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モンゴルの地平線とブータンの渓谷

ネタが好き、容姿が好き、トークが面白いと言ったことではなく、一人の人間として、他人ならざる人として、好きなお笑い芸人さんがいる。

オードリーの若林正恭さん。
みんなが当たり前に過ごす日常に、小さな「何で?」という疑問を抱え、悩んでいる人。

閉鎖病棟への入院にあたり積読本の中から、
若林さんの『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』を持って行った。

若林さんの旅行記であるが、キューバを訪れた紀行文では最後の展開で涙し、アイスランドでの経験は笑いながら楽しんだ。

若林さんが旅行記として著したのは、もう1か国、モンゴルでの体験もある。

このモンゴルで若林さんが得て、言葉にした感覚は、わたしも近しいものを感じた国がある。

大学4年生の冬、わたしは一人でヒマラヤ山脈を臨む小さな国、ブータンを訪れた。

初めての一人旅だった。
バンコクとカルカッタを経由して、夢にまで見たブータンで5日間を過ごした。

そこで感じたものは、ある種の安心感である。
初めて訪れるのに、「帰って来た」ような感覚があった。

その国の空気が身体によく馴染む。深く呼吸ができる。そんな感覚。

日本の喧騒や明るさから切り離され、自分を繕うこともなく、不便を愛し、不都合を感じず人と触れ合える。小さなものにも目を留めて、大きな存在を感じる。

海外へ来た解放感がそう思わせるのかもしれない。けれど、ブータンで感じたどうしようもない郷愁は、他の国を訪れた時には感じなかったもの。

きっと、きっと、若林さんもモンゴルで同じような思いに囚われたのではないか。

病室でページをめくりながら、モンゴルのどこまでも広がる地平線の写真を眺め、山に囲まれたブータンの渓谷を思う。

モンゴルの伝統衣装を着た若林さんの写真に、ブータンの伝統衣装、キラを着せてもらった自分を重ねる。

遠い存在でありながら、仲間のように感じる若林さんのことを考える。若林さんなら、この閉鎖病棟での日々をどう綴るだろうか。

若林さん、たくさん悩んでくれて、苦しんでくれてありがとう。それを言葉にしてくれてありがとう。お陰で、わたしは今日を生きています。

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