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【空き家さんぽ 番外編】

Episode2 津志田の大きなお家①


「空き家さんぽ」が動き出してしばらく後、私たちは「空き家さんぽ」にわざわざ関東からご参加くださった方から、ある相談を頂いた。盛岡市内にあるもう誰も住まなくなった父の実家をなんとか活用したいのだが何かいい方法はないだろうか、と。これまでも何度か地元の業者さんに相談したが、解体してマンション建設の提案ばかり。なんとか古く大きな実家を解体せずにそのまま活用できないものだろうかと。

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今度のお家は、前回の肴町とは対照的な大きな古いお家。敷地もものすごく広いし、高いヒバの樹々に囲まれたお庭では季節の花や山菜や果実まで楽しむことができるほど。玄関の土間も広く、昔囲炉裏があったと思われるじょ居は天井が高く、その奥に繋がる和室は襖を開け放つとさらに広い大広間になる。さらにその奥の書斎には机の向こうの窓から緑が広がり、なんとも言えない素敵さに私たちは言葉を失った。田舎のおばあちゃんの大きなお家のような、初めてきたのに懐かしい気持ちになるなんとも言えない不思議なお家。お家は昔近所の人から、「作兵衛さんのお家」という意味で「作兵衛戸(さくべど)」と呼ばれていたらしい。

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オーナーは、お父様のご実家だったこのお家に子供の頃よく遊びにきたらしい。いとこたちと集まって楽しい夏や冬を過ごしていたようだ。お祖父様はこのお家のことを「ひば垣物語」という自叙伝に綴っており、その本の中で、どうやって家を建てたのか、どんな材料で作ったのかなどお家の歴史について語っていた。その本を読んだ10代目にあたるオーナーは、なんとかこのお家を壊さずにまた人で賑わうお家として使われないものかと活用方法を探していたのだ。
相談を受けた私たちは、前回の「空き家さんぽ」のこと、そこでの出会いのことをお話して、この大きなお家でぜひ「空き家さんぽ」を開催しましょうとご提案した。そこで、きっと何かご縁が生まれるだろうと。お話をした時のオーナーの喜ぶ顔を私たちは忘れないと思う。

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そんな大きなお家で開催した2回目の空き家さんぽのキーワードは「本」。
本が好きだったお父様と、自叙伝「ひば垣物語」を遺されたお祖父様からヒントをもらい、移動図書館の八重樫信子さんにご協力頂き、出張図書館とみんなが本を持ち寄ってのお勧め本の交換会、そして大きな和室で縁側からのお庭の木々を楽しみながらおにぎりを頬張るお食事会を開催した。もちろん、大きなお家の中やお庭をくまなくさんぽをすることも忘れずに。
この場所で「ひばがき物語」がこれからも続いていくようなきっかけになったら…と思っての企画だった。庭木の説明を聞きながら散策したり、台所にある井戸の名残や居間の昔の使い方、建具や家具の彫り模様や大きさに建物の歴史を感じ、当時に思いを馳せる。どんなストーリーがここにはあって、これからどんなストーリーに繋がっていくのだろう。

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空き家さんぽは次の使い手さんに出会うことも大切な目的の一つではあるけれど、それぞれの企画を通して参加者の皆さんから建物の使い方のヒントをもらったり、オーナーも気付かなかったおうちのチャームポイントを参加者が発見してくれてそれが新たな気づきに繋がったり、運営側も毎回学びが多くてワクワクする。
参加者の皆さんもお互いはじめまして同士だったけど、このお家が包み込む独特の空気感なのか、お昼時には気付いたら味噌汁作っている人、座布団並べる人、おにぎり運ぶ人、家族の食卓のような和やかさと親近感が生まれていた。大きな座卓をいくつか並べて、総勢30人ほどでみんな揃っての「いただきまーす」はなんだかとても楽しくて、参加者からの「大家族みたい笑」というつぶやきにみんなが笑う。あまりにみんな同感だったから。

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前回もだったけど、初めて会う間柄なのにおばあちゃんのお家のような古いお家で、みんなでわいわい美味しいものを囲むと和やかで穏やかな時間が流れるから不思議。
いつも思うけど、お家は人がはいってこそ。
空き家だったお家に久しぶりに賑やかな笑い声が響くそんな一日。

オーナーさんが、空き家さんぽ終了後に「作兵衛戸」もご先祖様もきっと喜んでくれてます、とおっしゃったことが印象的だった。
こんな風に、人が集まるお家になったらとても楽しいだろうな。


久しぶりに賑やかな時間を過ごした、作兵衛戸の話はまだつづく。


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