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20章 わくわく同窓会

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Mホテル宴会場

「本日はお忙しい所、同窓会にお越しいただきありがとうございました。皆さまのお元気そうなお顔を拝見し、うれしく思っております。また、このような会が持てましたのも、講座の卒業生の淀川清香さんが、企画や幹事をしてくださったお陰です。ありがとうございました。今日は皆さんおうちのことは忘れて、思い切り楽しんでいただければ幸いです。
えー、あいさつは短い方が良いと申しますので、これくらいにして、司会を引き受けてくださった花園くららさんにマイクをお渡しします」

 マゼンタ色のスーツを着たくららが蔵子の隣に並び、頭を下げた。
「こんにちは、皆さんその後、お部屋は片付いてますか?」と、会場を見まわした。
 ハーイという元気な声に続いて、ダメでーすという声に、どっと笑いが広がった。
「実は、わたしも大きな声では言えませんが、また、クロゼットがいっぱいになりまして、えらいことになっております」と肩をすくめた。
「それというのも、風水の先生に今年は黄色い洋服を着ると良いことがあると言われまして、根が素直なものですから黄色い服を買いまして、毎日カナリヤのごとく羽ばたいておりましたが、タクシーに乗ったら後ろから追突されるし、夜道を歩けばバッグをひったくられるしで、ろくなことがありません。
そこで、違う風水の先生のところへ行きましたら、このマゼンタ色がいいと言われまして、クロゼットでカナリアがたくさん眠っております」

「他の人なら作り話かと思うけど、くららさんなら、ほんとの話ですねえ」と、まろみは、椅子から転げ落ちそうなほど笑い転げた。
 大輪の牡丹のようなくららは、本領を発揮し、会場は爆笑の連続だった。
「それでは、そろそろ皆さん、ひとりずつ、自己紹介と近況報告をお願いします」
 ベージュのジャケットに黒のパンツをはいた高島蛍が、トップバッターは嫌だなあと言いながらゆっくりと立ち上がった。
「こんにちは、高島蛍です。昨年講座を卒業しました。わたしが参加したのは、もちろん、片付けが下手だからですが、それは親のせいだと思っていました。
恥ずかしながら、両親は二人ともだらしのない人で、いつも家の中はひっくり返っていました。ですから、子供のころから、朝、学校へ行くのに、体操服がない、リコーダーはどこへ行ったと大騒ぎして、遅刻をしていました。
 小学校の3年生のときに友達の家に遊びに行くと、床にものがないのを見て驚いたことが印象に残っています。
わたしはそのまま大人になり、あい変らず、片付かない部屋で暮らし、これは親がきちんと片付け方を教えてくれなかったからだと思い込み、コンプレックスを抱いていました。
結婚して主婦になっても、片付けができないのは変わらなかったのですが、夫が正反対の片付け魔で、とにかく、きれいにしておかないと気のすまない人でした。
結婚当初はそれでも良かったのですが、一年たつと、お互いに我慢ができなくなったのです。夫はわたしのだらしなさに。わたしは夫の神経質なほどのきれい好きに」

「なんだか蛍さんの身の上話みたいになってますけど、いいんでしょうかね」と、まろみが蔵子を見た。
「くららさんにお任せしましょう」 蛍の話は続く。

「一年で離婚したわたしは、ぼろぼろでした。それも、これも、人並みに整理や片付けのしつけをしてくれなかった親の責任だと思っていました。
結婚に失敗したのも、仕事がうまくいかないのも、何もかも人のせいにしていました。
でも、どこかでこれじゃあいけないと思っていたので、思い切って『新わくわく片付け講座』に参加して、なぜ片付けられないのかを考えました。

そうしたら、わたしが片付け方を知ろうとしなかったのだ、という簡単なことに、遅まきながら気がつきました。これでわたしの人生は、変わりました。
こうして胸を張って同窓会に参加することができ、ほんとうに良かったと思っています」
 拍手が起こり、頬を染め、戸惑いながらも蛍は一礼して腰を下ろした。

「長いお話しありがとうございました~」くららの言葉に、嫌味な感じはなかった。
「でも、この調子でいくと、食事が始められなくなり、今夜はホテルにお泊りになりますので、手短にお願いしまーす」
 自己紹介が終わり、乾杯をすることになった。

「乾杯の音頭は、この会を企画してくださった淀川清香さんにお願いいたします」
と、くららが清香を指名した。
「えっ、そんな、わたしは裏方ですから…だめです」
「ぐだぐだ言ってると、皆、ビールが飲めないって暴動が起こるわよ」
「ぼ、暴動が起こっては困りますので、それでは…皆さまのご健勝と、お部屋が片付くことを祈って、かんぱーい!」

 乾杯と元気な声が上がり、拍手をして、皆席に着いた。
「熟女が五〇人余りも集まっての乾杯は、迫力ありますね」
まろみが蔵子にささやいた。
「飲まないうちからみんなごきげんみたい。盛り上がりそうで良かった。
同窓会に集まってもらえるかどうかわからなかったし、心配だったけど」
「そりゃあ来ますよ。結婚式でもない限り、おしゃれしてホテルでお食事なんて機会は、なかなかありませんから。それに…」と、まろみはにんまりした。
「何よ、気味悪いわね」
「ここのウェイターはイケメン揃いで有名ですって」
「えっ、そうなの?」蔵子はあたりを見回した。
テーブルに次々とスープが供されていくが、サービスはタキシードの男性ばかりで、女性はいない。確かにスタイルの良い若者ばかりだ。
「くららさんが幹事の清香さんに、絶対このホテルでなきゃだめよって言ったそうです」
「恐れ入谷の鬼子母神か」
「はあ?」
なんでもないわよと蔵子は笑った。

「まあ、コンソメだわ。ポタージュとかパンプキンスープはごまかしやすいけど、コンソメは手を抜けないのよね」と、“にわか料理評論家”は会場にたくさんいるようだ。

 コースが進み、デザートは五種のケーキから選べるといわれると、ほとんどが二個、三個と希望した。
 次々に皿に盛られるケーキを見て蔵子が、バイキングの方が良かったのかもとひとりごちた。
耳ざといまろみは手を振った。
「バイキングにイケメンのサービスはつきません」
 うなずきあった二人にくららの声が飛び込んできた。
「皆さま、お料理は満足していただけましたか?」
はーいという返事が返る。
「それでは、わくわくエンターテーメントの時間です。
皆さんこの日のために準備をしてこられました。
トップバッターは西乃園キヨさんです。どうぞ~」

 舞台で、大正琴の演奏が始まった。
パントマイム、コーラス、南京玉すだれ、落語、フラダンス、オカリナ演奏と催しは続くが、所詮素人なので、失敗してもご愛敬。
 会場は盛り上がり、手拍子、足拍子にやじが混じる。
「しかし、皆さん芸達者というか、すごいわねえ」

「なんだか、お正月のかくし芸大会みたいですね。わたしたちも何かやれって云われなくて良かったです」
「右に同じく」

 宴会が終わると、皆口々に、一年に一回ではなく、半年に一回にして、また会いましょうと帰って行った。
 残っていた淀川清香に蔵子とまろみは、お疲れ様でしたと声をかけた。
「無事終わってほっとしました」
「皆さん楽しそうでしたね」
 蔵子の言葉に清香はうなずき、次の同窓会の実行委員会ができたと告げた。
「講座を卒業すると、みんなさびしくなるみたいです。だから、こうして、気兼ねなく集まって楽しめる場ができて良かったと思っています。それもこれも、蔵子さんとまろみさんのお陰です」
「とんでもない、清香さんが企画してくださったからです。ありがとうございました」
「半年に一度は準備が大変なので、一年に一度にしようと思っています」
「それを聞いてほっとしました」
20章 終

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