八上桐子

川柳人  句集「hibi」

八上桐子

川柳人  句集「hibi」

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2020.4.26

川面を見つめるように、時間が流れるのをぼんやり眺めてひと月が過ぎた。スマホを割った青が、修理に梅田へ行かなければならなくなり、夫が車で送ってくれた。ハナミズキがあかるい。修理を待つあいだ、郊外の本屋さんへ寄ってもらう。本がいっぱい並んでいる。本に囲まれ、全身の皮膚からゆるんでくる。菜の花色の本を買って、あいているカフェがないか探していたら、ちいさなれんげ畠を見つけた。今度は目からゆるゆるになる。梅田に戻って車を止めたら、目の前が前から行きたかったパン屋さん。一人ずつ入店する。

    • 揮毫

      川柳を色紙に書くことになった。展示のテーマに合わせて「藤という燃え方が残されている」を選ぶ。清書用に薄むらさきとシルバーの色紙を1枚ずつと、色紙サイズの和紙を1枚買った。 まずは半紙で練習。「燃」「が」「され」「いる」が難しい。かたちの取り方、前後の文字とのバランスをあれこれ試行錯誤するが、どうしたって自分の字。他人が見たら、たいして変わりはないかもしれない。これかなというところで、いよいよ清書。 緊張して、てのひらに汗が滲む。まずは、シルバーの色紙。何度も穂先を整える。息が

      • 1.17

        急坂を下りてくると、道の向こう、まん丸な時計が目に入る。 ビルの2階に、眠たげなキリンの横顔に並んで、それはしずかにある。 長い横断歩道を渡りながら、はじめてその時刻を見つめたとき、 まぶたの奥に、煙、石、炎、ガラス、顔、もろもろ浮いてきた。 それからは、からだの奥の水を揺らさぬよう、 用心して横断歩道を渡っている。 一日に二度だけ、時刻を合わせながら、 時計は時間をながれている。 追いかけてこない時間、引き止めなくてもいい時間、 横断歩道を渡るあいだ、「今」が遠くなる。

        • あっちとこっちと

          「キセルって知ってる?」「どっちの?」「どっちって?」「不正乗車か喫煙具」「いやそうじゃなくて、アーティストの」「知らん」「ライブチケット買ってん」「へ〜」と、はじめてキセルライブに行ってきた。 3年前のこと。升田学さんとセレのグラフィカのダンスパフォーマンスで、「君の犬が死んだ朝……」とはじまる歌が流れた。13年暮らしたミニチュアダックスの「ゆず」が死んでしまった少しあとだった。ゆずは庭に埋めた。「夢の浜辺に埋めましょう 掘っても 掘っても 指先に 触れてくるのは 柔らか

          福の重さ

          はじめて福袋を買った。通りがかりのワイン売り場、「辛口4本 3,000円 10本に1本ドン・ペリニョン入り」にグイと腕を捕まれてしまった。「アカサンシロイチでよろしかったでしょうか」。アカサンシロイチ……あ、赤3白1。なにかの呪文みたいと思いながら商品を受け取り、友人との待ち合わせ場所へ。地上へ出ると暴風に街路樹が幹から揺れいた。アカサンシロイチを授かった私は、石像のように地に押さえつけられている。福が重い。石像のまま歩みながら、人にはそれぞれ背負いきれない福もあることを思う

          福の重さ

          追い詰められ餃子

          年が改まるというのはいいことだとしみじみ思う。私のような無精な人間は、きまりのようなものがないと家が片付かない。じわじわ増える本、洋服、一生分ゆうにある紙袋を収納できる量に整理し、通気口の埃など掃除。パソコンの中の古いデータまでざくざく捨てた。正月休みのほとんどを大掃除に費やした。 昨夜は、今年最初の投句締め切り。驚いた。まったく書けない。大掃除で頭の中のものも捨ててしまったのか。いやいや、書こうと思えば書けないことはない。いいかどうかの判断のつかないような句が書けない。す

          追い詰められ餃子

          あけましておめでとうございます

          自分の部屋が片づかないまま新しい年を迎えてしまい、元日の夜から部屋の掃除。さいごに本棚を片づけ終わったら夜明け前の4時だった。年の初めに、這いつくばって床を拭くのも悪くない。このまま地味にガシガシやれる年になったらいいなと思った。 年末にいただいたサーモンピンクの薔薇がひらいて華やいでいる。 バラが咲いた バラが咲いた まっ赤なバラが 淋しかった僕の庭に バラが咲いた たったひとつ咲いたバラ 小さなバラで 淋しかった僕の庭が 明るくなった バラよバラよ 小さなのバラ  い

          あけましておめでとうございます

          準備中

          2020.1.1 open(予定)