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【3食目】 血肉になるごはん「スッポンをさばいた話」

※こちらの記事は苦手な方が多そうな画像を省いて掲載しています(血や内臓など)。そういった画像も含めて読んでみたい方は、「【3食目】 血肉になるごはん「スッポンをさばいた話」(完全版)」をご覧ください。

こんにちは。金子です。

みなさん、ごはんは好きですか?

わたしはごはんが大好きです。

この一生で、できるだけいろんな食べ物を食べてみたいと思っています。
初めて見た食べ物はなるべく食べています。

これまでにも、

鮎の薫製を食べたり、

でっかい肉を食べたり、

「臭豆腐」というすんごい臭いの豆腐(でもおいしい)を食べたり、

芋虫(ゴボウの味)を食べたり。

そんなわたしですが、かねてより食べてみたいと思い、しかし未挑戦の食材があります。
それは……


スッポン!

「おいしい」とは聞くものの、お店で食べると高いのでなかなか手が出ません。
自分で買って食べれば比較的安いものの、とある理由で買うのをためらっていました。

自宅スッポン=自分でさばく

めちゃめちゃおいしい、体に良い、精がつくなど食材として高い評価を得ているスッポン。
しかし、調理するにあたって一つの弱点があります。

それは、「死んでしまうとすぐ臭くなる」ということ。

スッポンのおいしさをしっかり味わうには、しめたてほやほやの鮮度のよいものを食べる必要があります。

そう、自宅でスッポンを味わいたいなら、生きたスッポンを自分でさばいて食べる必要があるということです。

わたしはこれまで、釣りをしたり猟をしたりといった「食べるために殺す」という経験をしたことがありません。
自分の手で生きものを殺すというのは、なんだか恐ろしい感じがします。

でも、わたしは日頃から魚や肉を食べています。自分自身で手にかけていなくても、目に触れないどこかでわたしの食事のために生き物が犠牲になっているのもまた事実……。

一度、自分が食べているものの正体を知ってみたい。
そこで今回、生きているスッポンをさばくことにしました。

そんなわけで、今回はスッポンをさばいたときのことを書きます。
できるならたくさんの人に読んでほしいので、直接的すぎる写真や表現は控えましたが、自分の味わった感覚を伝えたいという思うと生々しさゼロも違うなという感じで、苦手な方にとってはつらい文章になったように思います。無理に読まないでも大丈夫です。

さばいてみよう、活スッポン

【買い方】
普通の魚屋には置いていなかったので、上野はアメ横まで出かけます。
前にセンタービルの地下に行ったとき、スッポンを置いているお店があったと思って出かけたのですが、ドンピシャで月に一度の定休日でした。なんでよ!

探しまわった結果、近くの魚介専門店で買うことができました。
インターネット通販だと売っているお店が多いので、計画性のある人はネットで買った方がラクかもしれません。

背負ったリュックの中から蹴飛ばす感触がします。ああ、生きてる……。

【保管】
お店の人には「そのまま冷蔵庫に入れておいたらいいですよ」と言われたのですが……

初めて見るスッポン、よく観察してみたい。

ネットから顔だけ出せるようにして眺めていたところ……
袋の口をこじ開けて脱走しました

スッポン、速い。めちゃめちゃ速い。「うさぎとかめ」の話もスッポンなら成立しなかったことでしょう。

逃げないよう、バケツに入れて空の浴槽の中に置いておきます。
食べる前日に買ったのですが、夜通しバスルームから気配がして怖かったです。めちゃめちゃ逃げたがっている……。

朝になったらだいぶ大人しくなっていたので、暴れすぎて弱ってしまったみたいです。ネットに入れっぱなしの方が苦しめずに済んだかもしれない。

決行当日

劇団員の吉田が応援に来てくれました。

普段から自炊で魚をさばくことがあるそうで、心強い。

途中から同じく劇団員の堀も合流。
わたしがスッポンをさばく間、段ボールでスッポンを作るそうです。何?

スッポンのさばき方の流れは、
①首を落とす
②甲羅を外して内蔵を取り出す
③身を食べやすい大きさに分ける
です。やっていきます。

19:30 調理開始

首を落とす。初手にして最大のハードルです。
連載1回目のエボダイでも頭を切り落としていますが、死んでいるのと生きているのとでは緊張の度合いが全く違います。

①スッポンをひっくり返すと、
②起き上がろうとして首を伸ばすので、
③すかさずつかんで切る
という手順がよいとYoutubeに載っていました。
同じ動画でスッポンに噛まれた割り箸がへし折れていました。
やるかやられるかです。

勇気を出して……

スッポンをつかむ!ひっくり返す!首が出た!つかんだ!!!

…………引っ込んだ

スッポンの首の筋力に左手が負けてしまいました。
体重わずか1kgの動物とは思えない力強さです。

そしてこのあと、スッポンはひっくり返しても首を出さなくなりました。
首が狙われているのに気づいたかのようです。
「どうやったら死なずに切り抜けられるだろう」とスッポンが考えているように思えます。
知性のある生き物を相手にしているのを感じます。

20:30 "その時"が来る

スッポンがなかなか首を出さないまま、膠着状態が続きます。

タオルを噛ませて引っ張ってみましたが、日夜筋トレに励む吉田くんの筋力でも引っ張り出すことは出来ず。
一時間が経過し、半ばあきらめつつダメ元でひっくり返したところ……

スッポンが首を出した!
すかさずつかむ!出刃包丁を握る!首と甲羅の境目に当てる!

突き刺します。


刃が入った途端、スッポンがひときわ激しく身をよじります。
左手が自分でも知らないほどの握力で首を握りしめ、右手の出刃包丁が付け根から切り落とします。

思考する暇もためらう余裕もありません。
自分でもどうやっているのかわからないくらい力が出て、身体のすべてが目の前のスッポンを倒すことに集中しているのを感じます。頭より先に身体が動きます。

初めて生き物をしめました。
気づけばほんの数分の間に汗だくになっていました。


首と体は離れ離れになってもまだ動いています。
頭は噛み付こうとするし、体はまな板から逃げようとします。
解体が終わる頃まで、だんだんゆっくりになりながらも動き続けていました。
頭を断った瞬間が「死」だと思っていたのですが、ゆっくりゆっくり、グラデーションで死んでゆくんですね。

20:35 解体が始まる

血抜きをして甲羅を外します。
まるく甲羅を切り取ると、その中には色とりどりの内臓が詰まっていました。

この頃になると、初めに感じていた怖さとか抵抗感がなくなってきます。
標本みたいに綺麗な内臓が出てきて、それが興味深かったり、内臓を傷つけずに甲羅を開けられたことが嬉しく感じたりしました。

21:15 摘出開始

内臓を取り出します。
お手本にした動画では出刃包丁一本でさばいていたのですが、ビギナーには結構難しい。

着々と段ボール工作を進める堀からハサミを借りて、包丁と併用で取り組みます。
お手本どおりにやるのも大事だけど、自分がやりやすければOKって気持ちも大事だと思います。

この間、ダンボール細工の堀には代わりに包丁(出刃じゃないやつ)を貸していたのですが、「意外にもザクザク切れて使いやすい」とのことです。ライフハックですね。

スッポンの内臓は、ちょっとびっくりしたのですが、人間に似ていました。
肺・心臓・肝臓なんかのパーツがはっきりとわかります。
ただ卵がたくさん入っているのは亀っぽいなと思いました。

形を観察しながら、ひとつずつ傷つけないように内蔵を外していきます。
心臓はまだ時々動いています。

取り出した内臓は刺身で食べられるそうなので、冷蔵庫で冷やしておきます。
卵は醤油漬けにしました。

22:15 「四つほどき」

スッポンの手足の肉を解体することを「四つほどき」と言うそうな。
ほどくって言い方、うまいことグロさをかわしてますね。

闇雲に包丁で切ろうとすると、骨が硬くて切れません。
関節を切るといいらしいのですが、コツがよくわかりません。

要は関節が外れればいいはずなので、脱臼させるつもりで手で関節を折り曲げます
思ったとおり、これでいけました。自分たちで食べる分には、このくらいざっくりした調理でもいいですよね。

スッポンの肉はプリンプリンしていてうるおいがすごいです。あと脂がけっこうたっぷりついてる。
思っていたよりも普段見る肉っぽくっておいしそうです。

23:00 鍋で煮る

調理開始から実に3時間半。
ようやく、生きていたスッポンが完全に肉になりました。
つい数時間前まで「生き物」として見ていたものを、今や「肉」と思えてしまうのが不思議な気分です。

湯引きをして薄皮をはぎ、ネギや生姜と土鍋で煮ます。

スッポンはしっかり煮込んだ方がおいしいらしく、目安は一時間。長い……。

堀のダンボールすっぽんを見て時間を潰します。

でかい。なかなかの仕上がりです。

0:00 待望のすっぽん料理

取り組むこと4時間半。
ついに日付も変わった夜更け、待望のすっぽん料理が完成しました。

スッポンの刺身と、

スッポン鍋

(なぜ蓋をとらずに写真を撮ったのか?それは、そんなことに気づけないくらい疲れ果てていたから。)

空腹が耐えきれないところまで来ています。
早速いただきます。

まずは刺身から。
左手前が肝臓、そこから時計回りに心臓、たぶん膵臓、肺、腸。
腸だけは茹でたほうがいいらしいのでそうしてあります。

食べる!

うっっっまい!!!!!!!

肝臓が甘い。腸がコリコリ。心臓がシャキシャキ!!!

「爬虫類ってなんか生臭いんじゃないの……?」とおそるおそる箸を伸ばした節があるのですが、全く臭みがありません。
肝臓の味は生の鶏レバーと貝柱の中間のような味を想像すると近いかもしれません。コリコリ感とかシャキシャキ感もやっぱり貝っぽいかも。
膵臓(たぶん)は小さすぎて味がよくわからなくて、肺はなぜか記憶に残らない味でした。

続いて鍋も。

写真はありません。待ちきれなかったから。

あーーーうまい。

「おいしい」よりも「うまい」と言いたくなってしまいますね、自分でさばくと。

すごくこってりしています。スッポンの脂がスープにたっぷり溶け出しています。
魚っぽい風味もするけど、脂の味とか食感は肉に近くて、初めて食べる味です。
調味料が酒と塩だけなのに、しっかりおいしい。

皮に近い部分がプルプルしていて、おもしろい食感でした。

残り汁はもちろん、

雑炊にしていただきます。
生前の姿を見ていると、せめて一滴残らず食べなきゃなという気持ちになります。

にんにくと唐辛子を足してスープにしてもおいしかったです。

なんだかんだ、おいしく食べる

スッポンをさばくにあたって、「もしかしたら生きてる姿を思い出して喉を通らないかもな……」とも思っていました。
でも実際やってみると、おいしく食べられてしまって、なんか、自分も動物だなと思いました。
刃を入れる瞬間の自分の馬鹿力も、やっぱり動物だなと思います。
初めて動物を「生き物」から「食べ物」にしてみて、何か生物としてひと回り大きくなった気がします。

まだまだこの体験は自分の中で整理がつききらず、この先もいろいろ考えるだろうと思います。
今は、「食べるとは命をいただくこと」という言葉が、本当にそうだなと思っています。

これからも、ごはんはひとくちひとくち大切に食べようと思います。

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