見出し画像

1周まわって感じる地域格差。

くらしアトリエは、いわゆる「地方」である島根県を中心に活動しています。

およそ15年前、活動を始めたきっかけのひとつが「転勤族の妻でも自分らしく働けないか」という思いでした。

いくらやりがいを持って働いていても、夫が異動になれば「妻が仕事を辞める」のが当時の既定路線で、それ以外の選択肢はない。もちろん家族との暮らしも大切にしたい。ならば、どこに引っ越しても同じように仕事ができる環境を作ったらいいんじゃないか。そんな妻たちの思いから、くらしアトリエは始まったのです。まずホームページのみでの活動を始め、拠点はウェブ上に。一時はスタッフが海外にいたこともあり、ネットの中が主な話し合いの場所でした。

立ち上げた頃に比べて、地方をめぐる環境も劇的に変わりました。田舎は田舎のままではあるのですが、情報は都市部とほぼ同じ速度で入ってくるし、それこそ「都会で仕事をする時代は終わった。パソコンとネット環境があればどこでも仕事ができる」とか言っちゃうこともできるでしょう。

でも、2019年の1年間を通じて感じたのは、「1周まわって感じる地域格差」でした。

活動開始当時に思い描いていた「どこにいても同じように仕事ができる環境」は手に入れたと思います。冬は事務所を離れ、自宅でも外でも、wi-fiさえあればどこでも仕事はできる。

でも、そこから一歩前に進もうとして「最新のデザイン技術を学びたい」「興味のあることを深めるために研究したい」と考えたとき、ここは途端に「辺境の地」になるのです。

スタッフが昨年、東京で開催されたクリエイターの祭典「Adobe MAX」に参加したとき、「ああ、デザインはやはり東京で動いている」というのを実感しました。島根にいては得られない深い学び、同じ職種の最先端を行く人たちとの交流、刺激…。東京の地で「今はネットがあるじゃん」って言われたけど、東京の人から見た本物の地方の情報の「アップデートされなさ(されなくても周りに気づかれずになんとなくやっていける感)」は多分想像がつかないのでしょう。

私も、受けてみたい講座や学んでみたい分野、見てみたい展示などがたくさんあるけれど、開催されるのはいつも東京だったり関西だったりして、その日・その時間にその場所に行くことが日程的にも経済的にもなかなか難しく、すべてを手に入れることはできません。都会に住んでいる人なら会社帰りにふらっと寄れるんだろうなあ…とうらやましく思ったりもします。また、継続的に学びたい、と思うとさらにハードルは上がります。週末ごとに都市部に出て学校に通うことができるのは、きっとごく限られた人になってしまうでしょう。

例えば配信されている動画を観てある一定のところまでは学べるけれど、「ライブ感」やその場ならではの化学反応は得られない。本を買って勉強しても、それはすぐに最新のものではなくなっていく。「地方でも今はいろんなものが得られるでしょ」と言われるけれど、そう言っている人が想定している「地方」は、広島とか福岡とかじゃないでしょうか。私たちが言っている「地方」は、ガチの地方なんです。新幹線も通らず、フリーwi-fiのある場所も数えるほどで、大手銀行の支店もない、ついこないだ初めてスタバができてオープン時には行列ができちゃった(売り上げがインドに次いで世界2位だったそうです‥)、そういう地方なんです。

情報は同じように入ってくる。でも、それを深めようとすると途端に地域格差の壁が立ちはだかる…これが私たちが感じている現実です。仕事はできるけど、より良い仕事をしようと頑張ろうとすると、お金や時間がない限り、ささっと学びのアップデートはできないのです。いや、できることもたくさんあるのだけど、「そういうのじゃないんだよな…」ということなのです…もやもや。

…ちょっと愚痴みたいになりましたが、そんな、都市部から見れば「僻地」と言われるような島根が、私たちはそれでも大好きです。おいしい野菜を作る人がすぐそばにいて、何なら自分で畑も持てるし、車で30分行けば自分で魚が釣れて、豊かな風土があり、美しい自然が目の前に広がり、継がれてきた歴史があって、時間がゆるやかに流れる。違うベクトルで計れば、こんなに素敵な土地はないなあ、と感じています。

そして、「地方で豊かに暮らす」という思いの他方には、やっぱり「都市部と地方の格差」という課題が厳然とあるのですが、その課題があるからこそ、「こんなところ何もない」ではなく、「ここにしかないもの」を探すことができたのだとつくづく思います。それが私たちの核になっている、とも。格差がないと思っていたなら、こんなにも「ここにしかないものって何だろう」と考えることはなかっただろうし、それを発信し続けることもしてこなかったはずです。

「ないものを数えずに」といつも言っている私たちですが、去年は正直、「やっぱりないものはあるな」と痛感しました。地域格差は「ある」という現実を受け入れながら、どうそれをかわしていくか、受け止めていくか、飛び越えていくかを2020年の命題にしなければ、と感じています。

例えば、常に最先端のものを直接受け取ることは難しいから、違う方法を自分たちで考えるとか、逆に「普遍的なもの」に思いを馳せるとか…。いずれにしてもキーワードはやはり「学ぼうとする気持ち」だと思います。

「シマシマしまね」を学びの施設にしたい、という気持ちもずっと変わらず持ち続けていますが、「大人が学ぶ」ということに、地方はもっと真剣に向き合ったほうがいいと思う。

学ぶことで埋められる格差もあるし、埋められない格差を受け入れるのか、都市部に出ていくのか、選ぶこともできるのだだと思います。

何より、「地方だから、まあこれくらいで」という雰囲気が、あきらめや自虐を生んで、地方を暗くしていくんじゃないかな。それが嫌だから、学びに固執するのかもしれません。

せっかく地方に暮らすという選択をしたのだから、それを思いっきり楽しみたい。一方で、常に時流を見て良いものを取り入れていきたい。バランスをとりながら、今年も頑張ります!

サポートありがとうございます。とてもとても励みになります。 島根を中心としたNPO活動に活用させていただきます。島根での暮らしが、楽しく豊かなものになりますように。