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「コウボパン小さじいち」の酵母ランチのおいしさを、めちゃめちゃ分析してみたら‥。

先日、仕事で大山へ出かけてきました。

大山で打ち合わせがあるときは、可能な限り木曜か金曜に、と決めています。
なぜなら、「コウボパン小さじいち」さんのお昼ごはんを食べたいから。

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小さじさんの営業日が水~土曜日で、水曜と土曜は私たちのほうが休みのため、必然的に木曜か金曜に、ということになるのです。

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「コウボパン小さじいち」さんは天然酵母のパン屋さんですが、10年ほど前から敷地内に酵母を使ったプレートランチや「パンとお飲み物セット」が楽しめる場所をオープンされています。

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名前は「食べるところ」。

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大山の雄大な景色を眺めながら、果実や野菜からおこした酵母を調味料に使られた滋味あふれるお料理をいただくことができるのですが、
このお料理が何しろとーってもおいしくて、毎回伺うたびに感動しています。

見た目もかわいく「映え」るのですが、映えだけの話をするなんてもったいない!というくらいおいしいのです。

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先日、酵母プレートランチをいただいた後、車の中で余韻にひたりながら、「小さじさんのランチはどうしてあんなにきゅんとなり、かつおいしいのか」について議論しました。

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その議論の過程で、どうやら私たちが「おいしい」という言葉で片付けている感情の中には、単に「味が良い」というだけではない何かがあるのだ、ということに気づきました。

そこで、私たちが思う「コウボパン小さじいちさんのプレートランチがおいしい理由」について、そのおいしさを再定義してみたいと思います。
そして、その先に何があるのかを考えてみました。

1.旬の野菜と酵母の深みがもたらす「味の良さ」

小さじいちさんのお料理には、近隣の農家さんで採れた旬の野菜や、「〇〇の季節になりました」というような出始めの野菜や果物がたくさん使われています。先日お邪魔したときのランチのメインは「里芋の落とし揚げ」。

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もう里芋の季節だっけ…と思いながらいただきましたが、これが本当にもちもちでおいしくて感激でした。

帰り際にオーナーさんに「里芋ってもう旬なんですね」とうかがったら、「もう産直とかでは最盛期で、里芋がずらーっと並んでるよ」と教えていただき、そうかぁ、もう10月だもんなあと、あらためて季節の流れを教えていただいた気がしました。
(実際に帰りに産直に行ったら、里芋コーナーがやっぱりとても充実していて、当然ですが買って帰りました。)季節のうつろいを教えてくれる料理、素敵だと思います。

さらに、味わいに奥行きや深みを出しているのが酵母たち。メインから付け合わせ、サラダまですべての料理に酵母が使われています。発酵による酸味と食材本来の味わいが融合して、まさに「自然のうま味調味料」。

酵母を使って、旬のお野菜と合わせてどうおいしくできるか、バランスよく、妥協せずに考えてあるところもすごいと思うのです。

くらしアトリエでは小さじいちさんに何度か「酵母料理ワークショップ」をお願いし、調理の工程を見せていただいたのですが、そのアイデアや組み合わせの妙にすごく驚いたのを覚えています。

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ドレッシングに金柑酵母、ミネストローネの風味づけにトマト酵母など、わくわくしながら口に入れる、その時間もまた楽しい。

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何より、ご主人が焼いているしみじみおいしいパンとの相性が考えられていて、トータルでおいしいのが素晴らしいです。

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あと、量がちょうどいい!いろんな料理が少しずつプレートに乗っていて、ちゃんと「おいしかったね」と食べきれるボリュームです。

パンのお代わりができるのが嬉しいのですが、これもオーナーさんの「小さじいちのパンをおいしく食べてもらいたいためのランチだから」という理由なのだそうです。


2.自分じゃ作れないな、と思わせる手間暇

手間暇も、おいしさのひとつだと考えています。
前述したメイン料理の「里芋の落とし揚げ」でした。

里芋を蒸して潰し、スパイスやお塩、白味噌を混ぜて味つけをして、つなぎに粉を入れてスプーンですくって油で揚げる、というお料理。

里芋自体はとても素朴な食材ですが、ここまで手間をかけるとすごく繊細なお料理に変わります。普段、キッチンに里芋があっても、「落とし揚げにしよう」とは思わないです…なぜなら、「蒸して潰して…」のあたりからもう、「あ~めんどくさそう!」と思ってしまうからです。

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でも、手間をかけた分、お料理はやっぱり洗練されておいしくなるんですよね。

小さじいちさんのランチは、付け合わせのちいさな野菜たちや、普通のお店なら添え物感たっぷりで出てくるサラダも、きっちりと手間がかかっています。
ドレッシングは手作りで、野菜のおいしさを引き立てているし、先日は小さな玉ねぎをオーブンでじっくりローストしたものに、山葡萄のシロップ(がかかっていました。それぞれにかかる手間や時間を考えると、「いやあ、私にはできない」と感服し、気持ちよくお金を支払えるし、ていねいに作られたものは罪悪感なく食べることができるのです。

3.自分でも作ってみたい!と思わせる食材とメニュー表

前述した2の「自分じゃ作れない」という理由とは相反すると思われるかもしれませんが、普段からお料理を楽しんでいる人には「分かる!」という感情なのではないでしょうか。

小さじいちさんでランチを食べると、普段の自分の料理の雑さを痛感するのですが、同時に調理意欲が異様に沸くと言いますか、「これ作ってみたい!」という熱が生まれます。

実際、私は先日伺った際に食べた「初秋のミネストローネ」を食べたその日の夕食に作りました。昼も夜もミネストローネ、それも自ら進んで作るなんて普通はあり得ないのですが、食べたときに「あ~家でも作ってみたい!」というアドレナリンが沸くのです。

理由の一つは、食材の身近さにあると思います。

なすやかぼちゃ、玉ねぎにキャベツなど、使われている野菜はどこにでもあるものばかり。「これがこんなにおいしくなるの?」という感動があり、さっそくやってみたい!という気持ちにいざなってくれます。

また、今回あらためてその意義を感じたのが、お店で出てくるメニュー表です。

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酵母プレートのお料理ひとつひとつの説明が細かく書いてあるのですが、例えば里芋の落とし揚げなら

「里芋が出始めるとまずこの落とし揚げを作ります」
「冷めてもおいしくお弁当にも◎。パンに乗せても意外に合います」

というコメントが書いてあり、「わ~作ってみたい!」と思わせてくれます。普通、メニューにそんなこと書いてないですよね。

ミネストローネには「夏とは違うミネストローネ」というコメントがあって、それにめちゃくちゃうずうずしました。

ああ作りたい、今日作りたい。そんな風に調理意欲が沸くのです。

ちなみに我が家がその日に作った「初秋のミネストローネ」は、白ネギ・かぼちゃ・ピーマン・椎茸とえのきだけ、という「家にある食材」を使い、小さじいちさんで使われていたトマト酵母の代わりに、夏に買って冷凍しておいたおいしいトマトを丸ごと入れて調理しました。

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もっとも、私は野菜だけで豊かな風味を生み出すことに不安を感じ、ベーコンを入れてしまいましたが…。

おいしくできて大満足だけど、でもやっぱり小さじいちさんの味わいは再現できなくて、「やっぱり酵母の力ってすごいんだなあ」と再認識する。

そして、またお店に行きたくなる。料理好きな人をくすぐるときめきやわくわく感が、小さじいちさんの魅力なんだと思います。


思えば、小さじいちさんのランチをいただいた後、私は必ずその料理を家でも作っています。

料理を食べて「作ってみたい!」と思うのは、自分にとって「最高においしい」というバロメーターな気がします。自分の暮らしに取り入れたいってことですもんね。

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6月に「じゃがいものサモサ」が出た時には、その日のうちにワンタンの皮を買ってテンパリングしたスパイスをふかしたじゃがいもに和えて…というのをやったし(ワンタンの皮だと小さすぎて包めないことが分かりました…)、白味噌や練りごまを使って作るドレッシングやディップも、お店のお料理で出てきて「うまいいい!家でもやる!」と火がつき、その日のうちに白味噌と練りごまペーストを買って帰りました。要するに感化されるのです。

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「自分じゃできない」という料理へのリスペクトと「自分でも作りたい」という創作意欲のバランスが絶妙で、これは他のお店にはなかなかないなあと感じます。

おそらくですが、これは小さじいちのオーナーさんが「おうちでも酵母のお料理を手軽に取り入れてほしい」「身体に良いものを家でも食べてほしい」という、お店の外のことまで考えていらっしゃるからだと思うのです。

つまりは、食べる人の「暮らし」そのものに寄り添っている。

だからお客としてお料理と対峙したときに、興奮や感嘆と同時に、自分の家のキッチンや食器が自然と頭に浮かぶのではないでしょうか。

「味の良さ」や「珍しい食材」、「自分では到底できない技術」や「満腹になるボリューム」などを表現する料理は確かにおいしいし、需要もあるのだけど、私たちが考え、日々発信している「おいしい」という言葉には、それとはまた違うベクトルの食に対する感情が込められているのだなあ、と、今回あらためて感じました。

料理が、自分の暮らしを見つめ直すきっかけをくれる。
これが、私たちが毎回感動する「おいしい!」の重要なポイントだったのです

外でごはんを食べながら、自らの暮らしに感情を引き付けて考えていたというのは、新たな発見でした!

普段何気なく「おいしい!」「おいしかったです」と発信していますが、もしかしたらそれを見て参考にされている方と、その定義にズレがある可能性もあるかもしれません。

Instagramなどで発信を参考にしてくださっている方も多いので、日ごろ自分たちが食に対して感じている魅力や、料理についての感情をしっかりと言語化してお伝えしておくことも大切なのでは、と考え、今回このような記事を綴ってみました。

いろんな食へのアプローチがあり、おいしさの定義も人それぞれ。

「おいしい」の言葉をいま一度自分たちなりに掘り下げて考え、分析してみたことで、これからの秋の味覚がさらに楽しみになりました。


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