番外編 本編第七章~八章の間 殿と兵士その一 秘密を共有する者

 これは斗真に出会い話を聞いた後の夜の出来事。なかなか寝付けないのか宿をこっそりと出ていった喜一の後を追いかけ隼人が彼の背後へと近寄る。

「……あんたも眠れないのかい」

「あのような話を聞いた後だからな。いささか信じられない事実を付き付けられれば誰もが心乱れ落ち着いて眠れやしまい」

背後に立った気配の主が誰か分かっているかのように喜一が声をかけると彼が溜息交じりに答えた。

「で、俺に何か用」

「……喜一殿。これは私の勘違いかもしれないと思って今まで黙っていたのだが、やはり私と貴方はどこかで会ったことがあると思ってずっと考えてきた。そして今日その謎が解けた。貴方は……殿様ですよね」

背後へと振り返り尋ねた彼の言葉に真顔になった隼人がそう話す。尋ねるように言っているがそれが違わないことを分かっているといった顔で喜一を見詰めた。

「……」

「……喜一という名前の時点で気付くべきでした。貴方はこの国の城主であられる喜一(よしくに)様ですよね」

彼の言葉に凍り付いたかのように動きを止め真顔で黙り込む喜一へと隼人がさらに言葉をかける。

「ははっ。あ~あ。バレちまったか……」

「やはり貴方は殿様でしたか。なぜ殿様が神子様御一行の旅に同行などするのです」

盛大に溜息をつきやれやれといった顔をする彼へと溜息をつきたいのはこっちだといった感じで尋ねた。

「隼人。俺が殿さまって事は皆には内緒にしておいてくれ。それと俺のことはこれからも遊び人喜一として皆にばれないように敬語はなしだ。いいな」

「それがご命令なら従います」

真顔で言ってきた言葉に隼人はそれが命令なら従うといった感じで渋々と頷いた。

「それから、さっきの旅に同行云々の話な、はじめは神子の旅なんて面白そうで退屈な城勤めを抜け出す口実だった。だけど今は違う。神子さんが邪神のいけにえだって聞いて気持ちが変わった。神子さんの命と引き換えにこの国があり続けるなんて間違ってる。俺は神子さんを助けたい。だからこれからも神子さんの旅に同行して、神子さんを側で守り続ける」

「まるで神子様のことに好意を寄せているように感じるのですが、まさか神子様のことを本気で好いているなどとは言いませんよね」

喜一の言葉に彼が驚いて尋ねる。

「……隼人。俺は本気で神子さんの事が好きになった。だから好いた女を最後まで守り抜きたいって思って何が悪い」

「なりません! 立場をお考え下さい。神子様は今は神子という位を頂いて丁重な扱いを受けておりますが、元は村娘ですよ。神子の旅が無事に終われば役職はなくなり彼女は村人に戻されるのです。一国の城主と村娘が結婚することなどできはしません」

喜一の返事を聞いた途端怖い顔をして忠言する隼人の様子にめんどくさい奴を見るような目で彼が見詰めた。

「神子の旅が無事に終わればその時に新たに地位を与えれば済むだけだ。それよりもお前はどうなんだよ、神子さんの側に俺より長くいたんだから神子さんのこと好きになったりしなかったのか?」

「それは、どういう意味でしょうか」

彼の小言を止めるかのように口を開いた喜一の言わんとする意味が解らず怪訝そうに隼人が聞き返す。

「あ~。俺が神子さんのこと好きだって言った時に立場がどうのとか言って否定するってことは、あんたも神子さんのこと好きだからかと思って聞いたんだけど勘違いだったか……」

「……」

その様子に自分の感も外れたかといった表情で喜一が呟いてる間、更に訝しげに眉をしかめ主の顔を見詰めた。

「とにかく神子さんのこと好きになろうがどうしようが俺の自由だ。お前は人の恋路に口出すもんじゃないぜ。ま、お前も神子さんのこと好きだって言うなら話は別だがな」

「……殿」

喜一の言葉に隼人が何事か言いたげな顔で呟きを零す。

「話はそれだけだろ。これで終わりだ。良いか、絶対誰にも俺が殿様だってことバレないようにしてくれよ」

「……」

しかし喜一にバッサリと切り捨てられてこの話はここでおしまいとなってしまった。隼人は複雑にざわめく内情に疑念を抱きながら一礼して彼の下から立ち去る。

喜一の言葉の意味を考えながらその日は一睡もできずに朝を迎える事となった。

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