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26章 べっぴん鏡

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 蔵子が帰ってくると、事務所のドアの前で考え込んでいるセーラー服姿の女子高生がいた。
 ドアにはプレートがあるのだから、他の会社と間違うこともないはずだがと思い、声をかけた。
「何かご用でしょうか」
「あの、わたし、相談したいのです」
中高年の女性が相談ということなら今までにもあったが、女子高生が何を相談したいのだろう。恋愛相談などしに来ないだろうし、いじめや学校のことを話しに来たのでもないだろうし…好奇心から、どうぞ入ってと促した。

「おかえりなさ~い、あら、お客様ですか」
まろみも蔵子の後ろの女子高生にどうして? という顔をしている。

 蔵子はソファーをすすめ、自分も腰を下ろして聞いた。
「ここ何日か、ビルの前で行ったり来たりしてなかった?」
「はっ、はい、どうして…」女子高生は固まった。
オレンジジュースを運んできたまろみも腰を下ろし、ふむふむと首を振ってから言った。
「そうなのよ。この人は怖い人でね。実は…」
「まろみちゃん、女子高生を脅かしてどうするのよ」
 あの、私やっぱり帰りますと腰を浮かした女子高生にまろみが冗談よ。ここは、魔女の館でねとニッと笑った。
 いいかげんにしなさいと蔵子が一喝した。

 女子高生は夏目みかると名乗った。
相談というのは、祖母の遺品のことだそうだ。
「うちのママ、いえ母とおばあちゃま、じゃなくて、そ、祖母とですね…」
「お友達と話すように、ママとおばあちゃまでいいわよ」
蔵子のことばに、みかるはほっとしたように顔を上げた。
「おばあちゃまが死んだとき、わたしはまだ子供だったからよくわからなかったけど」
あなたもまだ子供じゃないのということばを呑み込んで、蔵子はうなずいた。
「おばあちゃんの荷物をママは全部裏の納屋に放り込んで、カギをかけて開けさせてくれないから」
「どうして?」
「わからないけど、あんな人のモノに触っちゃいけないって」
「少し、おうちの事情を聞いてもいいかしら?」
みかるはこくんとうなずいた。
「ママとおばあちゃんは仲が悪かったの?」
「うん、でもお婆ちゃま、みかるにはやさしかった」
女子高生が祖母の遺品のことなど気にするのは珍しいだろう。
それもわざわざ相談に来るというのはよほどのことか。
とにかく、話を聞くしかない。

「それで、みかるちゃんは、おばあちゃまの遺品をどうしたいの?」
下を向いてギュッと唇をかんでいたみかるが顔をあげて小さな声で聞いた。
「絶対、笑わないですか」
蔵子が答える前にまろみがうれしそうに口走った。
「笑わない、笑わない、だいじょーぶ」と言いながらまろみの頬がゆるんでいる。
これだから信用できないという風にみかるが首をかしげた。
「どうして笑うと思うの?」
蔵子の問いに、みかるはうんざりしたようにつぶやいた。
「だって、誰も信じてくれないもん」
信じます、信じますと、まろみが身を乗り出した。

大きく息を吸って、まるで誰かに聞かれては困るようにみかるはささやいた。
「おばあちゃまは鏡を持っていたのです。それも普通の鏡じゃなくて…」
「えーっ、もしかして、『鏡よ鏡、世界で一番美しいのはダーレ?』だったりして」
まろみの目が輝いた。

みかるはやっぱりという顔で肩を落とした。
「うるさい! まろみちゃんは黙ってなさい。ごめんなさいね。口を挟まずにお話を聞きますから」 

 少し考えて、みかるは続けた。
「おばあちゃまの鏡は、人の心を映すのです。意地悪な人や邪まな人が見ると、鏡がくっきり映らず、灰色にぼやけて顔が見えないのです。おばあちゃまは人殺しなんかする人だと、墨を塗ったみたいに真っ黒になって何も見えなくなるんだよって言ってました」

一点のくもりもなく、真正直に生きている人間などこの世にいるだろうか。
「みかるちゃんはその鏡を見たことあるの?」
みかるは首を振った。
「ちらっとだけです。子供は鏡をのぞいてはいけないって。向こうの世界に吸い込まれるのだそうです。おばあちゃまとその話をしていた時に、ママが廊下で立ち聞きしていたのです」
あら、まあと、声を出したまろみは、蔵子ににらまれる前に両手で口をふさいだ。
「その時、おばあちゃまはママに聞こえるように言いました。人の話を立ち聞きするなんて性根の腐った人のすることだから、みかるはそんなことをする人間になってはいけないよって」

 嫁と姑の仲は昔から悪かったらしい。
いや、仲のいい嫁姑の方が少ないだろうが、これはなかなか手厳しい。
しかし、わざわざ相談に来たみかるの真意はまだわからない。
「それで、みかるちゃんはどうしたいの?」
「わたし、このごろおばあちゃまの夢をよく見るのです。鏡の箱を大事そうに抱えたおばあちゃまはどこかの神社をうろうろ歩いているのに、迷ったみたいにどこへも着かないで、ぐるぐる回っているの」

夢判断を求めるには来るところが違うし、そもそも人の心を映す鏡の話自体が夢物語のようだ。また夢の中のおばあちゃまに行先を教えることもできないし…。
蔵子の思いとは反対に、わかったとまろみが手を打った。
相変わらず騒がしい。

「それは夢のお告げかも。みかるちゃんが、その鏡をどこかの神社に納めればいいのよ。
そうすれば鏡よ鏡って、こわい話もおしまいになるし」
「まろみちゃん、無責任なことを言わないでよ。ところでみかるちゃんはその夢のせいで、鏡のことを考えたのね」
みかるはうなずき、何度か納屋のカギを開けようとしたがうまくいかなかったと肩を落とした。
「お父様には相談したの?」
「パパは地震があってからずっと熊本です。仕事が大変そうで、こんなこと言えないです」
「納屋のカギを開けて、鏡を持ち出してどうするつもりだったの」
「どうするって、鏡を見れば、どうすればいいかわかると思って」
ほら、出たというまろみの声を無視して蔵子は考えた。
「もしよ、もし、みかるちゃんが鏡をのぞいて真っ黒だったら、どうするの」
「そんなこと、ありえません」
どうしてそこまではっきり断言できるのかと思った蔵子はみかるに提案した。

「納屋のお宝がどれくらいの価値があるのか鑑定しませんかという話が来たら、お母様はなんとおっしゃるかしら」
そこに母親の顔があるように宙をじっと見つめたみかるは、ぼそりと言った。
「ママはガラクタばかりだって言ってます」
ふつうはそうね、そこをなんとかできないか。
「そうだ!」と蔵子が手を打った。
まろみは内心、蔵子さんだってうるさいでしょと思っている。

「おばあちゃまは、古いお札や硬貨を残しておられないかしら」
「はっきりわからないけれど、たぶんあると思います。子供の時に、五百円札とか見てびっくりしたし、一円より小さい、五銭とか十銭もあったと思うけど」
「では、それでいきましょう」
「は? どこへ行くのですか。私を置いてかないでくださいよ、蔵子さん」
「まろみちゃん、出かけるわよ」
あ、あの、わたしは? みかるが戸惑っているので、まろみは腕をつかんで、行くに決まってるでしょ、ハイ鞄を持って行くよと促した。

 十分ほど歩いて駅前の書店に着くと、蔵子は店内の検索機で調べ、棚に向かった。
一冊の本を手に、レジで支払いを済ませた蔵子はにっこりした。
「これこれ、これよ。さてと、お茶でも飲みましょうか」
蔵子の後を追いながらまろみが小声でささやいた。
「みかるちゃん、この人と仕事をするとけっこう疲れるのよ。私の苦労もわかるでしょ」
みかるは黙ってうなずいた。

 飲み物を注文してからまろみが聞いた。
「なにがどうなってるのか、さっぱり見えません」
「これから説明するわ」と蔵子は書店の袋から『日本貨幣カタログ』を取り出した。
「ところでみかるちゃん、社会か歴史でレポートを書く課題はないかしら」
「自由課題ならありますけど」
それそれ、それよと蔵子は本を開けた。
「古銭、古いお金と歴史を調べてレポートを書くために納屋に入る必要があるとお母様に話すの」

蔵子は『日本貨幣カタログ』を開いて説明した。
「同じ硬貨でも、作られた年によって価値が違うのよ。三百円の物もあれば五千円の値が付く物もあるの。作られた枚数が少ないとか、いろいろな状況によってね。だから、その貨幣のできた社会背景とか、図柄もなぜそうなったのかとか、興味を持って調べてみると面白いかもしれないし、レポートにすれば学校にも出せるし、納戸に入る口実になると思ってみかる」

戸惑っていたみかるの顔が輝いた。
「学校の課題をするっていうことなら、ママも調べてもいいというかもしれません」
そこでと、蔵子はまろみをじっと見た。
「まろみちゃんのセーラー服姿は…」
「えっ、もしかして私が、ウフ、コスプレみたい」
まろみは胸を突き出してポーズをとった。
「まろみちゃん、勘違いしないでね。ひとりで探したり片づけるのは大変だから、お友達ということでまろみちゃんに手伝ってもらおうかと思ったけど、みかるちゃんの同級生というには無理があるわね。かといって、私たちが押し掛けるとお母様が怪しまれるだろうし」
「大丈夫です。おばあちゃまのモノだから時間がかかっても一人で探します」

蔵子が心配なのは怪しい鏡のことだった。鏡がみかるの話通りのものかどうかは別にして、どのように扱うか、そこが問題だろう。コインはいいアイデアだと思ったんだけどなあと、蔵子は考え込んだ。

 まろみはみかると機嫌よくイチゴのクレープを食べている。
「鏡の大きさはどれくらいかな」
みかるは皿に残っているもう1枚のクレープをフォークで広げた。
「これくらいのような…難しいです」
「子供のころの感覚って、今とは違うでしょうからね」
みかるは頬を紅くして乗り出した。まろみもうれしそうだ。
「じゃあ、すぐにママに話して、初めていいですか」
「鏡のことが気になるから、ちょっと待ってもらえるかな」
えーっと、二人は声を上げた。

「もし、その鏡が見つかったら、みかるちゃんは箱を開けたくなるでしょう」
はいと力強くうなずくみかるに、蔵子はだから危ないのよと腕を組んだ。
「浦島太郎みたいに箱を開けたら…みかるちゃんがおばあちゃまになってるとか」
「いやだ、まろみさん、変なこと言わないで下さいよ」
みかるは肘でまろみをつついた。

「とにかく、少し待ってね。それまではレポートを書くために、このカタログで古いお金でも見といてね」
みかるは不承不承わかりましたと言った。
 みかると別れ、事務所に戻った蔵子は、一度鏡について調べてみようと思い、アマゾンで資料を探すことにした。
「鏡について」で検索すると、内視鏡のなんとかという医療関係の本ばかりが出てくる。
そういえば、先月半ばにバリウムを飲んだ胃の検査結果は、要再検査だった。
胃カメラの予約をするようにという診療所からのお知らせをそのままにしていることを思い出した。忘れずに手帳に書いておかなくては、と予約を先のばしにしていることに苦笑する。
しかし今はとにかく、やりかけていることをと、図書館のネット検索で「鏡の歴史」と入力した。

ぴったりのタイトルが画面に現れた。
マーク・ペンダーグラストの『鏡の歴史』のまえがきによると、鏡はそれを見る者がいて初めて意味を持つと書いてある。なるほど、確かにそうだ。
 この本をすぐ読みたいと思い、蔵子は近くの図書館の蔵書を検索した。
あった、貸し出しもしていない。
図書館に行ってくるわと、飛び出した蔵子をまろみはぼうぜんと見送った。

本を手に事務所に戻り蔵子は読み始めた。
 有史以前から、人間は鏡に魅かれ、大昔、エジプト人、インド人、中国人、マヤ人、インカ人、アステカ人…は金属や石でできた鏡を死者とともに埋葬した。
 中世には、鏡は神々または悪霊の領域への入り口とされ、神秘的な未来をのぞき見る鏡面占いに使われた。
 みかるの祖母が持っていた鏡はこの類だろうか。

真剣に本を読んでいる蔵子に、まろみがおそるおそる声をかけた。
「蔵子さん、今日は金曜日です」
「そうね、それがどうかした?」
「明日、明後日は休みです」
「当たり前じゃないの、変なまろみちゃん」
「変なのは蔵子さんです。鏡に取りつかれたんじゃないですか」
「どうして」
「冷蔵庫に、みかるちゃんが持ってきてくれた生チョコケーキがあるのを忘れているからです。今日中に食べなければいけないと思います」

 生チョコケーキを頬ばりながら、まろみが聞いた。
「蔵子さん、やけに鏡にこだわっていますね。図書館へ行って本まで借りてきて」
「実はね、わたしも昔同じような話を祖母から聞いたことがあるの、だから気になって」
「蔵子さんちにもあったのですか」
「いえ、話だけなのよ。小学生のころ、夏休みに母の実家へ行った時、祖母の手鏡で遊んでいたら、鏡を割ってしまったの」
「怒られました?」
蔵子は首を振った。
「おばあちゃん、わたしを抱きかかえて、『この子はどこへもやらん』って叫んだの」
「誰に向かって?」
「あの時は意味がよくわからなかったけど、散らばった鏡の破片に向かって言ったような気がする。そのあとのことは記憶にないの。次の日くらいにおばあちゃんが鏡は人の心を映すから、粗末にしてはいけない。そこで、昔々、あるところにという話が始まって」
「桃太郎ですか」
「それが、みかるちゃんの話と似たような鏡の話だったの」
「どうしてその話をみかるちゃんにしなかったのですか」
「火に油を注ぐようなものでしょう」

 三日後。
「あれ、みかるちゃんからメールが来てる」
携帯の画面を見つめて、やっちまったよとまろみがつぶやいた。
「どうしたの?」
「大変です」
「なにが?」
「みかるちゃんがひとりで納屋に突入しました」
「あらまあ、なんて?」
「パパが足を捻挫して動けないから、ママが急に熊本に行ったので、チャンスだと思って、鍵を探して入ったそうです」
「見つかったの?」
「それらしき箱を見つけたけど、やっぱり怖くて一人で開けられないから、来てほしいって」
「乗りかかった船か、仕方ないわね、行きましょう」

タクシーに乗り、運転手にてきぱきと住所を教えるまろみを見ながら、蔵子はしみじみまろみの成長を嬉しく思った。
「ニヤニヤして、どうしたんですか」
「まろみちゃんも大人になったなと思って」
「いやだ、蔵子さん、事務所に入った時からわたしは、お・と・な、でした」
「そうかしらねえ、はじめは電話が鳴ったら、きゃって、飛び上がって逃げていたじゃない」
そりゃあまあ、そうですけど、と唇をすぼめて、まろみは話題を変えた。
「ところで、わたしは蔵子さんのおばあちゃんの『この子はどこへもやらん』が気になってるんですけど」
「ああ、あれね。私の解釈だけど、昔、鏡はとても貴重なものだったでしょ。ほら、三種の神器とか」
「三種のインキですか?」
蔵子は笑いをこらえ、話を続けようとすると、運転手がボソッと言った。
「三種の神器なら、鏡と玉と剣でしょう」
蔵子とまろみが顔を見合わせると、運転手は突然後ろを向いて、「わたし、歴男です」
「わ、わ、わかりました。前を向いてお仕事してください」
あわてた蔵子に、まろみが小声でささやく。
「れきおってなんですか」
聞こえたのか、運転手が説明したそうなので、蔵子は、あとでとまろみの口をふさぐ。
運転手は、古事記編纂1300年とつぶやいているがうしろの二人はお互いに窓の外を見ているふりをした。

 着きました、ここでいいですかという運転手に、いいですいいですと、料金を払い二人は飛び降りた。

 大きな門のある家だった。
インターホンを押すと、家の裏の方からみかるが小走りで出て来た。
「蔵子さん、まろみさん、箱がありました!」
みかるの頭には白く光る蜘蛛の糸がついていたが、頬は赤く輝いていた。
「うわお、大変だぁ」
「まろみちゃん、興奮しないで」
  庭を回り、陽だまりの縁側には新聞紙の上に箱が置かれていた。
「この新聞で包んであったのですけど、箱には鏡と墨で書かれているからまちがいないと思います」
「もう、どきどきしてきた。どうします、蔵子さん。開けたらもわもわと煙が出て、蔵子さんが白髪頭のおばあさんになったりして」
「どうしてわたしだけおばあさんなの?」
「わたしとみかるちゃんは、若いからですね。おばあさんではなく、おばさんくらいになるだろうと…」
「まろみさんて、面白い方ですね」とつぶやくみかるに、蔵子はそうなのよねえと答えた。
「それでは、わたしがおばあさんになるか、開けてみましょう」
 ざわざわと風に揺らいでいた庭の木のざわめきが止まったように感じた。
 ふたを開けると、鏡は影も姿もなく、黄色くなった封筒が出てきた。
表には「みかるへ」と書かれていた。

 みかるへ
この手紙を読むときには、おばあちゃんはこの世にいません。
たぶん、みかるのことだから鏡を探すだろうと思います。
しかし、この鏡は使い方を誤ると、みかるの命まで危うくなります。
あれば気になるし、使いたくなるでしょう。人間だから当たり前です。
だからこれはおばあちゃんがあの世に持って行きます。
鏡というのは顔や姿を映すだけではありません。
実はその人の心も映しているのですよ。
みかるもお化粧する年頃になれば、度々鏡をのぞくでしょう。
その時に、自分の心も映っていると思ってください。
気持ちよく鏡に向かって笑えるかどうか。
これは特別な鏡でなくてもわかります。
おばあちゃんはみかるが、素直で素敵な女性になることを願っています。

さようなら    
おばあちゃんより

 冷静なみかるに比べ、まろみは子供のように泣きべそをかいている。
「どうしておばあちゃまは、わたしが鏡を探すってわかっていたのでしょう」
手紙を握って首をかしげているみかるに蔵子は答えた。
「探さなければ、この手紙は読まなかったし、わからなかったでしょうね。
だけどおばさまはみかるちゃんに鏡の話をしたことを後悔しておられたのかも?」
「どうして?」
「さあ、どうしてでしょう。世の中には知らない方が幸せということもあるのかもしれない」
「そんなの変です」
「そうかもしれないわね。ただ、おばあさまはこうする方がよいと思われたのじゃないかしら」
 みかるの目に涙があふれた。

 門を出るとまろみがしゃべりだした。
「今回のことはいったいなんだったのですか。わたしにはさっぱりわかりません」
「さあねえ、わたしにもわかりません。触らぬ鏡に祟りなしってね」
「それは鏡でなくて、神でしょ。それくらいわかりますよ。ふん」
「そう尖がらずに、機嫌を直して、駅前のお汁粉屋に寄りましょうか」
「今日は蔵子さんのおごりですから」

 一カ月後、みかるから手紙が来た。

 蔵子さん、まろみさんお元気ですか。
この前はありがとうございました。
パパにおばあちゃまの手紙を見せて、鏡の話をしたら驚いていました。
そして、そろそろ納屋の荷物を整理するかと言い出しました。
夏休みにパパと二人で片づける予定です。
(ママはいやだそうです)

 それから、教えてもらったコインのこともいろいろ調べました。
歴史とか成分や、希少価値などすごく面白いです。
学校へ出したレポートもAで、みんなの前でほめられました。
 すると、同じクラスの勝則君がコインに興味を持っていて話が合い、みんなの家の古いコインを調べようと言い出したので、調査をしています。
わたしたちはコイン探偵です。
 あ、ママが帰ってきたので、おしまいにします。

さよなら               
                            みかる

「みかるちゃんも元気そうでよかったですね。それにカレシもできたみたいだし」
「そんなこと書いてあった?」
「そりゃ、わかりますよ」
「いろいろあったけど、今度のことで、おばあちゃまの遺品が片づけられるのが一番の効用かもね」
「わたし、やっぱり思うのですけど、のぞくと美人になる鏡があれば売れますよ。べっぴん鏡って名前をつけて。ほら、プチ整形より楽ですから」
「それでまた、『鏡よ鏡、一番美しいのはダーレ?』になるわけ」
「何かに書いてありましたけど、人間がこんなものがあればいいなと思っているものはいつか科学の進歩で実現するって」
「それは確かにそうかもしれないけど…長生きしてください」
がんばります! とまろみは力強くガッツポーズをした。

 その夜、蔵子は自宅の押しれの中から取り出した箱を開けて祖母の形見の鏡を取り出し、覗き込んだ。
これでよかったのかな、おばちゃんとつぶやきながら、鏡を磨いた。

26章 終

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