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KEENができるまで 38話 「物件交渉」

物件の2階は大家さんの自宅。緊張の中、呼び鈴のボタンに指をかざした時、心の中は期待と不安の気持ちが交互に入り乱れるのでした。扉が開くとそこには、優しそうな初老の女性が迎えてくれたのです。自己紹介を済ませ、中に通されるとご主人がいらしたのでした。そのご主人はゆっくりと口を開きはじめたのでした。
「話は聞いているが今はまだ考え中なんだ。人に貸さなくてもいいとも思ってるんだよね。それに理容室を開くとなると水道工事や内装工事で大掛かりな工事になるだろう。私たちみたいに年がいっている人間には騒音などつらいからね・・・」という言葉に諦めきれず、「そこをなんとかお願いします」と懇願しました。そして、師匠である田中先生の本を渡し、私という人間がどいういう先生の下で修業し、これからどういう気持ちで店を出すのかを切実に訴えました。
ご主人は重い口を開き「とりあえず、今日のところはお引き取りください。倉田さんの気持ちはよくわかったから」と。それ以上は言えず、その大家宅を後にするのでした。
その帰り道、倉田の心の中の天使が「大丈夫だよ、きっと貸してくれるよ」と囁くのと同時に、心の中の悪魔が「そんな簡単にいくわけないだろう、甘くないぞ」とつぶやくのでした。