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 ギャラリー。絵の前に立つひとがいる。

わたし  絵の前に立ちたいという気持ち、ですよね、絵を見たいというよりは、絵の前に立ったら絵も見るんですけど、もちろん、でも、いや、立つときは絵が見れる場所に立つんで絵は見たいんですよ、もちろんね、でも、立ったときはじまるわけですよ、絵とわたしの、あれが、あれですよ、あれっていうのは、関係、というか、交流というか、色とかたちがあって、わたしはその前に立って、別にいいとか悪いとか、おもしろいとかおもしろくないとか、そういうの以前に、絵を描いたひとの経験したこと、経験しなかったこと、この絵がどうして描かれて、どうやってここに飾られるようになったのか、とか、そういうのが、反映されたり、反映されなかったりした絵が、目の前にあって、絵の前に立ってるわたしが、経験したことしなかったこと、そういうのが、反映されたりされなかったりして、いまこのギャラリーに立っててわたしは、絵を見てるから、絵を見たわたしがこれからすることやしないこととか、そういう、この絵を見たあとの出来事、未来、とかそういうの、そういうものとつながってる感じ、ですかね、絵を見てるときって、そうかな、いや、でも、絵を見てるときは絵を見てるだけですね、絵を見れる場所に立って絵を見てるという、絵というか、色とかかたちが作用するわけですよね、わたしの中で、ただ立ってるだけなんだけど、絵の前で、ただ立ってるだけなんだけど、

 わたしの立っているそばに、あなたは座っている。

あなた  ただ立ってるだけなんですけどね、こんにちは、

わたし  こんにちは、

あなた  絵の前に立ちたいという気持ちですよね、絵を見たいというよりは、

わたし  わたしは、そう、思ってます、

あなた  わたしもそう思ってます、

わたし  ほんとですか?

あなた  思ってるからあなたに声をかけたんですね、はじめまして、

わたし  はじめまして、

あなた  絵の前に立ってみてどうですか?

わたし  どう、なん、でしょうか、

あなた  わたしが描きました、

わたし  あ、作家さんですか?

あなた  ずっと立ちたかったんですよね、わたしも、

わたし  ……

あなた  描くというより、立ちたかったんですよ、絵の前に、

わたし  描くというより?

あなた  そう、立ちたかった、描いてる間もずっと、この絵の前に、

わたし  絵を描いてるときは絵の前にいますよね、

あなた  いますね、ただ、基本、座ってます、

わたし  いえ、座っててもいいんですよ、いまだって別に、椅子があったら座って、座ったっていいし、座って絵の前に立つ、ってこともあると思いますし、

あなた  わかります、座りながら絵の前に立ってるひと、でもね、絵を描きながら絵の前に立つことはできないんですよね、絵を描くことと絵の前に立つことは同時にはできなくて、だから、絵を描きながら “座りながら” 絵の前に立つこともできないんです、

わたし  そういうもの、なんですか、

あなた  ええ、だから、ずっとわたしも立ちたかったんです、この絵の前に、

わたし  絵の前に立ちたいという気持ち、ですよね、

あなた  ええ、絵を見たいというよりは、

わたし  絵の前に立ったら絵も見るんですけど、もちろん、でも、

あなた  いや、立つときは絵が見れる場所に立つんで絵は見たいんですよ、もちろん、

わたし  でも、立ったときはじまるわけですよ、絵とわたしの、あれが、

あなた  あれですよ、あれっていうのは、関係、というか、交流というか、

わたし  色とかたちがあって、わたしはその前に立って、

ふたり  別にいいとか悪いとか、おもしろいとかおもしろくないとか、そういうの以前に、絵を描いたひとの経験したこと、経験しなかったこと、この絵がどうして描かれて、どうやってここに飾られるようになったのか、とか、そういうのが、反映されたり、反映されなかったりした絵が、

あなた  目の前にあって、

ふたり  絵の前に立ってるわたしが、経験したことしなかったこと、そういうのが、反映されたりされなかったりして、いまこのギャラリーに立っててわたしは、

わたし  絵を見てるから、

ふたり  絵を見たわたしがこれからすることやしないこととか、そういう、この絵を見たあとの出来事、未来、とかそういうの、そういうものとつながってる感じ、ですかね、絵を見てるときって、

あなた  そうかな、

ふたり  いや、でも、絵を見てるときは絵を見てるだけですね、絵を見れる場所に立って絵を見てるという、絵というか、色とかかたちが作用するわけですよね、わたしの中で、ただ立ってるだけなんだけど、絵の前で、

 ふたりは向かい合っている。

ふたり  ただ立ってるだけなんだけど、

あなた  こんにちは、

わたし  こんにちは、

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Photo: Rika TOMOMATSU

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