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働き方を縛るものは何か 『倉重公太朗 雇用改革のファンファーレ「働き方改革」、その先へ』

長時間労働の是正など働き方を見直す風潮は、今もなお続いている。「働き方改革」というキャッチフレーズは、もはやどこにも蔓延しすぎて「改革」って一体なんだったっけと思ってしまうほど。

そもそも働き方だけを切り取っても、それを大きく変えることはできないと私は考えています。よく私たちソニックガーデンの全社員リモートワークの働き方などを紹介しても、「それは、どんな業界でもできますか」という質問を受けますが、そんな訳はありません。

業界や業種が違ったり、顧客が求めるニーズに何を提供するのか、どういったビジネスモデルなのかによって、働き方は影響を受けています。だから、表面的な部分だけ働き方を変えようとしても意味がないのです。

同様に働き方に大きく影響を与えているのが「雇用(契約)」の形です。特に日本型雇用と呼ばれる雇用形態は、昭和の時代につくられた労働法をもとに、当時の社会情勢であれば合っていたものが、今も変わらず続いていることによって、個人の働き方や企業の成長に様々な弊害をもたらしています。

そんな雇用のあり方について、労働法務のスペシャリストである倉重弁護士が執筆されたのが本著「雇用改革のファンファーレ」です。

本書では、社会の観点、企業の観点、法律や国家制度の観点、そして働く個人の観点から、雇用のあり方だけに止まらず、どう生きていくべきか、企業のマネジメントはどう変わるべきか、書かれています。

弁護士の方が書かれた本ということで、堅い内容をイメージされるかもしれませんが、著者の倉重さんは非常にリアルな現場感覚があり、かつ先進的な取り組みに対して積極的な方でもあるため、この先を見据えた内容で読みやすいものになっています。

たとえば、AIなどのテクノロジーの広がりを前提とした以下のくだり。

AIを使って仕事をする人は必ず残るからです。(略)そのときに重要なのは、どこの企業に勤めているかではなく、どんな肩書きがあるかでもありません。どんな経験を積んできたか、どんなスキルがあるか、そして、どんな仕事がしたいかというwillの部分が重要なのです。

また、マネジメントについても先進性が感じられます。

「働く」こと自体に対する価値観が多様化している現代においては、「一律のマネジメント」では対応できません。(略)経営(人事)の目的は社員のパフォーマンスを最大化することです。そうであれば、労働者側組織は多様な労働者の意見を吸い上げ、代弁することが役割であり、どちらも「会社を良くする」という目的は共通です。

本著では、雇用だけに止まらず、労働のあり方や成果の考え方まで話はおよびます。労働の成果を時間で考えるのではないという考え方は、常から私も伝えていることでいたく共感しました。

第4章での金銭的解決で解雇をしようというアイデアも突飛なものに思えますが、非常に合理的で納得感のあるものでした。

本書を通じて訴えかけてくるのは、今までのようなパラダイムの延長では、この先の未来はない。かといって、絶対的にうまくいくような正解も残念ながらない。企業も個人も、自分たち自身でそれぞれ違った答えを考えていくしかない時代がくるということです。

しかし、そうして個々人が自律的に人生を考えて、働き方や企業との付き合い方を考えていくことができれば、社会は変えていくことができるのだ、とも伝えています。

以下、宣伝です。

本書の中で、長時間労働をなくしていくためには、会社のあり方も変えていくしかない。業務効率をあげていくことが急務であると伝えると同時に、ただ必要なこと「だけ」をやっていたのではイノベーションが阻害されることもあると書かれています。

そのとき意識すべきは、過去の「ホウレンソウ」よりも「ザッソウ」が大事という視点です。「報・連・相」のうち「報」と「連」は過去の話ですが、(略)一方で「ザッソウ」は雑談と相談です。雑談には日々のちょっとした不満やモヤモヤが詰まっています。

なんと「ザッソウ」のコンセプトを紹介してくださっています。ありがとうございます。

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