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Bookレビュー「夏目漱石/夢十夜(第一夜)」

以前読んだことがあって、再読した。
夏目漱石の他の作品はあまり惹かれないのだが、これはなぜか惹かれる。
話が短いから?
・・・それは否めない。私にとっては重要な要素だw。
でもそれだけではなくて、詩的で幻想的な感じに酔いしれるからだ。
どうしてそう思うのか、私なりに解剖してみたい。


第一夜の冒頭から「死」

この夢十夜の最初の第一夜。その冒頭から「死」の文字が現れる。
なんともセンセーショナル。
「死」という文字が全部で12個。
ばらつきを見ると、最初の方に固まって頻度が高く、分散していき、11個目の出現の12行後、油断していた頃に最後の「死」が現れる。これが本物の「死」。

なんで死ぬのか、二人の関係性は、どんな過去があったのか、
そんなことは一切語られない。
それは、夢だから。
この辺りがミステリアスで想像の余地があって良いのかもしれない。


「死」→「土」→「花」

象徴的なキーワードでリレーのようにつながっている。
女の死。土に還る。そして花になって再生し再会する。
この一連の流れが綺麗。

日が出て、日が沈む、それからまた出る。
これも生死と同様の意味を持っていると思う。


時空間の広がり

たった4ページほどの小説なのに、その中にエッセンスは凝縮されている。
シンプルな言葉が並んでいる。登場人物も2人だけ。
なのに、時間も空間も広がりを感じるのはなぜか。
それは表現の中に奥行きがあり立体的に映るからだと思う。
例えば、こんな表現。

  • 真白な頬の底

  • 透き通るほど深く見える

  • 天から落ちてくる星

  • 赤い日が頭の上を通り越して行った

  • 一つ二つと勘定していくうちに

  • 百年待っていてください

  • 長い間大空を落ちている間に

  • 暁の星がたった一つ瞬いていた

  • 一輪の蕾がふっくらと弁を開いた


女性の表現

  • 長い髪

  • 長い睫毛

  • 輪郭の柔らかな瓜実顔


色の鮮やかさ

  • 唇の色はむろん赤い

  • 黒眼

  • 赤い日

  • 真珠貝

  • 月の光が差してきらきらした

  • 青い茎

  • 真白な百合


対象的な言葉の数々

  • 東、西

  • 男、女 (男とは断定されていないが、内容から推察して男と仮定。)

  • 日、月

  • 白、黒

  • 死、花(生)

  • 丸い(石)、鋭い(角、星の破片、縁の鋭い貝)


夢なのに、リアルな感覚

  • 温かい血の色

  • 土の匂い

  • 自分の胸と手が少し暖かくなった


その他

「自分の胸と手が少し暖かくなった」
ほとんど感情表現の描写がないせいか、ここは際立っている。
なぜ暖かくなったのか。
亡骸(に見立てた石)を抱き上げて土へ置くうちに、自分の感情に向き合えたからかもしれないし、亡骸の冷たさとの対比かもしれない。

真珠貝の鋭い縁は、土をすくってかけるたびに丸くなっていく。
土の匂いと、土をすくう感触と、真珠貝が月の光で光るのを目にしながら何を思っただろうか。

二人は貝のように一つだったものが女の死によって分離した。
亡くなった人を思いながら、片方の貝を手に取っている。

星の破片も、もともとの星から一部が削がれて、それが長い時間をかけて丸くなって地上(土)に落ちた。

少しずつ、少しずつ、貝の縁も星の破片も時間の中で滑らかな丸みを帯びていく。
その中に私もいる。
腕組みをして傍らであなたを見ていた。今は丸い墓石を眺めている。
赤い日が東から出て、西へ落ちる。
その営みの繰り返し。


「百年はもう来ていたんだな」
男のセリフでカギカッコに包まれているのは最後のここだけ。
もしかしたら、この部分で女を夢の中に置いたまま、夢から醒めて現実に戻ったのかもしれない。

目の前の百合に向かって話しかけたのかもしれない。

夏、星降る夜。静かな庭先で今日も待っていたんだろう。
月明かりに照れされて、今ここに咲いた一輪の真っ白な百合の花。
やっと会えた。






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