のために砂だらけの葡萄
ピノチェトの顔をケーキにする暮らし
それは朗読ではなくてクーデター
嘘のタイピストが海になっていた

「ロードク」と「クーデター」はのばし棒の位置が半分同じだし、なによりしりとりだから、「朗読」かと思ったら「クーデター」なこともありますよね。「噓のタイピスト」もそうで、タイピストは海にはならないのに「うそ」が最初に頭に飛び込んでくるから「うみ」にもなるかもね、と納得しそうになる。音を味方につけている。
一句目もかっこいい。

参加者番号17

富士山の気持ちで猫を迷いなさい
千と千尋を足して割ったら狂牛病
クッキーに隠れたビスケット  どこだ
国境で僕の子犬を煮てください

一言でいえば、句柄が大きい。「千と千尋を足して割ったら」はわたしからは絶対出てこないし(しかも豚じゃなくて牛?)「クッキーに隠れたビスケット」もすごい。
猫よりも富士山の方がはるかに大きいのだから、この世の道理に従えば「猫の気持ちで富士山を迷いなさい」になるはず。でも川柳の道理では「猫の気持/ちで富士山を/迷いなさい」よりも「富士山の/気持ちで猫を/迷いなさい」の方が強い。やってることは「あつがなついぜ」とほぼ同じなんだけど、この句の場合は「猫」と「富士山」を入れ替えた姿を想像することが容易であればあるほどこの世の道理が川柳の道理に書き換えられる気持ち良さが味わえる。

参加者番号18

名前には意味がある踊り場がある
なめし合うぼくらの中のおもちゃの血
黙祷のあいだ素肌がやかましい
青い砦のシールが欲しい

「名前には意味がある」と分かりそうなことを置いたあとの「踊り場がある」という積み上げ方がまさに階段らしく、踊り場らしいのでおもしろい。巧いな~。
また、「黙禱の」もすばらしくて、一読して「黙」と「やかましい」の対比がみえるんだけど、「素肌」という言葉を持ってきたことがすごい。「素肌」によって、一気に人間という生き物それ自体の猥雑さに読者の意識を持っていくことに成功している。
とにかく気になる句を作る作者。

5句

参加者番号7

ロシア民謡のメロディーで捌かれる
おれさまの擬音におれさまの乳房
ぷかぷかとぼくから生まれてゆく子ども
ごめんと言って涅槃をまたぐ
じゃれあったり走馬燈に登場しあったり

「おれさまの乳房」や「ぼくから生まれてゆく子ども」からは、かなり意識的に規範を踏みつけていこうという意志を感じます。また、「おれさま」や「じゃれあう」という語彙の幼児性と裏腹に「走馬灯」で生の終わりを見つめてみたり「社会奉仕」をしたがってみたりと、「二つの極で揺れる」というテーマを見つけている作者なのかなと感じました。
これらの意識が川柳形式のなかで最も成功しているのが「ごめんと言って涅槃をまたぐ」で、軽々とこの世ではない場所に足を伸ばしているところが魅力的。でもまたいでいるから、涅槃に安住する気はないのでしょうね。

【第1回川柳句会こんとんから10句】


15  葉るまげどんの葉ての葉ざくら
19  きにふれるためにおきるかしぬかみか
21  さりげなく退路をふさぐ遊び紙
3   テーブルの角で金閣寺が割れる
14  永遠をどうしよう指紋つきそう
20  泣きやむと肩甲骨が森にある
5   ILLNESS 毒のシャボン玉くらえ
13  それは朗読ではなくてクーデター
18  黙祷のあいだ素肌がやかましい
7   ごめんと言って涅槃をまたぐ

結果

2021年1月から12月まで「川柳句会こんとん」で毎月10句作品を発表してもらうのは
参加者番号7
参加者番号17

のお二人に決定しました。
お手数ですが、こちらのお二方は気付き次第投句者氏名欄に氏名を記入・暮田真名にTwitterのDMまたはメールで連絡先をお教えください。原稿料のお支払い方法についてご相談させていただきます。
また、今回投句してくださった方々は可能であれば投句者氏名欄に氏名を記入していただけると幸いです。特に「第1回川柳句会こんとんから10句」に入選した句の作者の方はおねがいします。単純に知りたいというのと、年に二回のゲスト回でお声がけをする可能性があるためです。もちろん任意ですが。

第1回こんとんに選ばれたお二方の氏名にご連絡をいただいたら、またnoteを更新します。
その際に選後感・選考基準・第1回の運営の反省なども書きます。

2022.1.1 暮田真名

いただいたサポートは「川柳句会こんとん」の運営に使わせていただきます。