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うまくもまずくもない食堂に閉じ込められたかのようなコロナによる嗅覚障害

コロナ発症日から10日目を迎えて自宅でくさってる。いまさらコロナにかかる事など珍しくもないのだが、自分には初めての経験で、絶賛嗅覚障害中である。

コロナ禍で半年に一度高熱を出してPCR検査をしては毎回陰性だった。

だから上顎と喉の痛みから声が出にくくなっても、38.9°発熱しても、唾液によるキットの陰性結果を固く信じた。やっぱりね。私は何故かコロナにかからない。
熱も下がって、夏風邪だと思ってランチに出かけた。クーラーで身体を冷やすから、と足元まで温かくしたせいか帰宅途中胸がとても苦しくなった。休み休み、自宅に戻ってクーラーの効いた部屋で休んで、病後で体温調整がうまくできなかった、これが熱中症一歩手前ね、と嘯いた。

熱が下がったのに、うちの犬は飼い主の私を避けている。様子を見にきた叔母や母に玄関で放たれても、ちょっとこちらに駆け寄ってはすぐに玄関から出て行ってしまう。「病人が嫌いなのよね、うちの癒し犬は」とそのつれなさに呆れていた。

熱も下がった時点で耳鼻科に行ってみた。今までは発熱外来にマスクをしながら高齢の親に車で送ってもらっていた。
この日ばかりはなんとなく一人で運転して、初めての耳鼻科に行った。副鼻腔炎なるものを疑って、更年期に始まったいびきの相談もしようと思った。
診察室に着くなり、思い切り綿棒を鼻に突っ込まれた。今までで一番痛いインフルエンザとコロナの検査である。当初の待合室とは違う仕切りのあるところで待機させられた。結果、うっすらと陽性だ。医師にとってはうっすらではないらしい。

一人で運転することになったことに合点が行った。うちの父は運が良い。普通ならば連れて行って、と頼むのに何故かそうならなかった。自宅に戻って車の換気をして、アルコール消毒をした。発症してからうちの両親との接触は最低限だった。しかもうちの両親は一年前くらい前に二人で軽度なコロナにかかっている80歳だ。犬も同じような理由で私を本能的に避けているのだろう。熱が下がった時点で一度帰宅してうちで寝たとはいえ。

言われてみれば、鼻詰まりでも経験のないような嗅覚の鈍化を経験してた。

カカオ茶で葛湯を作ってみよう、と思い立った時、薄甘い葛の味はするけどチョコレートの味がしない。カルダモンティーを入れたら、カルダモンのつぶつぶが苦いだけで薫りがない。ヨーグルトにシナモンをふっても何の味の変化がない。 

暑さで香りが飛んだか?へんなの。

熱が下がったからといってランチに出かけた事にもコロナによる判断力の衰えを感じる。ブレインフォグだ。いつも美味しいフレンチベトナミーズのランチフォーが美味しくなかった。唐辛子を効かせた。

ルームスプレーを噴射してみても変化を感じない。ミントの精油を鼻のそばに持ってくる。トンネルのはるか向こうから匂いが手を振っている感じ。ラベンダーの精油はほとんど感じ取れない。

クローブが入っているガラス瓶の蓋を捻って開けても、奥深くに香りが埋まっている。二度目に嗅ぐともはや何の香りもしない。くるしい。息は吸えているのに、嗅覚が刺激されないことが息ぐるしい。

これが嗅覚障害か。

味覚はあると思うのだが、フローズンヨーグルトでさえ味がぼやけている。そのくせちょっと苦いとんがりがある。フローズンバナナ、豆乳、ココアで作るヘルシーアイスも薄甘くて冷たい物体だ。自家製天然酵母を使っている近所のパン屋さんのレーズンパンも粉っぽくて味が平たい。

「オロナミンCに香りを付けないと飲めたものじゃない。香りって大事なんだなって思った」とカカオ豆からチョコレート作りをしたイベントを振り返ってTさんが言っていた。ふーん、と聞いていた事の意味を痛感する。

まずいオロナミンC。オロナミンCに香りなんてあったんだ。バナナにも匂いがあったんだ。

かなしい。

匂いがしない、ってこんなに閉塞感があって悲しい気持ちになるものだったのだ。

それは、ふと金木犀の香りがして「ああ、秋だ」と息を吸い込むことの逆。コーヒーの香りが漂ってきて、朝と共に一日が始まるぞという意気込む感覚の逆。生ごみの処理をしながら、ちゃんと消毒して綺麗にしなきゃという感情が起こることの逆。

無味無臭と無感情。その寂しさ。

庭のコンポストが臭いよー、と文句を言っていた昼下がり。臭いで汚れを感知していたトイレ掃除。犬の体調をおし測る庭での糞の後始末。臭いって生きていることにこんな密接なんだ、と失ってみて思う。別に普段から意識していたからって嗅覚障害を防げたものではないけど。

早くこの状態から抜けたい。これからは臭いと思っても嗅覚に感謝します。

そしてキッチンに行き、クローブ、カルダモン、シナモンの順番で匂いを嗅ぐ。一日に何度もその感覚を確かめる。その微かな変化で、自分が閉じ込められているうまくもまずくもない食堂から脱出できる日を指折り数えている。

ああ、この日は部屋中にカカオの芳しい薫りが充満していたな。

スキすると薄情な癒し犬が出てきます!よろしくお願いします。

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