キンモクセイ盗賊団の池【毎週ショートショートnote】
「池さん早く!」
全く何で俺が世話役なんだ。オジキの遠い親戚らしいが、身寄りがいなくなったとかで先週北海道からやって来た。75のじいさんだぞ。勘弁してくれ。
初仕事は秋葉原の家電量販店。ガラスを割って侵入すると店内のパトランプが点滅した。
「数分で警察が来る!レジから金抜け!」
「えっと、これどこに入って…」
「それキャッシュレスだ!」
「キャッチュ?」
「もういい俺がやる!売場から取れるもん取れ!」
現金をバッグに詰め込み顔を上げると、池さんは陳列してあるスマホの画面をじっと見つめていた。
「何してんだ!行くぞ!」
「これ…」
画面には金木犀の写真が映っていた。
「北海道にはなかったんです。死んだ妻が秋田出身でね。もう一度見たいって…ううっ…」
「わ、分かった。今度一緒に見に行こう。だから頼む逃げるぞ!」
池さんは涙を拭い、盗んだスマホを抱えて走り出した。遠くでサイレンの音が響く。
金木犀どこあったかな?
先が思いやられる75の夜だった。
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