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ロマンあるネーミングとは。いま再び、名前について考える。

少し前からちょいちょい山陰でも話題に上っている、「変わった名前の高級食パン店」。ローカルテレビで流れたり、駅ナカのお店ではコロナ禍でも行列ができたとか、できなかったとか。

いわゆる「高級生食パン」、聞けばもともとは高齢の方にも食パンをおいしく食べてもらいたい、というところがふわふわの食感を開発するきっかけのひとつ、なのだとか。

「どなたにもおいしく食べていただけるやわらかくておいしい食パンを作っています」ではインパクトに欠けるから、戦略として大成功なんですよね。実際たくさんの方が喜んでいるし、話題も呼んでるし、何より「良いものを作っている」という自負があってこそのネーミングなのでしょう。

それはそれとして、「名前」ということを考えるうえにおいて、やっぱり「ロマン」を大事にしたいな、と私たちは思うわけです。日頃、スタッフ間でも常々、「この名前どうなん」「このネーミングは素晴らしいわ~」と勝手に批評したりしています。


ちょうど1年前くらいに書いたこちらのコラム。くらしアトリエが「名前」に対して並々ならぬこだわりを持っていますよ、という内容です。

私たちが求めるのは、当たり前にあることばを使って、「目立つこと」や「面白いこと」よりも「美しさ」や「心地よさ」を大切にした名前です。(コラムより)

…「ふんわりしやがって」と思われるかもしれませんが、そのふんわり感というか、あんまり心にインパクトを残さないというか、それこそがくらしアトリエの矜持です。

日常の中に埋没しながらも、ふと「楽しかったな」と思い出してもらう、というところが第一義であり、つまり、受け取る側の方々に「その先」をゆだねているということなのです。

インパクトの強烈なネーミングにちょっと抵抗感を持ってしまうことがあるのは、情報がすごく断定的で答えがもう提示されていて、こちらに考える余白を与えない、というところに窮屈さを感じるからかもしれません。「泣ける映画」と言われると観たくなくなるのと同じような感覚でしょうか。

こちらに考える余白を残してくれたネーミングは、逆にすごく心に残る。

日本酒やクラフトビール、和菓子のネーミングなどは、ロマンがあるな~って思います。ちょっとだけ日常から離れるツールだからこその「わびさび」があるのかもしれませんね。あ、コーヒーのブレンド名もちょっとそんな雰囲気ありますね。


少し前に、「島根を想うセット」のひとつとして販売させていただいた、松江市の和菓子店「三英堂」さんの「星の林」

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(現在は販売されていません。)
こちらの和菓子、万葉集の

「天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ」

という柿本人麻呂の歌から名をつけておられたのですが、何ともロマンがあるじゃないですか…素敵です。こういうのを聞くと嬉しくなる。

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そこには和歌の知識、夜空を仰ぎ見る心の余裕…いろんなものが必要となるわけですが、そういう多方面からなる背景を内包したのが「名前」であり、そこで初めて「なるほど…素敵です!」となるわけです。

そこまでたどって考えてほしいわけです。

その過程も味わってこそ、の和菓子なわけです。

和菓子と高級食パンでは「受け取る側」の心構えがたぶん全然違うので、だからこそのネーミング方法の違い、なんでしょうね。

即効性があるか、じわじわ来るか、の違い。

どんなものにも名前がつけられた背景があり、ネーミングした側が「ここを狙ってます」「ここに刺され!」という意図が透けている。
日頃何気なく手に取っている商品ひとつとってみても、そこには「何気なく手に取る」という行為に誘導するための試行錯誤があるわけなんですねえ…深い。

名前がなければ、それについて誰かと思いを共有したり、話をしたりするスタート地点にも立てないわけで、だからこそ、名前にもっとみんな注目してほしい、気を配ってほしい、と思ったりもします。

「くらしアトリエ」の活動の中では、直感で「名前が降ってきた」みたいなこともあるわけですが、やはりものに名前をつけるという行為はしっかり考えて行わなければ、と書きながら気持ちを新たにしました。


ところで、「シマシマしまね」が一昨年開催していた「シマシマキャラバン」でもたびたびご紹介していた、松江市のパン屋さん「CARRE」さん。

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ここのカレーパンが超絶おいしくて、スタッフと「これは単にカレーパンっていう名前にしちゃダメだと思う!」といつも話しています。

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いわゆる「カレーパン」という名前から想像する味を超えているというか、すごくおいしいのです…!中のカレーのスパイスのセンスがすごい(語彙が…)。
だから、もっとこう、普通のカレーとは一線を画すような名前をつけたほうがいいのではないか、と思うわけです。
「一見カレーパンだけど、それだけじゃなくて、スパイスも色々工夫してる恐ろしいほどうまいパン」を一言で表すような名前を‥。

お店に行った時に図々しくも「ただのカレーパンっていう名前じゃ美味しさを表せてないので、名前変えたほうがいいと思います!」と言ったのですが、「じゃあどんな名前がいいですかねえ」と聞かれて、うーんそう言われるとなかなか思いつかない…。

「スパイスカレーパン」「至高のカレーパン」「普通じゃないカレーパン」…うーん、難しい。どんどん高級食パンの名前みたいになる(笑)。

普通のカレーパンだと思ってうっかり食べたときの「何これ!うまっ!」が狙いだとしたら、あえての「カレーパン」でいいのかもしれない…。名前って難しいですね。…なんて言いながら全国各地のカレーパンの名前を調べていたら、写真だけでお腹いっぱいになりました。
そして、カレーパンはもともと「洋食パン」という名前だったという知見を得ました…。こうやって、いつもずるずると調べて時間を消費してしまいます。

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カレーパンに限らず、ものの名前についてちょっと考察してみると、意外に面白いものです。


個人的には「名前にはロマンあれ!」と思ってしまいますが、この機会に、身の回りのいろんな名前にいま一度目を向けてみてはいかがでしょうか。

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